たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

GPSをめぐる公私の狭間 <令状なし、違法 プライバシー侵害 最高裁>を読んで

2017-03-16 | 司法と弁護士・裁判官・検察官

170316 GPSをめぐる公私の狭間 <令状なし、違法 プライバシー侵害 最高裁>を読んで

 

今日の日和も優柔不断のような、曇ってみては、時折わずかな光明を差し込んでくれたりと、初春の気ままな天候を感じさせてくれました。

 

そして仕事になにかと追われて、いつの間にかもう夕方間近になっています。相変わらず森友学園騒動はどこにたどり着くか分からない、籠池ご夫婦の発言に翻弄され、大事な予算の議論はどこへやらと、春の珍騒動と思いたいところですが、国家の土台が揺らぐかもしれない気配も見え隠れして、まるで隣国の大統領をめぐる問題に近づくのではといった感じに報道の白熱状況を感じつつ、それはないでしょうと思いたいところです。

 

ここは報道にお任せして、WBCの侍ジャパンの活躍で心を和ますのもいいかもしれません。

 

さて、今日もテーマを考える余裕がないので、一面記事を取り上げたいと思います。GPS, Global Positioning Systemはいまでは子どもでも利用するというか、子どもの方が結構上手に使っているかもしれませんね。私のような高齢者になると、どうも自分で使ってみようという気持ちが起こらないのです。ナビもほとんど使わないくらいですので。

 

それはともかく、最高裁大法廷は、15人全員一致の判決でGPS捜査を違法と断罪しました。これは立論も明解で、素晴らしい内容だと思います。ここは毎日記事で判決要旨が掲載されていましたので、これを引用してみたいと思います。

 

まず<GPS捜査は、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間を含め、対象車両と使用者の所在と移動状況の、逐一の把握を可能にする。必然的に個人の行動の継続的、網羅的な把握を伴うから、プライバシーを侵害し得る。機器を個人の所持品にひそかに装着して行う点で、公道上を肉眼で把握したりカメラで撮影したりする手法と異なり、公権力による私的領域への侵入を伴う。>

 

大法廷は、GPS捜査の特質を取り上げ、「必然的に個人の行動の継続的、網羅的な把握を伴うから、プライバシーを侵害し得る。」として、しかも利用に当たり、「機器を個人の所持品にひそかに装着して行う点で・・・・公権力による私的領域への侵入を伴う。」とその本質的な問題を喝破しています。

 

次に<憲法35条は「住居、書類および所持品について、侵入、捜索および押収を受けることのない権利」を規定し、私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれる。GPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害する。刑事訴訟法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる。現行犯逮捕など、令状を必要としない処分と同視する事情も認められず、令状がなければできない。>とプライバシーが侵されてはならない憲法上の権利であるとしつつ、GPS捜査が「個人の意思を制圧して」その権利を侵害すると認定しています。

 

この「個人の意思を制圧して」という理解は、これまでの最高裁なり裁判例の傾向からは、かなり思い切った解釈ではないかと考えます。「制圧」という表現自体、通常は「威力で相手を押さえつけること。」(大辞林)といった意味で使われるかと思います。この威力は一般的には、相手方がそれを認識できる程度に外形的な力の行使を予定していると思うのです。それには多様な形態があるとしても、GPS装置のような場合に威力に当たるようなものといえるかというと、一般通念としては疑義があるかもしれません。しかし、最高裁はその本質を見据えた法的意味での解釈を選び、「強制の処分」に当たるとし、令状を必須としたのです。

 

捜査機関は、従来型の外形的な権利侵害がないことを切り札に、任意捜査の補助手段と位置づけてGPS捜査を継続していたようですが、他方で、その記録を残さないようにしてきたのですから、その問題性を十分に意識していたはずです。

 

それほどにこのGPSが捜査手段として使われた場合にプライバシー領域の保護が瓦解する危険を大法廷裁判官全員が看取したのでしょう。GPSの追尾により、あらゆる行動が監視される結果、憲法上最も保護されるべき個人のプライバシーへの重大な侵害とみるのは、その機能の無限定性と相まって、実質的に「個人の意思を制圧」することになることは、正鵠を得た理解と言うべきでしょう。それはむろん、国家権力が行使するという意味で、監視社会となり自由を抑圧される社会となる危険性があります。そして従来型の外形的な暴力や威圧ではないものの、秘密裏に行われる結果、より精神的な制圧を受けることになりうるでしょう。最高裁はここで下級審の裁判官の間違いを正したのは最後の砦としての役割を果たしたものと評価されてよいでしょう。

 

他方で、GPS捜査に令状が必要としても、現行刑事訴訟法のどのような令状手続きが捜査の必要性と個人のプライバシーの保護のバランスを適正に判断できるかについて検討した結果、現行制度にはないとした点も評価されてよいでしょう。

 

最高裁はこの点、<情報機器の画面表示を読み取り、車両の所在と移動状況を把握する点で刑訴法上の「検証」と同様の性質があるが、車両と使用者の所在を検索する点では検証と捉えきれない。検証許可状や捜索許可状の発付を併せても、車両や罪名を特定しただけでは、容疑と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制できず、裁判官による令状請求の審査を要するとした趣旨を満たさない恐れがある。さらに、容疑者に知られず行わねば意味がなく、事前の令状提示は想定できない。強制の処分では手続きの公正さを担保するため、事前の令状提示は原則であり、これに代わる公正担保の仕組みがなければ適正手続きの観点から問題が残る。>としています。

 

現行法の検証を超える機能を有している点、容疑と関係のない行動の過剰な把握を抑制する手段がないこと、令状の事前提示が原則だが、そうすると捜査の意味がなくなることをあげ、現行制度ではGPS捜査の公正さを担保する仕組みとなっていないことを指摘しています。

 

そして最高裁は、GPS捜査の必要性を理解しつつ、基本的には立法的解決が望ましいとしています。<問題解消の手段として一般的には、実施可能期間の限定、第三者の立ち会い、事後の通知などが考えられるが、捜査の実効性も配慮してどの手段を選択するかは、第一次的には立法府に委ねられている。仮に法解釈で強制の処分として許容しても、令状請求を審査する裁判官の判断により、多様な選択肢から的確に選択されない限り是認できないようでは、法の趣旨に沿わない。>

 

警察当局にとっては、難題を突きつけられたかもしれませんが、安易にこれを秘密裏に利用し続けてきたのですから、個人のプライバシー保護を配慮した制度設計について、改めて真剣に取り組む必要があると思います。

 

ところで、私自身、窃盗事件の担当をしたりすると、窃盗団といった組織が、さまざまな対象に応じて、臨時的あるいは継続的に形成され、広範囲に窃盗を繰り返している実態を垣間見ることがあります。それをどう防ぐかという、善良な人の被害を防ぐ警察の役目も大事であることを感じます。

 

ある事件では、空き地に置かれている重機があります。それを見つけた人間が重機に書かれている名前から所有者を確認し、事情を知らない人をその所有者に偽装させ、それとの架空の売買契約書を取り交わす一方、重機取引を多く手がけている業者に連絡して、売り物件があるとして、今度は外国人の買い手を探させ、輸出品として売買し、そして事情を知らない運送業者に運ばせるといった事例を担当したことがあります。この被告人は過去に数百件という同種事案を繰り返していた人物で、関係者もその手口をよく知っている仲間ないしは関係者だと思いますが、これら関係者全部を摘発することがなければ、なかなか連続窃盗事件の核心を確保することは困難ではないかと思うのです。

 

一方で、犯罪は広範囲で連絡手段も多様、関係者も相当数存在し、一般の商取引を仮装する形態も多い状況で、捜査側には有効な把握手段がないのかもしれません。

 

GPS捜査の強制処分性、プライバシー侵害性をしっかり理解し、いかに権利保護を図りながら活用できるかについて、今後よく研究し、犯罪防止に役立てる手法となる可能性を検討してもらいたいと思う次第です。

 

ところで、GPS付きスマホとかを利用して、配偶者の不倫を暴くというのは、依頼人から情報提供を受け、こんなことができるんだと驚きますが、意外と役立ちます。最近は、一般の方がこういう方面での利用を積極的にやっていることにびっくりしますが、これもスマホの利用が進んだせいか、あるいは不倫追求に有効な手法として確立しつつあるのかもしれません。このような利用も個人のプライバシー保護との関係で注意する必要があるかもしれませんが、公権力の行使である捜査とはまったく異質の私人の行為ですし、配偶者という関係であれば、違法性が問題となることはあまりないように思うのです。むろん、異論があると思います。裁判例は調べていないのですが、感覚的には損害賠償の対象となったり、その証拠が違法収集として排除されるということは考えにくいとの立場です。

 

最高裁大法廷の気品あふれる判断に比較して、後の話はお粗末でした。

 

ところで、欧米のGPS捜査について立法例をウェブ上で調べようとしたのですが、わずかな時間で検索したこともあり、米軍の軍事利用としての法規制しか見つかりませんでした。もしかして軍事分野での利用はあるけども、一般の刑事捜査などでは使われていないなんてことがあるのでしょうか。いまのところはペンディングにしておきます。

 

そろそろ業務終了時間に近づいてきて、ちょうど時間となりました。


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