181212 奈良公園のあり方 <差し止め求め提訴「歴史的風土と相いれない」>などを読みながら
今日の毎日ウェブ記事に<奈良公園ホテル 差し止め求め提訴「歴史的風土と相いれない」>との見出しを見ながら、そういえば奈良公園はいいところだったなと思いつつ、その公園の範囲とか文化施設がいろいろあったように思うのですがはっきり思い出せません。
たしかに整った自然が豊かで、ちょっと普通の「都市公園」の範疇に入らない、いい印象が残っています。
東京都内に多くの造形美の優れた都市公園がありますが、それとは異なるより自然な印象を感じたものです。こういった印象は大阪ではまず感じません。京都でもそれほど感じません。やはり奈良の特徴でしょうか。
さて記事を見ると、<奈良市の奈良公園の南端にホテルを整備する奈良県の計画は都市公園法などに違反しているとして、周辺住民ら56人が11日、荒井正吾知事に対し建設差し止めなどを求めて奈良地裁に提訴した。>
都市公園法違反とは珍しいですね。などとなっていますが、他はなんでしょう。<県は土地を貸し出して宿泊・飲食施設を整備することを決め>とされていて、この施設が問題と言うことです。
なにが問題かについては<公園の一部なのに施設はごく限られた人しか利用できず、都市公園の目的に反するなどと指摘。>と都市公園の目的に反するというのです。
さらに、<「巨大で近代的な建物は、周辺の歴史的風土とは相いれない」とも主張している。>とのこと。
後者は都市公園法自体にはそのような限定がないので、風致地区条例(どうやら指定地区のようです)とか、あるいは古都法の規制地域でその趣旨に反するというのでしょうか。あるいは奈良公園が名勝であり、文化財が多くあって一体として歴史的風土を形成していることから、その本質を脅かすといったことでしょうか。これは風致地区条例とか、文化財法違反ということでしょうか。
ところで、都市公園を舞台にした訴訟と言えば、思い出すのは70年代後半の日比谷公園事件です。といってもこれは公園内の施設が問題になったのではなく、公園横に、富国生命ビルや有名なプレスセンタービルなどの日比谷シティ街で、高層建物が計画され(特例措置で容積率・建ぺい率がアップして当時としては超高層建物になりました)、それが公園利用者の眺望・景観を侵害するといった理由で、建築工事差止め仮処分申立をした事件がありました。結局、訴訟適格が問題となり、原審は反射的利益に過ぎないと門前払いしたのです。これに対し、控訴審では、公園管理は管理者の権限で、公園利用者には差止め根拠となるような権利・利益はないとしつつ、一定の場合に妨害排除請求ができるとした点が当時話題になったと思います。この後段部分が里道利用者の妨害排除請求などとともに、環境訴訟では取り上げられる要素をもちつつ、実際に採用された例は残念ながらあまり聞きません。
私はプレスセンタービルとか、富国生命ビルとか、建設後よく利用させてもらっていたので、あまり不満はないのですが、公園散策をしていると気になる存在でしょうね。日比谷公園自体、ご存知のとおり明治時代に作られた人工公園ですが、日々の管理員の努力で木々はまるで自然のような力強さを持っています。葉っぱをかき集めて大事にしているのを見ていると、人工による都市公園としてはなかなかのものと思っています。テニスコートとか不似合いと思いながらも、まあ銀座のすぐそば、霞ヶ関街で憩いの場としては許容範囲かなと思ってしまいます。その他都市公園をめぐる訴訟なり保全事件なりありますが、さて奈良公園事件にぴたりというのは知りません。
少し前の2月14日付け毎日ウェブ記事<奈良公園ホテル建設計画県の説明不十分 日本イコモスが提言 /奈良>では、<文化遺産の保存に携わる「日本イコモス国内委員会」(東京都)は13日、市民に十分な説明などを求める提言を発表した。>
さらに<計画では、建築物が景観との調和に努めていることなどからおおむね理解できると評価。一方で、県主導のため、一般的な文化遺産の保存活用の事業よりも強い模範性や公共性が求められると指摘した。事業が同公園の保存などにどう役立つのか説明が不十分としたほか、専門家による歴史的建造物の十分な調査なども求めた。>とのこと。
これに対し<県奈良公園室は「真摯(しんし)に受け止めて対応を考えたい」としている。【新宮達】>というのですが、どのような対応をこれまでしてきたのでしょうか。この後がフォローされていないのでしょうかね。
その前昨年の12月26日付け毎日ウェブ記事<奈良公園ホテル建設計画反対住民意見書 不許可求め /奈良>だと、都市公園法違反の趣旨が少し推測できます。
<意見書によると、都市公園法では高価格の宿泊料を前提とした施設は想定しておらず、許可は公衆の自由な利用という都市公園の目的に反するなどと主張している。>
それぞれごもっともな意見です。他方で、都市公園法自体、時代に応じて変化しており、裁量の幅と説明責任、十分に議論したかといった手続き的公正さがどこまで議論できるか気になるところです。また、訴訟では本論に入る前に権利・利益主体の問題が大きな壁となるので、どう闘うか検討をみたいですね。
6月21日付け記事では<県有地、宿泊施設整備にお墨付き 文化庁が現状変更許可 /奈良>で、<国の名勝に指定されている奈良市の奈良公園の県有地2カ所で県が進める宿泊施設などの整備計画について、県は20日、文化庁に申請していた公園の現状変更が許可されたと発表した。>ということで、文化財保護法の名勝指定にされている<奈良公園>の同法43条の現状変更許可がされていますので、この許可の適法性も問題にするのでしょうね。
これに対し、<不服審査請求へ 文化庁に反対住民 /奈良>では、<整備計画に反対する弁護団が発足し、団長の田中幹夫弁護士(84)らが6日、県庁で記者会見した。田中弁護士は「住民の意向を聞かないなど、県の行為に対して法的に争う」と述べ、手始めに公園の現状変更を許可した文化庁に不服審査請求を行う考えを明らかにした。>とありますが、この不服審査請求の結果はどうなったかウェブ上では分かりません(まあ却下だったのでしょうか)。
と続けるとまだ記事がありましたので、この程度にして、最後に計画の概要の部分だけ取り上げます。
昨年3月5日付け記事<奈良公園ホテル建設計画古都の雰囲気、シカと継承>で、<奈良県は14日、奈良公園(奈良市)内の県有地(約3ヘクタール)に、和風の大型宿泊施設を整備する計画を発表した。開発業者に「森トラスト」(東京)を選定。インバウンド(訪日外国人)を含む観光客の取り込みを狙い、東京五輪開催前の2020年春の開業を目指す。>とあります。計画面積とか施設内容が変更したのかもしれませんが、現段階のものが明らかでありません。
<提案書によると、開発コンセプトは「奈良らしさを世界へ」。新国立競技場の設計で知られる建築家の隈研吾氏が建築デザインを担当する。庭園や知事公舎などは保存する一方、低層の建物を一部新築し、最高級の国際ホテルやレストランなどを整備。客室には、吉野杉や伝統技術を取り入れる。>と表現はなかなか魅力的ですが、奈良公園というものにふさわしいかとなると、気になりますね。
この点、神宮外苑でのオリンピックスタジアム建設とは大きく違うでしょう。絵画館前のイチョウ並木も見事な人工美ですが、基本的にさまざまな人工施設が配置されていて、自然豊かとはとてもいえないところ(というと失礼?)で、大議論になった元の計画の異様さは議論になっていいと思いますが、決定された計画は割合周囲と適合しているのかなと思います。でも奈良公園となると低層であっても、また公園利用の趣旨ともどう折り合いをつけるか、難しい問題があったことはうかがえます。
奈良の弁護士は、60年代には古都の文化的価値、景観的価値を守るために立ち上がっていますので、道は険しくても、まあ全国的な先駆け的存在ですので、今後の訴訟活動に期待したいと思います。
今日はこのへんでおしまい。また明日。
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