それまでも他のアーティストが霞むほど良い詞を良い曲を書いてきたMorrisseyとJohnny Marrですが、このアルバム「The Queen Is Dead」はポップで非常に分かりやすいアプローチでした。
とくにMorrisseyのアイロニカルで少し倒錯したユーモア感覚は、これ以前のアルバムではどこか暗いで片付けられていたようなところがありました。
スポンジと錆びたスパナを手に宮殿に乗り込む「The Queen Is Dead」、音楽の歴史に映画の歴史に名前を刻みたいと言って上司(Mr. Shankly)に辞表を突きつける「Frankly, Mr. Shankly」(語呂が良すぎ)、少し自閉症的な歌詞ですが美しい「I Know It's Over」、20年と7ヵ月と27日も悪い夢から覚めなかったと歌う「Never Had No One Ever」、WildeやKeatsやYatesの名前も出てくる盗作の名言合戦の「Cemetry Gates」(これはThe Smiths版ネオアコ)。
つい言葉が過ぎて恋人を傷つけてしまい、僕なんか人間の仲間入りをする権利すらないと大げさに嘆く「Bigmouth Strikes Again」、人間の機微を歌った名曲「The Boy With the Thorn in His Side」、これぞ変人というくらい滑稽な歌詞の「Vicar in a Tutu」(その汚れた魂をドライクリーニングしろ)、おそらくこの曲を超えるピュアなラヴ・ソングはこれからも出て来ないであろう「There Is a Light That Never Goes Out」(This Charming Manと並ぶ名曲中の名曲)、一見ナンセンスながらもその実深そうな「Some Girls Are Bigger Than Others」 。
「Cemetry Gates」we gravely read the stones(僕たちは厳かに墓碑銘を読む)のgravely、「There Is a Light That Never Goes Out」To die by your side is such a heavenly way to die(君のそばで死ねるならこんな素敵な死に方はない)のheavenlyの使い方はまさに詩人です。
もちろんMorrisseyの書く詞を支えたのは、大傑作セカンド「Meat Is Murder」からさらに進化したJonny Marrの作り出すメロディでした。
当時、The Smithsの曲が流れてくるとステレオをぶっ壊したくなると、ことあるごとにThe Smiths嫌いを明言していたピーター・バラカンですら、映画監督Derek Jarmanが作った「The Queen Is Dead」と「There Is a Light That Never Goes Out」のヴィデオを視聴した後に、The Smithsのカラオケが欲しいと言ったというエピソードもあります。
<収録曲>
① The Queen Is Dead
② Frankly, Mr. Shankly
③ I Know It's Over
④ Never Had No One Ever
⑤ Cemetry Gates
⑥ Bigmouth Strikes Again
⑦ The Boy With the Thorn in His Side
⑧ Vicar in a Tutu
⑨ There Is a Light That Never Goes Out
⑩ Some Girls Are Bigger Than Others