180113 医療の賢い選択 <不適切なCT検査><薬の過剰投与><PET-CTによる検診>を読んで
最近とみに医療関係の情報が増えたような印象を受けるのは私だけではないように思います。おそらく実際にウェブ情報を含め情報媒体の数量とも格段に増加しています。またNHKは地上、BSともに最先端情報も含め多様な医療情報を提供してきていますし、民放も増えているように思います。
毎日記事も負けていないように思います。とりあえず今朝までの3回に分けて連載された<賢い選択 確かな医療とは>はすでに情報としては知られている内容かもしりませんが、わかりやすく整理されているかと思い、取りあげたいと思います。
3回は次の内容に別れています。
第1回 <不適切なCT検査 撮影増、病院の利益に 被ばくリスク、考慮が必要>
第2回 <薬の過剰投与 医師・患者ともリスク軽視>
第3回 <PET-CTによる検診 がん検出 有効性不明>
医療について賢い選択というと、もっと広範囲、あるいは深いところでの問題提起もあり得るとは思いますが、いずれも割と体験している人もいるでしょうし、やはり改めて考えておく事柄かなと思うのです。
最初の<不適切なCT検査>は思い当たる人も少なくないのではと思います。すでにCT検査結果があっても、それを画像ファイルを病院でもらって別の医師に診てもらうといったことは、セカンドオピニオンをもらうときとかでないとあまり考えないかもしれませんね。
私自身の体験したのでは病院事務局でちょっと対応に手間取り、主治医の同意がないとわたせないとか、その医師が当日担当でいないので、提供できないとか言われたことがあり、とんでもないといって、少し時間がかかりましたが、その日に受け取ることができました。
いまCDにソフトごとダウンロードするのが簡単ですので、費用もかかりませんし、一旦CT検査すれば特別新たな事情がなければそれを使えば済みますね。
ところが実際はどうでしょう。
<海外では、医学的根拠を基に価値が低いとみられる検査や治療をリストに挙げて、過剰な医療行為を見直す動きがある。「不適切な検査や薬は何か」。日本の過剰医療を振り返りながら、確かな医療を賢く選択できるよう3回にわたって報告する。>と一回目は<コンピューター断層撮影(CT)装置を使った検査>を河内敏康、藤野基文両記者が担当。
まず検査の量が異常ですね。<日本は「CT大国」と呼ばれる。経済協力開発機構(OECD)のヘルス統計2017によると、人口100万人当たりのCT装置の数は日本が107台で、加盟35カ国の中で最も多い。1000人当たりの撮影回数も231回と2番目に多い。>
なぜ多いのかについて<日本でCT検査が多い理由の一つに医療システムの問題を指摘する声がある。日本の外来は、診察や検査をすればするだけ病院やクリニックの収入になる出来高払い。だが、検査料は1回約1万円と海外に比べ安く、「病院やクリニックはCTの検査の数を増やそうとしがちだ」(大学病院放射線科教授)という。>
CTのメリット・デメリットはどうかといえば、<CTは、適切に使えば病気の発見や治療に役立つが、放射線による被ばくの問題もあり、なるべく控えたい。>となるのが当然ですね。
ここで<米国で始まった過剰な医療行為を見直す「Choosing Wisely」(賢い選択)キャンペーン>を取りあげて、この観点からこのシリーズはアプローチをしています。湿地利用におけるワイズ・ユースは世界的な広がりを得てコンセンサスを確立しましたが、はたして医療分野ではどうかというところでしょうか。
<参加する米国小児科学会は「小児が頭を打っても頭蓋(ずがい)内損傷リスクが低ければ必要ない」と提言する。リスクを判断する基準に従って調べ、該当しなければCTは実施しない。放射線被ばくと発がんとの因果関係こそ明確でないが、小児は放射線の影響を成人より受けやすく、余命も長いため、放射線防護は特に重要とされている。日本医学放射線学会もガイドライン(指針)で推奨していない。>
基本的にCT検査を抑制するのがガイドラインということでしょう。
訴訟リスクを心配する超えもありますが、どちらかというと根拠のない検査優先意識が働いているのではと推測したくなりますね。
CT検査を実施する医師と、それを指示する医師との関係の問題も指摘されていますね。<専門家である放射線科医が、不適切な検査を止められない事情もある。患者の情報を一番多く持っているのは主治医で、不安感なども考慮した上での判断に反論するのは現実的には厳しい。ある大学病院の放射線科医は「『検査が必要かどうか決めるのは主治医だ』と罵倒されたこともある」と力なく語った。>
このような医療機関内でのシステムというか人間関係というか、専門家としての放射線科医の判断を尊重する制度的な裏付けも必要かもしれません。とはいえ主治医もエビデンスを安易に検査に求める傾向があるのではと思ってしまいます。この場合のエビデンスは検査自体に一定の医療制かが得られる見通しや必要性が医学的根拠としてあるということではないかと思うのです。
基本は<「医師と患者、相互理解を」>でしょう。患者側も安易に検査を求め検査してもらえないと十分な医療を受けられないといった意識があるとすれば、それは考慮されるべき患者の意識とはいえないでしょう。むろん患者への説得が大切ですが。
すでにCT検査抑制に取り組み病院もあり紹介されています。<過剰な検査を抑制しようとする動きもある。神奈川県鎌倉市の大船中央病院では、原則として過去30日以内にCTなどの検査をした患者に対し、主治医が同じ部位に同種の検査を依頼した場合、電子カルテに理由を入力しないと検査に進めないシステムを昨年5月に導入した。10月までの半年間で「重複」を通知された検査のうち、約7%を主治医が取り消したという。>
第2回はよく話題になる薬の過剰投与ですね、今回も前回同様両記者が担当しています。
<抗菌薬や、睡眠薬など日常的に使用される薬の処方が問題になっている。薬剤耐性菌や副作用などデメリットが大きいのに、医療機関で過剰に出されているからだ。>
<抗菌薬は、細菌の増殖を抑えたり破壊したりするが、ウイルスには効き目がない。そのため、ウイルスが原因の大半を占める風邪には効かない。>にもかかわらず、<三重大の研究報告によると、国内では1日200万人に抗菌薬が処方され、うち9割は内服薬で外来患者に出され、1割は注射薬だった。>
必要のない抗菌薬の過剰投与は当然リスクが高まります。<抗菌薬の過剰使用の最大の問題は、薬の作用に抵抗する能力を得た「薬剤耐性菌」が生まれることだ。1980年代以降、人への不適切な使用によって病院を中心に耐性菌が増加。耐性菌による感染症で、世界では1年間に約70万人が死亡。>と危険な兆候です。
日本にも使用制限のガイドラインがあるにもかかわらず、守られていない実態があるようです。
<日本では、日本外来小児科学会の作業部会が05年にガイドライン(指針)を作成し「風邪に抗菌薬は不要。2次感染の予防にも効果はない」と訴えてきた。しかし、適正ではない処方は完全にはなくならない。>
患者側の意識にも問題がありそうで、そのため国が乗り出しています。<日本でも、厚生労働省が、20年までに人口1000人当たりの抗菌薬の使用量を13年より33%減らす計画を16年に発表。昨年、外来での抗菌薬の適正使用をまとめた手引を発行している。>
もう一つ取りあげられた薬剤は、<睡眠薬>
<東京都内の80代の無職女性は、20年ほど前に寝付きにくくなり、睡眠薬を使い始めた。しばらくしてベンゾジアゼピン(BZ)系薬を含め睡眠薬を2剤にまで増やしたが、夜中に起きてトイレに行くたび転倒するようになった。>
<同居の娘から相談を受けたクリニックの主治医は「睡眠薬が影響しているのではないか」と考え、女性に減薬を勧めた。女性は医師の指導の下、徐々に薬を減らしていったが、副作用もなく、食事や睡眠も取れていた。現在は夜眠れなくてつらい時だけ、BZ系薬でない睡眠薬を半錠使っている。心配されたトイレでの転倒もあまりしなくなったという。>
このケースでは主治医が患者の生活実態を観察できていないまま、睡眠薬投与を継続していたのでしょうか、そこにまず問題があるかもしれませんね。通常、高齢者の場合家族も同席させて服用の効果を確認しながら、処方を行うのでしょうから、それまでがどうだったのか気になるところです。
薬はたいてい副作用があり、それも個人差が、また個人でも体調や家庭環境で異なることがあり、そのような状況を確認するのが意思としての基本的姿勢ではないかと思われます。
ましてこの<BZ系薬の長期使用について、患者はメリットばかりでなく、副作用などにも目を向けて、許容できるかを考える必要がある。>といった性格を持つのですから、要注意でしょう。
薬剤の選択においてこの薬について、<「Choosing Wisely」に参加する米国の老年医学会では、高齢者の不眠や興奮、せん妄に対し、BZ系薬などは最初に選ぶべきではないと提言。その上で「高齢者や医療従事者らはこうした危険の可能性を知っておくべきだ」と訴えている。>と厳しいですね。
この指摘は参考にされて良いかと思いますが、やはり患者の理解力、家庭環境を踏まえ、患者・家族と適切な協議をしながら薬剤投与の選択を行うことが医師として必要な心構えではないでしょうか。
第3回は<PET-CTによる検診>で、五十嵐和大記者が担当して、<人間ドックのがん検診で利用の多い「PET-CT検査」。小さながんでも精度よく発見できるとされ、医療機関のホームページなどで盛んに紹介されている。利用者が受けるべきかどうか、判断の目安となる確かなエビデンス(医学的証拠)はあるのだろうか。>と問題提起しています。
たしか五木寛之氏は人間ドックなどガン検診は百害あって一利なしとかおっしゃってやっていないとか、聞いたことがあります。私はそこまでは言えませんが、やったことがありません。ガンになればそのときは手術するのが良いか死を受け止めるのがよいのか自分が試される選択だと思っています。
それに人間ドックを含めさまざまな検査の有効性とデメリットを比較したとき、積極的に受けようと思わないことも一つですから、五木氏がそう言われているのなら、似たような感覚でしょうか。養老孟司氏はどうなんでしょうね。ま、人は人ですから、気にせず。
本題に戻ります。
ある男性の人間ドック体験が取りあげられています。
<東京都内の50代の男性会社員は毎年、人間ドックで「PET-CT検査」を受けている。PETは「Positron Emission Tomography」(陽電子放射断層撮影)の略。がんに取り込まれる放射性薬剤を利用者に投与し、体内から出てくる放射線を特殊カメラでとらえて画像化することで、がん発見に活用する。最近では、これに臓器の形状を撮影するコンピューター断層撮影(CT)を組み合わせて、診断の精度を向上させているという。全身を一度に調べられるのが特徴。1回の検査で約10万円かかるが、「年齢的にがんが心配」と、今後も続けるつもりだ。>
責任感からやっているのでしょうか、それはそれでよろしいのではと思いますが、PETの有用性についてどの程度ご存じなのか気になります。だいたい人間ドックなんて名称自体、イメージ戦略で作られた言葉のように思えてならないのですが・・・
先の団体の評価は明快です。
<「Choosing Wisely」(賢い選択)キャンペーンで、画像検査の専門家集団である米国の核医学・分子イメージング学会が、「がん検診にPETを使ってはならない」と表明している。検診データをまとめた日本の論文などをもとに「健常者にPETを使っても、がん発見率が約1%と非常に小さい」という。>日本版でも同様に推奨しないとなっています。
これに対し、わが国の専門団体は<国内の画像検査の専門家集団である日本核医学会はガイドラインの中で、「有効性に関するエビデンスが不十分」>とある種客観的な評価のみにとどめています。使うべきではないとか、使うのは避けましょうとかまで、積極性に欠けていますね。
<同学会の井上登美夫元理事長は「個人レベルでがんを見つけているのは確か。有効性に関するエビデンスが現時点でなくても、安心などを求めてPETのがん検診を受けたいと思う人は拒めない」と語る。>となんとも患者の「安心」に依拠して検査を拒めないといっていますが、エビデンスが不十分な検査を有害性の危険のあるにもかかわらず、拒めないとは情けないように思うのですが、間違いでしょうか。
この後富裕層向けの「山中湖方式」がPET検査普及の引き金になったような話しがありますが、専門医学会として、もっとエビデンスのある治療・検査を自信をもってガン治療・検査を先導して欲しいと思うのは私だけではないと思うのです。
最後に医学者としてしっかりした見解を評されている方が紹介されていますので、これを引用しておきます。
<PET-CTによるがん検診は、医学的には根拠を積み重ねるための「研究段階」にあると言える。勝俣教授は「エビデンスがないのに利用者から料金を取って実施していいはずがない。こうした現状を利用者に説明すべきだ。利用者も自身に本当にメリットがあるのか、医療者との対話を通じて自ら考え、選択してほしい」と話している。>
ちょうど一時間となりました。このへんでおしまいです。また明日。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます