7/13(木) 11:30配信
エリザベス女王の国葬に参列したヘンリー王子(左)とメーガンさん(昨年9月)写真:ロイター/アフロ
洋の東西を問わず人は古来、秘めたる思いを書き残してきた。栄光とスキャンダルにまみれた王室の面々とて、例外ではない。新事実はあるか。AERA 2023年7月17日号の記事を紹介する。
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イギリスでは今、二つの日記が話題になっている。エリザベス女王が昨年9月に亡くなってから、約10カ月が経つ。遺品で特に注目されているのが、日記だ。女王はほぼ毎晩、その日の出来事を日記に書き留めてきた。
各国の君主や大統領、首相ばかりでなく、毎週顔を合わせるイギリスの首相についても触れているだろう。家庭内の出来事なども記されているとみられる。
チャールズ国王(74)は、女王の手紙や日記などの整理に着手した。抜擢されたのが、侍従だったポール・ワイブルー氏。身長が193センチと際立って高いことから「トール・ポール(のっぽのポール)」と呼ばれていた。
目を引いたのは、2012年のロンドン・オリンピック開会式だ。映画「007」シリーズのジェームズ・ボンド役を演じたダニエル・クレイグが、バッキンガム宮殿内の執務室まで女王を迎えに来た。
ワイブルー氏は女王がヘリコプターに乗り込むまで付き添っている。その忠誠心は折り紙付きだ。国王は、日記をじかに読みこむ任務に彼をあてた。一般公開すべきものと差し控えるべきものに分別する重要な役だ。
君主の日記と言えば、ビクトリア女王(在位1837-1901)が知られる。100冊を超えるノートには、大英帝国時代に君臨した君主としての威厳ある姿勢と同時に、愛情深い一面がこまやかに表現されている。
■在位70年の愛憎つづる
エリザベス女王の在位70年をつづった日記は、ビクトリア女王のそれに匹敵する歴史的価値を持つばかりでなく、家庭内のいざこざも書き込まれているとされる。
チャールズ皇太子(当時)とダイアナ妃、ヘンリー王子(38)とメーガンさん(41)のスキャンダルなど、女王が苦しんだ身内の問題についても当然及ぶだろう。
すでに定年で第一線を退いたワイブルー氏は国王の要請で現在、週に2回ほど出勤する。日記の一般公開の詳細はまだ発表されていないが、その時には大きな話題を呼ぶに違いない。
もう一冊はメーガンさんの王室日記だ。2018年5月の結婚式から20年3月の正式な王室離脱まで正味約1年8カ月、王室メンバーだった時のあれこれをつづっている。
表に出すタイミングを計っていたが、ついにその時が来たという判断だ。
きっかけは、20年に約28億円の契約をした音楽配信大手のスポティファイに契約を打ち切られたこと。
自身の番組「アーキタイプス」ではマライア・キャリーなど著名人にインタビューし、女性の頑張りをくじく言葉を検証するはずだった。
名の知れた女性も出演したが、話すのはメーガンさんばかりで、多額のギャラを支払って招いたゲストは口を挟む余地がなかった。
初めのうちは話題にはなったものの、次第に人気が下降した。さらに、フェイクとの評判も立った。
たまたま番組終了後にお礼をツイートしたゲストが、手際が良かったとしてインタビュアーの名前を出したのだが、それはメーガンさんではなく、スタッフの一人だった。
メーガンさんは、有名人がゲストの時は自らインタビューしたが、そうでない時はスタッフに任せ、後から自分の声をかぶせたという疑惑が浮上したのだ。
その結果、本人がインタビューしたかのような仕上がりになった。これについて現時点でメーガンさんから説明や弁明はない。
スポティファイから切られてすぐのメーガンさんに、フランスの高級ファッションブランド、クリスチャン・ディオールとの契約のうわさが立った。ヘンリー王子はディオールのシャツを着用してチャールズ国王の戴冠(たいかん)式などに出席していたのだ。
夫妻そろってブランドの顔になれば桁違いの契約金が転がり込むと騒ぎになったが、まもなくディオールが全面否定した。
■信ぴょう性をアピール
続いて、ネットフリックスも夫妻との契約を打ち切るとの臆測が流れた。夫妻は20年に約143億円の大型契約を交わした後、ドキュメンタリー番組として「ハリー&メーガン」などしか発表していない。
ネットフリックスは、すぐに契約解消は考えていないとしたものの、人気作品を発表しないと2025年の契約更新はできないとほのめかしている。
あわてた夫妻は企画をひねり出す。イギリスの作家チャールズ・ディケンズの『大いなる遺産』のスピンオフ作品を「バッド・マナーズ」と名をつけて提案した。
『大いなる遺産』は19世紀半ばに書かれた名作で、登場人物の一人ミス・ハヴィシャムを、男性に支配された社会で強く生きる女性に変身させるという。
フェミニストを自称するメーガンさんは、彼女を自分の息がかかった人物として甦らせる。しかしネットフリックスから「二番煎じ」として却下された。かつて放送された番組とそっくりだという。
追い詰められたメーガンさんが出してきたのが、日記だった。王室に入ったその日からつけてきたという。
ヘンリー王子はかつて「彼女は欠かさず日記を書いていたから、日時や場所などが正確だ」と日記の信ぴょう性をアピールしていた。
ネットフリックスには、この日記をもとにしたドキュメンタリー作品を提案すると見られる。
■キャサリン妃との因縁
一方、ヘンリー王子は、アフリカをテーマにした作品の制作を考えている。王子は「アフリカは第二の故郷」と言う。イートン校を卒業してサンドハースト王立陸軍士官学校に入学するまで1年間ほどのギャップイヤーを取った。
その時、王子はアフリカ南部の国レソトで王の弟と協力し、エイズなどで両親を失った子どもたちのためにチャリティー団体を設立している。
その後、ダイアナ元妃がかつてアンゴラの地雷が埋設されていた場所を歩いて地雷の危険性を知らせたことにならい、王子も母親と同様にアンゴラで歩いたのだった。
また、メーガンさんと知り合ってすぐに、王子は彼女をアフリカに誘った。テント内で一夜を過ごすと、「メーガンは全く怖がらず、すぐにアフリカが大好きになった」とうれしそうに報告した。
王室離脱後、アフリカに移住する話さえ王子は進めようとした。今回、王子はアフリカで撮影を行いドキュメンタリーを制作するという。ただしメーガンさんは同行しない。
二人がともに行動する「ダブル・アクト」は、ほぼ終わったようだ。今後はそれぞれのソロ活動が中心になるといわれている。
メーガンさんの日記に話を戻せば、ターゲットはキャサリン妃(41)だ。過去には、結婚式でフラワーガールのタイツをめぐってキャサリン妃から泣かされたと訴え、リップグロスを貸してもらうときに妃は不愉快な表情を浮かべたと指摘し、ルイ王子を出産後の妃を「赤ちゃん脳」だから記憶があいまいと決めつけてウィリアム皇太子(41)を激怒させるなど、キャサリン妃への攻撃は手を緩めたことがない。
■ブランド価値を再構築
ヘンリー王子のアフリカものは、母親の足跡をたどって地雷廃絶を訴え、恵まれない子どもたちを支援することなどに焦点を当てる。
ヘンリー王子とメーガンさんはこれまで、「気候変動」「男性社会で虐げられた女性」「無意識の偏見」などを繰り返し訴えてきたが、人々は次第に耳を貸さなくなってきた。
しかし、二人は自分たちのビジネスがうまく回らなくなったのは、「運が悪かったから」と主張する。
離脱後、「コロナ禍」「経済の停滞」「フィリップ殿下とエリザベス女王の相次ぐ逝去」が続いたためだという。
メーガンさんは日記をもとにドキュメンタリーを発表、大手エージェントと組んでメーガンブランドを再構築、スーパースターへとさらに駆け上がりたい。
ヘンリー王子は、好きなアフリカで奉仕活動に打ち込む予定だ。二人のどちらに軍配があがるだろうか。
(ジャーナリスト・多賀幹子)
※AERA 2023年7月17日号
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テニスの四大大会に出場中の選手たちの態度には、明確な理由があった!
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だが、エレガントに登場した王妃に、ロイヤルへの敬意を表すための「ネックバウ(男性が首を曲げて頭を下げるお辞儀)」や「カーテシー(女性が片足を後ろに引いて軽く膝を曲げるしぐさ)」をした選手はいなかった。
故エリザベス女王が観戦に訪れたときには、誰もが必ずそうしていたのだが──。
カミラ王妃はこの日、今大会の試合を初めて観戦。妹のアナベル・エリオットさん、モナコのアルベール2世大公とともに、センターコートのロイヤルボックスに着席した。王妃としてこの席につくのも、初めてのことだった。
また、選手たちが受け継ぐ「ウェアはすべて白」という伝統に従ってか、王妃は白のロングスリーブのドレスを着用。パールのイヤリングをつけ、さらにゴールドのネックレスを重ねづけしていた。
Karwai TangGetty Images
会場にいた選手たちはもちろん、カミラ王妃が姿を見せたことに気づいていた。それでもロイヤルボックスの王妃に誰もあいさつをしなかったことには、明確な理由があるという。
それは、オールイングランド・クラブの会長だったケント公エドワード王子が2003年、ロイヤルメンバーがセンターコートを出入りする際に選手たちが必ずしていた会釈やカーテシーを、「君主との王位継承者のみに対して行う」と定めたこと。
つまり、この時点では「エリザベス女王とチャールズ皇太子に対してのみ行うこと」と決められた。
当然ながら、カミラ王妃は君主ではなく、王位継承者でもない。
誰も敬意を表するための会釈やカーテシーをしなかったのは、この決まりのためだったというわけ(もちろん、王妃の妹にもアルベール大公にも、イギリスの王位継承権はない)。
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