月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

8月31日(金) ノスタルジーにくれる夏の終わりに

2018-08-31 23:55:57 | 春夏秋冬の風


8月31日(金曜日)

毎年のように、8月の最終週はノスタルジーでいっぱいになる。

夕方にザーッと強く降った細い雨も、その後のコオロギとスズムシの鳴き声が冴え渡っていたのも、ひんやりとした湿気の中の夜の散歩も。

どこか昨日とは違って特別に思えるのは、今日が8月31日だから。

こうしてノスタルジーにかられるのは、きまって夏の終わり、というのは一体どうしてなのだろうか。

遠い昔の海水浴で。夕方近くになった頃、私の唇は紫色で、人もまばらになる頃。
ついに見かねた父が
「さあ、上がろう、行くぞ!」と強い口調で諭すも
もう少し、もう少しと、ぐんぐんと沖のほうをめがけて平泳ぎして
往生際の悪かった自分を思い出す。








夏。あちこちへ出掛けもしたけれど、今思い出すのは
三ノ宮へ、大阪の大国町へ、本町へ、奈良、京都へとふーふー汗をかきながら取材のために出て行って、ひたすら原稿を書いていた日々がいっそう脳裏に浮かぶ。


中でも、奈良でしか収穫できない高級ブランドいちご「古都華」を育てる生産者さんを訪ねた時には、ひときわ暑い日にもかかわらず、ビニールハウスの中で1時間も話しを聞いたら、もう頭の中も沸騰しそうで、情熱的に仕事をこなせた。

その後、カメラマンさんにお送りいただいて奈良町へ私を落として頂いた。
入道雲がもこもこと沸き立ち、たーっと汗が足を伝って落ちる。
喉が渇いて仕方なかったけれど、とびきりの涼味を、とひたすら我慢するも、奈良人に教えてもらった店はふたつとも閉店(その日は火曜日)。





結局、中谷本舗のゐざきの柿の葉寿司をおみやげに買って(茶店で4つほどいただく)
氷室神社側で大和茶金時のかき氷を食べ、再び、奈良町を歩き回った日は、降って湧いたような夏休み気分で。
一人っきりだったけど、心愉快だった。

夏の始まりっていつだったんだろう。
桜の季節が終わりをつげて太陽がワントーンキラキラ輝きはじめた頃(4月の終わり)。
あの頃からもう夏にむかって、前のめりにぐんぐんと漕ぎ出していくのではないだろうか。
そんな季節も、今日(8月31日で)ピリオドを打つ。

明日から、秋を素通りして、師走の冬にむかってぐんぐんと私たちは漕ぎ出していくのだ。たおやかな季節の折々を引きつれて。

明日も今日の続きの日である幸せよ。
「夏よ行くな。秋よ、まだ来るな」