月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

温泉へ行きたい。「あらや滔々庵」

2013-09-22 01:39:40 | どこかへ行きたい(日本)
思い出したように、セミが鳴く時がある。

ミーン、ミーン。セミだ。ガンバレ!と応援したいのだが、10分も鳴くとフェードアウト。
昼の太陽は容赦なく照りつけているのに、その甲斐もなく、
こうやって夏のセミはいつのまにか姿を消すのだね。

替わって鈴虫やコオロギやらが秋の気配をいっそうかきたてる。
先日、植栽の害虫駆除の消毒があったのだか、いくらか、残ってくれてホントに良かった。

昨今、旅。旅と書いているので
春に旅した時のことを思い出しながら記録しておこうという気になった。

娘のNと母とわたしの、三世代で山代温泉へ出掛けたのは桜の咲く前(いつの話よ・笑)。
通年ならウールのコートが必須であるはずなのに、温暖化の影響か
今年は腕を抱いてさするような肌寒さもなく、薄手のセーターにスプリングコートという服装で、
温かな陽気のなかを出掛けていったように記憶している。

特急サンダーバードで、大阪から加賀温泉までは約2時間30分。

小さな駅。北陸の風は冷たい。
ロータリーには旅館の専用バスが次から次にきて、番頭さんが歓迎の旗をもち、客を乗せては温泉街まで送迎していた。

私たちは、昼過ぎに到着したので、何かお腹にいれておこうと駅の案内で「ここらで、軽食をおいしく食べさせてくれる店はないですか」と聞く。
案内されたのが、寂れたショッピングセンター(平和堂)の一番奥にあった「澤屋」。
そば処なので、とろろ蕎麦を注文。
チェックインの時間までショッピングセンターでお土産ものをみて時間を潰し、宿に電話して迎えにきてもらった。

山代温泉街は、少し寂しそうな小さな街だ。
15分も歩けば端から端まで歩けそう。
大きな旅館がポツリポツリと目立つなかで、私たちが選んだのは
「あらや滔々庵(とうとうあん)」。湯量が山代随一だそうである。





中心街に位置し、真向かいには共同浴場の、「総湯」。



そして、みやげもの屋が10軒ほど軒を連ねていた。

あらや滔々庵は、
小さな趣のある宿で、歴史は古く藩政時代より18代続く老舗宿。源泉発祥の地である。
魯山人は、この宿の15代目、源右衛門と親しく交わったそうで、数々の書画や看板、赤皿などを注文されていたとか。
館内には「いろは屏風」や「暁烏のついたて」をはじめ、陶芸作品がロビーや玄関口に飾られていて、魯山人ゆかりの宿とされている。





ロビーでお茶の接待をうけ、5階へ。小さな宿なのでエレベーターも4人も乗ればいっぱいだ。
狭い畳敷きの廊下は、決してまっすぐではなく所々曲がりくねっていて面白い。
各階に3室ほどしつらえられていた。

部屋は、2間続きであって、古いがよく掃除が行き届き、12畳ほどの間は広縁。
ホワイトのレザーソファーにどっかりと腰掛ければ、迫りくる小さな山がそこ。
季節の木々や竹林は
さわさわと葉音をたて、それが心地よくて、緑のにおいがした。






中年の女中さんは、いい感じの人で、話好きだ。
母は長年旅館業を手伝ってきたので、もう懐かしくてたまらないようで、ものすごく饒舌に。
女中さんと数分で打ち解けあって、愉しそうだった。
ここでも、抹茶と金沢の菓子の接待を受ける。



これから、近くの陶器市でもひやかそうかと思っていたが、
娘のNが「加賀伝統工芸村 ゆのくにの森」で絵付けがしたいと切望するので、
20分も車に揺られて、目的地へ。
茅葺の古民家を移築した伝統工芸村は、森を切り開いてつくられた13万坪の敷地。いわゆるテーマパークのようなところ。

各工房では、友禅染・ろくろ回し・上絵付・金箔貼りなど50種類以上の伝統工芸の体験ができるというが、金箔貼りの塗りの皿に挑戦!
みやげもの屋やらを幾つかみて、
2時間ほどで後にした。


あらや滔々庵に戻ると、さっそくに「瑠璃光」という浴場へ。



ゆかたの上には丹前を羽織って、ゆらりゆらりと廊下を歩いて、1階へ降りる。





ガラリと木のドアをあけると、硫黄の湯煙。硫黄の湿気。
檜の湯淵に、ヒバの壁板。
古くて趣があり、それは洞窟のようでもあり、広すぎず狭すぎず、
まあ落ちつくこと。
露天風呂は眺めよし。浸かってよし。
木々と緑と小さな滝から、山の気配がたちおりてきて、それが湯の香と相まって、ほっーと。気持ちいい。
もちろん、サウナも併設である。

泉質は、ナトリウムとカルシウムの混じった硫酸塩・塩化物泉。
やわらかくて、軽い湯だったように記憶している。
九州の黒川温泉のようなどっしりと重たい薬師の湯ではなく、1日に何度でも入りたくなる軽い泉質。美人湯だという。

浴場から上がれば、さすが老舗宿。
出たところで、シャンパンやえびすビール、コーヒー、お茶が無料サービス。
湯浴みの後の休憩場も広く、椅子にかけてあたりを眺めるしつらいが随所に用意されていた。
「食事もあるので、やめなさい」と
母にいわれたが、ついシャンパンを1杯だけくっーと飲んで、あー、たまらない!と声を上げて
部屋に上がった。

つづく)

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
異次元の時間 (しろくま)
2013-09-29 08:22:49
温泉街いいですね~
日頃とは違う目前に出現する風景…
心をリセットできて明日から新しいスタート!
旅はいいものですね。

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そうですね (アンデル)
2013-10-01 17:12:35
旅に出ると、現実から離れてほんまの自分に出会えます。温泉は大好き。ホントなら1月1回くらい行きたいわ。そんな仕事、こないかな…。
以前、スーパー銭湯の企画して、1年間連載したことあるけれど…。
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ちょっとした変化 (しろくま)
2013-10-07 09:12:16
スーパー銭湯もいろいろありますね…。
近くでは落ち着いた木造っぽい建物で廊下まで木張り、個々にテレビのついたリラクゼーションルームもあって(収容40人くらいかナ)みやげものや飲食もできて、中はちょっとした旅館みたいになってます。
いい感じです。
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そうね~ (アンデル)
2013-10-07 11:40:10
毎回、名旅館とはいかないもの。
スーパー銭湯も、雰囲気ある造りが多くて、
なかなかですよね。問題はお湯の質ね。
時々、温泉顔負けの泉質に出会うと、うれしいわ。
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いいものに出会う☆ (しろくま)
2013-10-08 13:50:11
近くのは一応温泉なんですょ!
低張泉・弱アルカリ性、低温泉
本格とまではいきませんが、
肌もなんとなくスベスベです!
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温泉は最高 (アンデル)
2013-10-08 22:21:26
温泉は最高。大好きです。
その土地に行くと温泉と市場へは足を運びたくなります。海外の温泉へも行ってみたいな。
BSでそんな番組を時々みます。
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