170910 農業のルールとは <くらしナビ・・農の安全「GAP」で保証>などを読みながら
昨日から「桐生 9秒98」のニュースは大変な話題ですね。彼の今回の走りは一度だけニュースで見ましたが、長らく洛南の名前しか浮かばず大学は?なんて思っていましたが、最後にやりとげましたね。それも出場を危ぶまれた中、すごい精神です。だれもが感激するのはわかります。でも私は今朝見たNHK<目撃!にっぽん選「走る~知的障害・陸上短距離 川上春菜さん~」>に思わず涙腺が緩んでしまいました。私が担当した知的障がいの人に比べると、軽い方ですが、リレーで一緒に走っている同僚に比べ格段に重い感じで、ほんとよくがんばっている姿に感激です。
今朝もさっと飛んできては向こうのヒノキの梢にとまっています。紺色系の羽根なので、ルリビタキ、いやオオルリ、しかし腹は黒っぽく見えたような、どうもはっきりしません。バードウォッチャー歴40年以上?というのは言い過ぎで、時折関心を持つ程度ですから、識別力が一向に進歩しません。それでも昔は葛西、品川、荒川、高尾山などなど、いろいろいってはまねごとをしていましたね。
判別できない鳥がすぐに飛び立った後、下の方を見ると、田んぼでは稲刈りが始まっています。子どもたちの夏休みが終わり、稲穂も垂れてきたなと思っていたら、この辺は少し早い収穫でしょうか。もう機械でやるので、刈った瞬間に脱穀し、別のトラックに入っていきます。田んぼも1反もない、おそらく4,5畝程度でしょうか、あっという間に終わります。そのそばで別のコンバインが小さな田んぼを刈り取っています。農家は皆さん、田んぼがよほど?小規模でない限り、たいていコンバインなど農業用機械を保有しています。共同所有形態や農業法人化が推奨されても、なかなかその方向には向かわなかったわけですね。メーカーも、農協も、その販売収益でありがたいかもしれません。
ところで本日の話題は、<くらしナビ・ライフスタイル農の安全「GAP」で保証>を取り上げて少し考えてみることにしました。
<2020年東京五輪・パラリンピックの食材調達要件となった農業生産工程管理(GAP)。国産農産物の輸出拡大や食品の安全への関心の高まりを背景に、取り組みが少しずつ進むが、取得した農場は約0・3%にとどまっている。>と五輪対応の農業の在り方を変えていこうとする動きをフォローしているようです。
この問題は2つの視点がありますね。一つは<日本GAP協会の審査は、従業員の労務管理や農薬・肥料の保管方法、異物を除去する精米方法など約170項目に達した。ほ場管理システムや精米所は最新鋭の設備がそろっていたが、感染症対策で鳥の侵入を防ぐ網を屋根の隙間(すきま)に取り付けたり、蛍光灯に破損防止のカバーを設置したりするのに設備投資が必要だった。>という農水省の視点です。
もう一つは<精米は食品として扱われるため、食品衛生管理の手続きを定めた国際基準「HACCP(ハサップ)」の研修も受けた。>という厚労省の視点です。この記事でもっぱらGAPを取り扱っているようです。
GAPの効果について<日本GAP協会によると、GAPを導入した農場では、食品事故や労働災害の減少▽作業遅延の減少▽農薬・肥料の無駄な購入・使用の削減▽適切な施肥設計による収量の維持・向上--といった効果が挙げられる。人材育成や責任・権限の明確化にもつながり、経営改善効果が表れている。>と農業の効率化・安全性向上に実績があるとのこと。
ところが、あんまり普及していないのです。前記の指摘では<取得した農場は約0・3%にとどまっている。>とのこと。ただ、農水省の<農業生産工程管理(GAP)の取組状況>では導入実績は着実に増えています。そして<ガイドラインに則したGAPに取り組んでいる産地 は、調査対象の24%(1,052産地)>と多いとは言えませんが、それなりの数字が上がっています。その差は、導入しているけど、認証を得られていないといことでしょうか。
その原因の一つを取り上げています。<大変だったのは書類作成。会社の組織図、設備の図面、農場管理マニュアルと、A4サイズで8センチの厚さになった。一般的に、農家は日常的な農作業は経験の蓄積で体得しており、手順をいちいち記さない。県の担当課の協力も得て、膨大な量の文書をまとめた。>これでは個々の農業「経営者」たる農家は無理に近いでしょうか。
<日本GAP協会が基準を策定した日本版のGAPは「ASIAGAP」「JGAP」の2種類。130項目以上の細かい規定があり、全国の農家126万戸のうち4113農場(3月末現在)が認証を得ているが、約0・3%しかない。7割が茶で、大手飲料メーカーやスーパーも取得を求める動きが加速している。青果物、穀物、茶に加え、今年3月に家畜・畜産物の基準も策定された。>というのも当然でしょうか。
新しい基準で普及が大幅にアップするでしょうか。コンサル代を問題にしていますが、それだけでしょうかね。
ここからが本題です。
たいていの人はブランド商品のGAPは知っているでしょうけど、農業のGAPとなると聞いたことがない、あるいは名前は知っているけどよくわからないというのが実情ではないでしょうか。わたしもよくわかっているわけではありません。
ただ『沈黙の春』がわが国でも問題になり、80年代(70年代から?)には消費者サイドから食の安全、農業生産の安全性に強い関心を呼び、私が所属していた東京弁護士会でも毎年
減農薬・有機農産物の食事会を開催するなど、さまざまな活動が活発に行われていたかと思います。
農業現場でも、意欲的な農家は、有機農法、自然農法、減農薬農法など、さまざまな取り組みを行ってきたと思います。しかし、それらを後押しする制度はなかなか生まれませんでした。
たしかGAPは2000年代に入ってから日本版として生まれたのだと思います。GAPについて記事を引用すると、<Good Agricultural Practiceの頭文字で、農業生産工程管理の手法を指す。農産物の生産や出荷の過程で、病原性物質や有害物質が混入しないように管理のポイントとなる基準をまとめており、第三者が審査、認証する。世界中に複数あり、ドイツの民間団体が運営する国際認証「グローバルGAP」がよく知られている。>というのを読んでも、理解できる人は相当な方だと思います。
さらにGAPのガイドラインを品目別(たとえば米)<農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン(米)>に発表している農水省のそれを見ても、実際に運用されている実態を具体的にイメージできる人はさほどいないように思うのです。
で、私自身、農業地域(法的には農業振興地域農用地区域)に居住しているときは、そのGAPのチェックリストが配布され、その内容を見ましたが、これはなかなか理解し実践するのは大変と思いました。
農家はというと、農薬の効果が薄くなったので、すぐに草が生え、決まった時期でないと散布できないので、大変だと、こぼしていました。おそらく以前はかなり高濃度の農薬散布を行い、草も長い期間生えてこなかったのでしょう。GAPルールを履行しているためか、田んぼにも多様な昆虫や生物が元気に動き回っています。それでも農薬散布時期は、都会生活でちょっとした刺激性のある散布でも、体が敏感に感じてしまいます。
農家にとってGAPルールを遵守しないと、農協が引き取ってくれない(導入している農協の場合)ので、仕方なく?やっている、あるいは自分や家族の健康を守るためにやっている、といった健康への配慮が中心ではないかと思います。
それで生産効率があがり、労働案税制が向上すればよいといったところが日本版GAPでしょうか。しかし、GAPを導入しているEUでは異なる景色が農家にも農村景観にも、そして消費者意識や行動にもあるのではと思うのです。
ここは田上隆一氏の『日本と欧州のGAP比較とGAPの意味』を少し引用させてもらうことにします。ただ、私も全文読んでいませんので、関心のある方はぜひ。
田上氏はまず、<少なくとも先進国では、持続的で安心できる社会が求められ、自然環境に深く関わる農業の問題点が指摘され、国の重要な農業政策になっているにも関わらず、日本においてGAPの意味が正しく理解されていないとすれば、農業関係者だけではなく、日本国民にとっても不幸なことです。>と日本版GAPのある種歪曲された似て非なるルールといった趣旨で問題提起しています。
そしてEUにおけるGAPについて、<先ずGAPに対する正しい理解が必要になります。「GAPは、人類が未来永劫、食料を供給し続けることが出来る農業の在り方を考えるためのものであり、その実現に向けて農業経営モデルを構築していく持続的農業を目標にしている」ので、そのためには、日本が置かれた農業環境の中で、日本農業の未来への展望を開き、その実現のために今行うべきことについて国民的コンセンサスを得ながら実現していくことが必要です。>という理解です。
そして< EUの共通農業政策(CAP)により、GAP規範の遵守は2005年以降、農家の当然の義務となり、また販売先の要望としての現実的な農場認証制度が整った欧州事情の中で、EUREPでは、同年以降、輸入農産物に認証を要求することになりました。そのため、欧州のEUREP加盟店に農産物を輸出する各国は、自国農産物の輸出対策としてGAP農場認証制度の導入を始めています。>
私たちの先祖、江戸時代の農業は、このブログでもなんども言及していますが、維新時に訪れた西欧各国の知識人はだれもが驚いたのです。その農村景観の美しさに。そして物が豊かでなくてもだれもが幸せを感じている、幸福の国と思われたのです。彼らはすでに近代化による工場汚染を含め農業汚染にも心を痛めていたのです。
それから150年以上経過して、EUはやっと目覚めました。私たちがEU諸国を訪れると、その農村景観、田園景観にほれぼれとしてしまいます。いや、都市の中にも森や畑、農林業が活動していることに驚かされます。GAPが機能していればこそ、望ましい生態系が維持され、都市も農村も輝くのではないかと思うのです。
その意味で、20年五輪での食材調達要件といった、あくまで生産性・消費拡大といった側面だけで日本版GAPの普及促進をあげるので、大事な部分が抜け落ちてしまうことを懸念します。
もう一つのHACCP、Hazard Analysis and Critical Control Pointについても、厚労省などの訳とその運用について問題点が指摘されています。たとえばウィキペディアでは次の通りです。
<日本では食品衛生法において厚生労働省が「危害分析重要管理点」と訳したが、海外の事情に詳しい専門家は「危害要因分析(に基づく)必須管理点」と訳している(近年日本では、たとえばISO22000:2005などにおいて“危害分析”から“ハザード分析”と云う呼び方に変更されつつあり、「ハザード」とは危害要因であるとする解釈が増えてきている)。>
さらに<本来HACCPで扱うのは安全性であるが、厚生労働省は総合衛生管理製造過程で扱う項目に品質まで含めており、HACCPを行う前段階である「前提条件プログラム (prerequisite program; PP) 」や「適正製造基準 (GMP) 」まで含んでいるため煩雑なシステムができあがっている。この煩雑さのため手間と予算がかかり大企業でも実践は難しく、かつて乳業メーカーで総合衛生管理製造過程の認証を得た雪印乳業が大規模な黄色ブドウ球菌のエンテロトキシン(嘔吐等胃腸症状をおこす毒素)の食中毒事件(雪印集団食中毒事件)を発生させた。>と指摘されています。
安全性以外に品質まで取り扱うという、いわば「厚労省版総合衛生管理製造過程」の結果、上記指摘の食中毒事件を引き起こしたとまでいえるかは別として、安全性により重点をおいた管理システムの構築が必要なことは確かでしょう。
これで1時間半となりました。中身が生煮え状態ですが、またこの問題は丁寧に取り上げたいと思いますので、今日はさわりといった具合で終わりにします。
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