たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

プライバシー保護とは 改正通信傍受法施行の行方

2016-11-28 | 知る権利・プライバシー保護と情報収集・管理の適正化

161128 プライバシー保護とは 改正通信傍受法施行の行方

 

昨夜NHKで「パナマ文書」の調査報道が放映され、その後どうなったかと気になり、見ていたのですが途中まで見て眠ってしまいました。世界各国から移動した膨大なタックスヘイブンの情報がパナマの一法律事務所から出てきて、各国の報道機関が協力して調査してきたので、真相が相当分かるのではと期待していましたが、それ以後あまり報道がなかったことから予想されるとおり、なにかを裏付けるだけの情報にたどり着いていない印象を受けました。

 

このパナマ文書は、内部情報者からのリークでしょうか。匿名での提供というのもそんなイメージを与えます。

 

ふと思い出したのが映画「ザ・ファーム」でトム・クルーズが演じた新米弁護士による勤務先法律事務所がもつ顧客情報です。それはケイマン諸島に隠されたタックスヘイブンやマネーロンダリングに関わる情報のFBIへの提供です。弁護士の秘匿義務に違反しないで、当該法律事務所の違法行為を糾弾するといった、二律背反の状況で、彼が選んだのは郵便詐欺(Mail Fraud)というアメリカ法特有の制度です。その法律事務所では、弁護士が顧客に報酬を過大請求したり、やっていないのにやったことにして虚偽の報酬請求していたことについて、郵便詐欺罪(連邦法違反)として告発したのです。ですので、実際は、パナマ文書のような内容自体(映画では違法な内容を記載した顧客情報の文書)は開示されていません。

 

ところで、143月トヨタ自動車が大規模リコール問題に関し、米国司法省との間で、12億ドルの制裁金を支払うことで起訴猶予合意していますが、その法的根拠となったのが、郵便詐欺と類似の電話詐欺(Wire Fraud)です。リコールの車両製造自体の問題というより、通信の内容の虚偽性が問題として摘発されているわけですね。

 

そういうわけで内部情報自体には、アクセスされていず、問題も解明されているとはいえません。しかし、他方で、アメリカでは「スノーデン事件」で明らかになったように、各国の大統領・首相から行政の主要官僚はもちろん、一般の人まで通信傍受が大々的に行われてきたわけです。むろん国家的な機密や安全に関わる情報収集という一応の公益性はあったかもしれませんが、まったく関係ないプライバシーも当然含まれていたわけです。

 

そのアメリカの圧力を背景に、2000年通信傍受法がわが国で施行され、さらに今春には毎日のように表現の自由・通信の秘密侵害・違憲論が論議されながら、大幅に改正拡充され、その施行が今週木曜日(来月1日)になりましたが、なんだか不思議なほど平穏です。

 

今朝の毎日は、その改正法の内容を割合淡々とまとめています。まず通信傍受を認める対象犯罪を、従来は薬物、銃器、集団密航、組織的殺人の4類型の犯罪だったのを、詐欺、恐喝、窃盗、強盗、傷害、現住建造物等放火、児童買春・ポルノ禁止法違反に拡大した他、その要件も緩和しました。

 

たしかに、オレオレ詐欺を含め、上記の犯罪は集団的、あるいは役割分担を決めてやる犯罪類型が増えていることから、一定の必要性・合理性があることも支持された一因かもしれません。

 

私自身も、窃盗と言っても、重機窃盗などでは、外国人が購入者、特殊車両の運転手、仲介者、仮装の売主、仕掛け人など、多数が介在して行われている事案を取り扱ったことがありますが、通信機器による通信内容を傍受できれば、一網打尽できると思われるものの、多くは末端のみが検挙されるに過ぎず、各地で同種犯罪が続いているように思うのです。

 

上記の新しい犯罪類型で特殊ともいえるのが、児童買春・ポルノ禁止法違反ではないかと思います。警察庁のホームページを見ると、大きくこの問題を取り上げています。世界的に児童ポルノなどの情報が事実上野放しで、次々とあちらをたたけばこちらから出現するといった状態で、わが国としてもきちんと対応しないといけないと思っているようなふしがあります。

 

上記と直接関係があるわけではありませんが、わが国では、本屋さん、電車広告、その他公開の場で、少しおとなしくなったとはいえ、女性のヌードないしそれに類似する写真等がおおっぴらに見られる状況にあるように思います。西欧の町では一定の場所をのぞき、子どもや女性を含む大衆がアクセスできるところでは見かけないように思うのです。いい大人が電車の中でそういった写真の掲載された新聞や雑誌を堂々と見る風景は見ていて悲しくなります。

 

改正通信傍受法に戻ると、もう一つの柱は2年後に施行の立会人の監視なしに行うという点です。従来、傍受の期間が10日間といった制限や、通信事業者の施設に出向き、社員の立ち会いが必要とか、制限があったのを撤廃し、特定の機器を使えば以下の方法でよいとしています。

(1)傍受令状に従って通信事業者から通信が特定の機器に暗号送信

(2)暗号を復元して傍受すると同時に、再生した通信内容は漏れなく自動的に原記録に暗号記録

(3)原記録は裁判所に提出

法務省幹部は「データ改ざんなど不正の余地が物理的に排除されている。立会人の役割は代替できている」と説明しているそうです。

 

一見非の打ち所がないようなところが危ないように思います。だいたい、暗号記録を傍受記録にして、そのうち犯罪関係だけを抽出する作業は容易でないように思うのです。さまざまなプライバシー情報が含まれているわけで、それと犯罪情報の仕訳が簡単にはいかないように思うのです。また会話録音の反訳をやった経験がある人なら分かりますが、大変な作業です。傍受内容がクリアだったとしても、人によっては言葉の判別が容易でないことも少なくありません。それを捜査官だけに委ねることは不安が残ります。

 

もう一つ重要な点は、サイバーテロなどに対するデータ保護が確保されているかですが、これまた警察庁レベルではある程度充実してきているとは思います。しかし、都道府県警レベル、ましてや末端の警察署でのデータ管理はどこまで対応できるか、疑問です。

 

 

後書き

昨夜、ビデオで撮っていた「追跡 パナマ文書」を削除しようとしたら、まだ半分も見ていないことに気づき、残りを見ました。するとあの1300億円が消失した年金詐欺・金融取引法違反事件15年の懲役が確定した浅川和彦元被告の名前がのった文書があり、口座には1000万円残っていたとのこと。口座名義人が代理人名だったのが事件発覚後本人名に変更されたということから、自由に資金移動が行われた可能性が示唆されていました。となると、口座資金の移動が開示されない場合、やはり闇の中にとどまったままとなりますが、もし改正通信傍受法が施行されていれば、捜査側が詐欺事件容疑で傍聴して、資金移動の指示などを認知できたかもしれないことになりますね。簡単ではないですが、国税庁を含む他の捜査や証拠収集を期待するしかないかもしれません。

 

もう一つ、7名の日本人の偽造パスポートで作られたペーパーカンパニーが、問題の出会い系サイトを運営していて、暴力団と関係するような組織が児童買収・ポルノを行っていたようです。まさに警察庁が摘発すべく懸命に努力している分野ですね。改正通信傍受法の施行をより促進するような、NHK番組報道になったのは偶然でしょうけど、他方で、いまだ調査報道の対象となっていない、多くの日本人名の行方はどうなるのでしょう。

 

 


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