荷風散人、齢六十七の『断腸亭日乗』昭和二十年の日誌より。
目に映る箇所を、1月から2月の頃を、適当に抜粋せり。
曇りて風なし。この日誌も今は数重なりて二十九巻とはなりぬ。
寒気甚だし。黄昏に去る。
晩間細雨やがて雪となるべし。
日はいつか傾きまた晩飯の仕度すべき頃とはなるなり。
今年の冬ほど読書に興を得たること未だ嘗て無し。
宵月の光冴え渡るころとなれり。七八日ころの月なるべし。
余が偏奇館もいつ取払の命令を受くるや知るべからず。
雪もよひの空寒し。台所の水晝の中より凍りて解けず。
雪いつか積りて空は晴れたり。
空しく家に帰へれば日は徐ろに暮れんとす。
夕焼けの空いかにも春らしくなりしが風猶寒し。
古雑誌を閲読して深更に及ぶこと毎夜の如し。
むかしを憶うて暗涙を催す。
日光漸く春らしくなりて裏庭の残雪も解け失せたり。
午に近く眠よりさむるに灰の如く雪降りゐたり。
晴れて日光少しく暖になりぬ。
以上、抜粋なり。
目に止まりたる表現を少しばかり書き留めんと思いしが、やや数多くなり果てつ。
古語文の感興、新鮮に思ゆ。
甚だ愉快なり。たまにしてみんとするなり。
目に映る箇所を、1月から2月の頃を、適当に抜粋せり。
曇りて風なし。この日誌も今は数重なりて二十九巻とはなりぬ。
寒気甚だし。黄昏に去る。
晩間細雨やがて雪となるべし。
日はいつか傾きまた晩飯の仕度すべき頃とはなるなり。
今年の冬ほど読書に興を得たること未だ嘗て無し。
宵月の光冴え渡るころとなれり。七八日ころの月なるべし。
余が偏奇館もいつ取払の命令を受くるや知るべからず。
雪もよひの空寒し。台所の水晝の中より凍りて解けず。
雪いつか積りて空は晴れたり。
空しく家に帰へれば日は徐ろに暮れんとす。
夕焼けの空いかにも春らしくなりしが風猶寒し。
古雑誌を閲読して深更に及ぶこと毎夜の如し。
むかしを憶うて暗涙を催す。
日光漸く春らしくなりて裏庭の残雪も解け失せたり。
午に近く眠よりさむるに灰の如く雪降りゐたり。
晴れて日光少しく暖になりぬ。
以上、抜粋なり。
目に止まりたる表現を少しばかり書き留めんと思いしが、やや数多くなり果てつ。
古語文の感興、新鮮に思ゆ。
甚だ愉快なり。たまにしてみんとするなり。