あすか塾

「あすか俳句会」の楽しい俳句鑑賞・批評の合評・学習会
講師 武良竜彦

あすか塾 65  2024年・令和6年9月

2024-09-17 14:38:38 | あすか塾 2024年

   あすか塾 65 

       《野木メソッド》による鑑賞・批評              

        「ドッキリ(感性)」=感動の中心

        「ハッキリ(知性)」=独自の視点

        「スッキリ(悟性)」=普遍的な感慨へ

 

 野木桃花主宰九月号「古書漁る」から

古書漁る初老の背中西日濃し

 

 古書と初老の背中の取り合わせに詩がありますね。落ち着いた古書店内の雰囲気まで伝わります。そこに西日が射しています。本の種類まで想像されます。

小鰡(おぼこ)いま海に帰るよ列なして

「おぼこ」という呼称は鰡にかぎらず幼いものへの愛称のひとつですね。鰡は群れをなして回遊する魚で、基本的には海水魚ですが、幼魚のうちは河口や内湾の汽水域に生息します。しばしば大群を成して淡水域に遡上します。産卵期には外洋へ出て南方へ回遊します。この句の「小鰡(おぼこ)」はその時期になったのでしょう。

新涼や早世の母の小引出し

 中七の「早世の母」ということばで、母の遺品に対する作者の慕情が伝わりますね。新涼の和室に置かれた文机の「小引出し」、風情がありますね。

秋雷や耳聡くゐる真夜の窓

 中七の「耳聡くゐる」のやや古風な言い回しに、しっとりとした情感がありますね。雷鳴と、今いる場所との距離という、音響的空間の広がりを感じ取っていることが伝わりますね。

苦瓜に力授かる影法師

 苦いのを好んで食べるのは大人になってからです。子どもたちは多少の暑さなんか平気で、苦いものは毒の味がして敬遠するのでしょうが、大人はあの「苦味」に力を貰っているのですね。下五の「影法師」は夏負けぎみの人影でしょうか。

 

白鷺の一足毎を見て飽かず       柳沢初子

川の浅瀬をゆっくり歩く白鷺の姿。涼し気で、そのスローモーションのような動きはたしかに、見飽きませんね。

祭笛袖に残りし仕付糸         矢野忠男

小さな子どもの祭浴衣が浮かびますね。母が急いで支度してくれた、祭の陽気な気分も伝わります。

田植終え水の匂ひや村寝落       山尾かづひろ

田一面に水が張られて、その匂いが村いっぱいに広がっているような、清々しい田園の風景が浮かびます。夜、そんな空気に包まれて村全体が眠っているようです。

みどり児の笑みやはらかく柿若葉    吉野糸子

「笑みやはらかく」が、嬰児の表現としてすばらしいですね。季語の「柿若葉」の早緑も爽やかですね。

バスしばし女を待てり青田風      安齋文則

「客を待つ」ではなく「女を待てり」。いろんな場面が想像されますね。作者が男性なので、恋人を待っている気持ちを、停車しているバスに投影しているのか、女同士の一人がバスに乗り込もうとしていて、なかなか別れの挨拶が終らないでいる景を表現しているのか、読者、それぞれに想像するでしょう。

大ぶりの形見の壺に雪柳        磯部のり子

元の所有者の愛用の大壺だったのでしょう。綺麗な焼き模様のついた壺を想像します。「雪柳」というあの細やかな花に、譲り受けた作者が、壺を大事にしている気持ちまで伝わります。

源流の始まりはここ苔の花       大木典子

大河の一滴、とよく言いますが、その始まりは山奥の岩場の苔から滴る一滴が、その始まり、ということもあるでしょう。想像するだけて清々しい気持ちになります。「ここ」と指し示している表現がいいですね。

父の日や土間に槌音藁のおと      大澤游子

雪深い東北地方における、農家の冬仕事を思いかべますね。「今」の景ではなく、作者の心の原風景のように感じました。藁仕事をしているのは父でしょうか。

紫陽花の一毬点る朝の卓        大木 尚

尚さんは、句の中心にきらりと光ることばが置かれているような表現をされます。この句の命は、「一毬点る」ですね。他の言い方に替えることのできない冴え渡る表現の技です。朝の「卓」に添える爽やかな彩りです。

甦る亡妻の笑顔やさくら草       風見照夫

さくら草の可憐な佇まいに、亡妻の笑みを思った、という愛妻句ですね。死別されてもなお深まる愛情が伝わりますね。

隠り沼に微かな流れ浮巣かな      金井玲子

ふつう隠り沼というと、鬱蒼とした藪の中に埋没しているような沼地をイメージしますが、ときには思いがけないほど澄んだ水を湛えている小さな池のような沼もあるようです。そこに鳥の浮巣を発見したという句ですね。鳥がそこでひっそりと子育てをしてるような雰囲気ですね。

屋形船小唄流るる川開         近藤悦子

大型の屋形船はふつう内部が和室形式のものが多いですね。その「和」の感じと「小唄流るる」がぴったりの句ですね。あの切れのいい弾む音が聞こえます。

聖五月菓子鋪を継ぐと三女決め     坂本美千子

聖五月はカトリックのマリアの月のことですから洋風のことばですね。この句の「菓子鋪」は和菓子の店を想像します。その和洋折衷の表現と、その後継者たらんと表明した「三女」の取り合わせに味わいがありますね。

解体のビルに宙吊り春の月       鴫原さき子

まるで工事現場の大型クレーンで、「春の月」が吊り上げられているような意表をつく表現ですね。稲垣足穂の幻想短編小説のような世界ですね。俳句はこんな世界も表現できるところが愉しいですね。

掘りて来し筍ほいと呉れにけり     摂待信子

筍が豊作だったのでしょうか。気前よく分けて貰えたことを「ほいと」の擬態語で表現したのがいいですね。筍掘りをした方の視点でいうと、その楽しさを人と分かち合いたくなったのかもしれません。

残雪の大山火口空の旅         高橋光友

 鳥取の名峰、「大山」の景でしょうか。それがまだ残雪に覆われているのですね。空撮のような爽快さを感じる表現ですね。

白靴を片手に提げて由比ヶ浜      高橋みどり

素足になって由比ヶ浜を歩いている、爽やかな景が浮かびますね。「白靴」は三夏の季語ですが、それを浜辺歩きの表現にしたのがいいですね。足裏の砂地の感覚、足首を濡らす海水の冷たさが伝わります。

夕暮れの白靴ばかり目立ちけり     服部一燈子

夕暮れの薄闇せまる景の中では、ものが青っぽく見える現象をプリキニェ現象といいます。その中で明度を保つ白靴の白は一際目を引くことでしょう。その感覚を敏感に捉えた表現ですね。

葱坊主太りて列をはみ出して      宮坂市子

実際に農作物を愛情をこめて育てている人の眼差しを感じる表現ですね。まるでワンパク少年を見ているような優しさを感じます。

外階段ジグザグのビル雲の峰      村田ひとみ

現代俳句は「自然」よりも、「環境」を詠む、という方が相応しく、視点が深くなるような気がします。ひとみさんはそんな都会の一コマを切り取って詠むのが得意ですね。「雲の峰」とビルの外階段のジグザグが取り合わせられた表現は、はじめて読みました。

 「あすか集」九月号から 感銘好句

マスカットさくっと歯ざわり誕生日   久住よね子 

「さくっと」という擬音語はふつう、硬さのある梨か林檎のような果物を連想しますが、この句はなんと「マスカット」です。品種改良された大粒のものでしょうか。下五が「誕生日」。前向きの気分で迎えていることが伝わります。

掛香や露地の小暗き潜り門       紺野英子

掛香(カケゴウ)は匂い袋で、夏の季語ですね。調合した香(こう)を絹の小袋に入れて室内にかけたり、紐をつけて首にかけたり、懐中にしたりします。碧梧桐に「掛香や派手な浴衣の京模様」があります。掛香を懐中にした和服の女性が「露地の小暗き門」を潜っている和風の景が浮かびますね。

結界の向かう色濃く花菖蒲       齋藤保子

結界は聖なる領域と俗なる領域を分ける境ですね。神社仏閣にはそのような立ち入り禁止の場所があります。この句はその結界に花菖蒲がひっそりと咲いているのを見た感慨の表現ですね。「色濃く」で一際鮮やかに目に飛び込んできたのでしょう。

万緑の底に一村ひそとあり       笹原孝子

 昔ながらの落ち着いた村落の景でしょうか。「ひそとあり」に作者の感銘が込められていますね。

師は僧侶徒然草の夏期講座       須賀美代子

「徒然草」は兼好法師が書いた当時は注目されず、百年後、僧侶たちが無常観の随筆として評価し広めたものですね。その何百年後の現在、僧侶からその講義を受けているのですね。それが特別な「夏期講習」で、作者の向学心が窺がえますね。

開発史苔むす石碑観音堂        須貝一青

 代表的なのは北海道ですが、日本の各地に、この句のような開拓史の記念碑を見かけます。当事者、関係者はもう亡くなっていて、直接、その苦難の体験談を聞くことはできず、ただ苔むす石碑だけが佇んでいます。深い詩情がありますね。

明易し煎餅布団の旅枕         鈴木 稔

 現代の新しいホテルではなく、地方にある昔ながらの鄙びた旅館の景ですね。ホテルなら「トラベル気分」ですが、「旅枕」という「旅情」には、そんな宿の煎餅布団、というのが似合いますね。

嗄れて何かありさう梅雨鴉       砂川ハルエ

自然の生きものの声をよく聞いている俳人ならではの視点の句ですね。一羽一羽違う声をしていますね。その中に一際、嗄れ声の鴉がいたのでしょう。人間なら「風邪ひいたの」と問うところでしょうか。その心配そうな表現に温かさがありますね。

大いなる象のひづめや暑を洗う     関澤満喜枝

下五の「暑を洗う」という、大きな生きものを介して、その風景全体を丸洗いしているようなイメージが喚起されて、とても独創的ですね。

振り向けば友みな遠し半夏生      高野静子

上五の「振り向けば」は、俳句には向かない説明的な表現になりがちですが、この句は例外的に心理描写として成功していますね。距離的な遠さではなく、時間的な距離感も詠みこんだ感慨の表現になっていますね。ちなみに、下五の「半夏生」は季節を指す季語のことばで、その名の由来は、半夏と呼ばれる烏柄杓という植物が生え始める時季だからといわれています。だから「半夏生」を植物の方として詠むのは正確ではないのですね。「半夏」という植物に由来する季節の名なのですね。

待合室の番号点滅梅雨の雷       高橋富佐子

特定はできませんが、大きな病院での診察か薬の処方か、最後の清算窓口の順番を、待っているような景が浮かびますね。その番号表示の点滅と、雷鳴の閃光が室内でも感じられ、二つがシンクロしているのでしょうか。迫力がありますね。

夏木立透けて遥かに南部富士      滝浦幹一

「透けて」ですから、あまり植生の密度の高くない、その向こうが見えるほどの立木の列でしょうか。その遥か向こうに南部富士が見えているのですね。清々しさを感じる句ですね。

りんどうや槍・穂高より上高地     忠内真須美

上高地からや槍ヶ岳、穂高岳が見えている景の逆で、山の方から上高地を見下ろしているのでしょうか。上五の竜胆(りんどう)は作者の眼前にあり、その大きな遠近感が清々しいですね。実際に登山されたのでしょうか。

とれたての茄子ラタトゥイユ大き鍋   立澤 楓

ラタトゥイユは、フランスのニースの郷土料理で夏野菜の煮込み料理。食材は茄子、玉葱、パプリカ、ズッキーニとトマト。オリーブ油で炒めローリエ、オレガノ、バジル、タイムなどの香草とワインで煮込みます。夏らしい大鍋料理ですね。

何時もここに風を集めて木下闇     千田アヤメ

温度差があるところに風が生まれます。それは気象物理学の知識ですが、この句で風が生まれているのが「木下闇」。それが人格化されて「風を集めて」いるというのが詩的ですね。身近なところに、そんなほっとする場所があるのでしょう。

戦場のやうにぎしぎし総倒れ      坪井久美子

「ぎしぎし」(羊蹄)は市街地周辺から山地の、やや湿ったところに群生していますね。その「ぎしぎし」という名が、物の擦れあう擬音を連想させます。戦場と、兵士たちの倒れる姿への想像の飛ばし方が冴えていますね。

軽暖やチチチと空へ番鳥        中坪さち子

軽暖は初夏の季語の薄暑の子季語ですね。日常語ではなく改まった書状などの季節の挨拶文などに使われています。この句は初夏のやや汗ばむほどの暑さの中、つがいの鳥が空に舞い上がっている景を詠んで、爽やかですね。

向日葵や日焼けを嫌う君といて     成田眞啓

この句の「君」はいろいろ想像させられますが、作者の愛する大切な人であることは、「日焼けを嫌う」という表現で推測されますね。

椅子を足す大道芸や春の空       西島しず子

ちょっとした屋外の広場、または大きなショッピングモールのイベント用の空間が想像されます。人が集まるほどの人気のショーになって、関係者が椅子を増やしているのでしょう。その場にいるような臨場感のあるたのしい句ですね。

白南風や翆嶺筑波凛と座す       沼倉新二

梅雨が明けるころ吹く明るい白南風、青々とした翆嶺・筑波山の姿を「凛と座す」と、趣のあることばで表現した句ですね。目に浮かびます。

驟雨去り目元すずやか笑み仏      乗松トシ子

驟雨が去ったばかりですから、まだ濡れているのでしょう。多分、路上の地蔵菩薩でしょうか、その姿が涼し気に感じられたのですね。それを「目元すずやか」とひらがな表記で表現したのがいいですね。

夏燕駅の構内賑わせり         浜野 杏

燕は人間が保護してくれることを学んでいるのか、家はもちろん、施設によく巣をかけて子育てをします。この句は人の行き交う駅構内を賑わせているのですね。作者のまなざしに温かさを感じますね。

のうぜんの花百咲いて百落ちて     林 和子

実数ではなく、俳句的な表現で「百」を重ねて詠んで趣がありますね。のうぜん (凌霄)はオレンジ色で漏斗状。樹木や塀に絡まって咲きます。咲いた先から次々に散るので周りが華やかになりますね。ひらがな書きにしたのが効果的ですね。  

目覚むれば右手に団扇持ちてをり    平野信士

作者はもちろん右利きでしょうか。昼寝で団扇を使っていたことすら忘れて熟睡したのかもしませんし、ちょっと仮眠だったのかもしれません。こう表現すると大らかなユーモアが感じられますね。満ち足りた睡眠だったようです。

梅雨近し薬も効かぬ天気痛       曲尾初生

飲んでもその効果のない、鎮痛剤をむやみに服用したくない症状であるだけに、作者の我慢のほどが伝わる表現ですね。

植田波雲およがせて青々と       幕田涼代

水の張られた植田の水面に映った白い雲が、空の青、稲の緑の中を流れてゆくように見えている景ですね。それを人格的に表現して、爽やかですね。

蝋引きて雨戸するする矢車草      増田綾子

今どきのアルミサッシ戸ではなく、古民家ふうの木造の雨戸が想像される句ですね。その庭先に「矢車草」を配して、夏らしい一コマの表現にされました。

法螺を吹く学友と居て大花火      水村礼子

下五の「大花火」の「大」が上五の「法螺」に引火して「大法螺吹き」に感じられる、大らかなユーモアのある表現ですね。作者はそれを許し、楽しんでいるようですね。

梅雨明けや悪しき名めげず悪茄子    緑川みどり

悪茄子(ワルナスビ)は悪い茄子ではなく、別の帰化外来種ですね。俳句誌でこの語を使った句を「悪い茄子」と誤読して、面白がっている評を読んだことがあります。地下茎を張ってよく繁茂し、地下茎のひとつひとつから芽が出て増殖します。一度生えると完全に駆除するのは難しいやっかいな植物ですね。

万緑や連なるバスは南へと       望月都子

行く先をただ「南へと」と、句の結びにして、余韻がありますね。「北へ」だと、探索の旅のような雰囲気になり、「南へ」は明るく楽しい雰囲気になりますね。俳句的なことばの魔術ですね。修学旅行を想像しました。

清流の青苔織部思ほゆる        保田 栄

この句の「織部」はもちろん、織部焼のことでしょうね。清流の岩の苔の色に、その焼物の味わいを見出している表現ですね。滋味のある句になりました。

保線員音聞いて行く五月晴       安蔵けい子

爽やかな五月晴れのもと、電車の線路の保線員が「打音検査」という熟練技で点検をしている景ですね。その音の響と空気感まで伝わる句ですね。

烏の子アワアワアワとねだりをり    内城邦彦

「アワアワアワ」という擬音表現から、鳥の種類をいろいろ想像させますね。小鳥系ではなく、烏のような体も嘴も大きい鳥のようです。下五の「ねだりをり」という幼児的なようすの表現で、作者のやさしいまなざしを感じる句ですね。

蝉時雨俗世の音を奪い取り       大谷 巌

「俗世の音」を消すほどの大音響の蝉時雨が想像される句ですね。高温の続く真夏日、猛暑日の異常気象で、蟬時雨をあまり聞かなくなりました。それが聞けなくなる「静けさ」は、逆に心配ではありますが。

句作りは生きる杖なり百日紅      大竹久子

生きる杖という表現に味わいがありますね。一行書きの俳句は、まるで一本棒の杖のようでもありますね。作者には心の杖なのですね。花の時期の長い百日紅との取り合わせもいいですね。

夏草や約束通り共白髪         小澤民枝

口に出してした約束ではなく、以心伝心の、心の通い合うご夫婦の、心の約束なのですね。そんな思いも包みこむ「共白髪」という慣用句もいいですね。それを夏草という生命力のある季語と取合せて「約束」と表現したのがいいですね。

姿変えたコロナ猛暑の収まらず     柏木喜代子

姿を変えて感染を拡大するウイルスと、地球温暖化という猛暑、酷暑と被害の拡大を取合せて、読んでいて、その危機感に汗が滲む表現ですね。

残照に際立つ新緑能登瓦        金子きよ

これは被災地への励ましの句でもありますね。震災時に木造建築の屋根瓦は、その重さで被害を大きくするという報道がありますが、能登瓦は光沢のある黒色が特徴で、通常の陶器瓦は表面のみ釉薬を塗りますが、能登瓦は裏面まで釉薬が塗られています。理由は耐寒性、耐塩害性の向上で、その景観は美しく能登のほこりなのですね。この句はそれを際立つ新緑と取合せて、心の声援を送っているかのようです。

小半日無心で洗う辣韮かな       神尾優子

小半日もかけて辣韭を洗っているのですから、それを栽培している農家を想像する句ですね。その無口で直向きな姿に趣がありますね。

ぬったりと風串差しの岩魚の眼     木佐美照子

上五の「ぬったりと」が意表をつく質感のある表現ですね。岩魚の身を貫いているのが串ではなく、風という表現が独得ですね。最後は岩魚の眼へのクローズアップ。観念しているような雰囲気ですね。

惜春や名所となりし無人駅       城戸妙子

名所になったことの中に潜む、過去の栄華の記憶を持つが故の一抹の寂しさ哀しみを繊細に詠みこんだ表現ですね。俳枕になって有名になった場所を訪れると、そんな気持ちになることがあります。上五の「惜春」が効いていますね。


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