ようやく落ち着いた気がする。
窓から見えるのは空中庭園、新梅田研修センターのネオンサイン、
大阪の夜景はオレンジの灯が多い。
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大阪駅の構内からのびている何本もの路線、
電車の「ガタゴト」「ガタゴト」という音が一晩中、眠るまで聞こえている。
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病院につく前は、「ドナドナの唄」がアタマの中に
鳴り響いていた。
人間から動物にかえられてしまうような
妙な錯覚があって。頼りない気持ちになったのはどうしてだろう。
なんで仔牛ー、
真っ暗な荷台に乗せられた仔牛の、濡れそぼった真っ黒な瞳、
枯れ草が湿ったムッとする臭い。陰気で重たい雲が被さってくるグレーの空、が頭を過ぎる。
大阪中央病院、12階。個室「412号室」。
1時半に入院して、麻酔科の先生の説明と
後は夕方、担当医師が顔を見に来てくださる。
佐伯愛先生です。
ショートカットで、ノーメイク。
やさしい表情で
少年のような、クールなオーラだった。
誠実な受け答えと、まっすぐな瞳で、
こちらをみてくださるので
いっぺんで信頼を置いた。
おそらく、少しだけ低くて静かな物言いが、
たまらなく好きだ。
「ええ、…はい、いいでしょう」と毅然とした語り口。
今日と明日はほとんど用がない。
贅沢にじかんだけは、
たっぷりとある。
持ってきた本を読んで、
昨日iPhoneにいれた音楽を聴いて
文章を書いて、
時々ニュースやドラマを見て過ごしてみよう。
それとも、ふだんしたくても出来なかったことだけをして、過ごしてみようか。
出産以来の小さな修行の旅のようだ。