たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

不動産所有のあり方 <TV放映で見た歩道を塞ぐ空き家・廃屋のリスクと対応>

2019-04-14 | 不動産と所有権 土地利用 建築

190414 不動産所有のあり方 <TV放映で見た歩道を塞ぐ空き家・廃屋のリスクと対応>

 

今日の花は何にしようかと迷ったものの、枯れてしまいそうなミニカトレアを選びました。花言葉がいいですね。<弥生おばさんのガーデニングノート「花と緑の365日」>によると<「殊勝」>ということです。カトレアだと「優美な貴婦人」とか華麗さが表に出ていますが、「ミニ」がつくだけちょっと控えめなのでしょうか。たしかにカトレアと比べるとそんなイメージをもちますかね。

 

ところで、不動産の所有者というと、その権利性だけが強調されるこの頃で、権利がある一方で節度をもつという点が見失われたかのような事案がときに目立つようになりました。殊勝さなんてものが感じられないわけです。

 

木庭顕著『新版ローマ法案内』では、「そもそもコモン・ローにおいて、所有権概念は本来存在しない。」そして「所有権は完全に大陸法独自のものであり、そこでまさに、それはローマ法から来る、と言われる。」と述べて、そのローマ法について、詳細に解説されているのですが、なかなかぼんくら頭ではついていけません。

 

それで最近、塩野七生著『ローマ人の物語I』を読み始めました。以前から気になっていたのですが、とても難解な内容ではないかおもって尻込みしていました。ところがその語り口はナレーション風でわかりやすいのです。まあ、法的概念については割合、あっさりしていますが、木庭氏の見解の背景を理解できる資料としてはとても参考になります。といっても読み出したばかりですが。

 

そこには所有者には義務が伴うことが具体的に書かれています。この内容はいずれ機会を改めて書いてみようかと思います。

 

前置きはこの程度にして、本題の不動産、とくに放置された不動産、そして所有者不明に絞って、少し考えてみたいと思います。

 

今朝の民放でたしかさいたま市でしたか、幅員4mの歩道を塞ぐように、空き家が出っ張っている状況を放映していました。その建物は、長年風雨にさらされて今にも壊れそうな危険な状態で、廃屋に近いといってもいいでしょう。その建物が張り出しているため、歩道は⑷mの幅があるのに、そこだけ0.9mに狭まっています。歩道を利用する人はとても危険です。隣地にはマンションが建っていて、その駐車場からの出入り口になっているため、その建物によって視界が遮られ、交通事故の危険にさらされています。

 

空家等対策の推進に関する特別措置法(便宜、空き家法と呼称)は、こういう空き家に対処するために14年に成立したはずですね。

 

取材班は近隣の苦情を聞き取り、たしか行政にも取材に行ったと思いますが(全部見ていませんのではっきりしません)、どうやら空き家法で認められている行政措置がとれないようです。前提として、その処分等の対象を特定する必要がありますから、所有者が判明していている必要がありますが、その建物については、そうでないようです。

 

取材班が調べたところ、当該不動産の登記は明治時代のものだそうで(建物は映像からは戦後のように見えましたし、そうでなくても昭和の時代でしょうね)、当然、当時の方はお亡くなりになっているので、相続が発生しているわけです。取材班によると、相続人が40人を超える?とか。まあ、それは普通でしょうね。私も最近の事案で、30人弱の相続人を調査したことがありますが、戦後の登記であっても、これくらいですから、明治時代の登記であれば、驚くに値しません。

 

相続人らしき人を発見したようですが、取材を拒否されていました。明治時代の登記であっても、家督相続が戦前まで行われているので、そこまでは容易に相続人が特定できるでしょう。でも戦後は共同相続ですし、すでに相続人が亡くなっていたり、代襲相続人も亡くなっていたり、中には結婚されずお子さんもいないままなくなった方もいらっしゃるかも知れません。それに海外に居住されている方などいらっしゃるかもしれません。所有者を解明し特定するのは容易でないでしょうね。

 

たしか不動産評価では数億円とかということですから、相続放棄される方は少ないかもしれません。他方で巨額の担保権が設定されている可能性もありえませので、躊躇されている方もいらっしゃるかもしれません。相続人が特定できても、大勢だと遺産分割も容易でないでしょう。いろいろ問題が内在していそうです。

 

こういった相続に関係する所有者不明の問題は、わが国では権利変動に登記義務を認めていないことが要因の一つです。とりわけ相続の場合に登記しないままで長い間放置することが少なくないですね。使用者がいる場合はまだいいのですが、使用者が亡くなったり、どこかに行ったりすると、途端にその使用をめぐって問題が起こりますが、対処する法制度がありません。

 

ようやく成立した空き家法でも、所有者の探索については、10条で「空家等の所有者等に関する情報の利用等」として、情報利用を少しだけ容易にする程度で、これだけでも以前に比べれば行政としては利用しやすくなったとは言えるかもしれません。しかし、これだけで所有者の解明・特定につながると考えるのは早計でしょう。

 

たとえば、転籍したり、結婚・離婚したり、養子縁組・離縁などしている等で、その追跡自体できますが、かなりな作業となるでしょう。しかも最近のように印字されたものでなく、手書き(それも達筆な筆など)だと判読が容易でないものもあり、その作業は大変手間がかかること請け合いでしょう。それが一人くらいならさほどの負担ではないでしょうけど、数10人となるとなかなかです。そうそう最近は相続放棄も増えていますので、厄介なことに巻き込まれたくないと思われる相続人もいますので、家裁で調べる必要もありますが、どうもそこまでの手当はこの種の法制度ではなさそうです。

 

空き家法に比べて、農地法や森林経営管理法は、調査方法としてはより突っ込んだ内容になっています。

 

改正農地法は遊休農地(たしか法律の中で定義規定がない)について、森林経営管理法については集積計画対象森林について、それぞれ似たような所有者不明の場合の探索法を定めています。

 

農地法32条(利用意向調査)3項で「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行つてもなおその農地の所有者等(括弧書省略)を確知することができないときは、次に掲げる事項を公示するものとする。」として公示して遊休農地について措置できるようにしています。で、農地法施行令は18条(不確知所有者の探索の方法)で、次のように「探索方法」を定めています(探索という表現はなにか違和感を感じますが)。

一 当該農地又は採草放牧地の登記事項証明書の交付を請求すること。

二 当該農地又は採草放牧地を現に占有する者その他の当該農地又は採草放牧地に係る不確知所有者関連情報を保有すると思料される者であつて農林水産省令で定めるものに対し、当該不確知所有者関連情報の提供を求めること。

三 第一号の登記事項証明書に記載されている所有権の登記名義人又は表題部所有者その他前二号の措置により判明した当該農地又は採草放牧地の所有者と思料される者(以下この号及び次号において「登記名義人等」という。)が記録されている住民基本台帳又は法人の登記簿を備えると思料される市町村の長又は登記所の登記官に対し、当該登記名義人等に係る不確知所有者関連情報の提供を求めること。

四 登記名義人等が死亡又は解散していることが判明した場合には、農林水産省令で定めるところにより、当該登記名義人等又はその相続人、合併後存続し、若しくは合併により設立された法人その他の当該農地若しくは採草放牧地の所有者と思料される者が記録されている戸籍簿若しくは除籍簿若しくは戸籍の附票又は法人の登記簿を備えると思料される市町村の長又は登記所の登記官その他の当該農地又は採草放牧地に係る不確知所有者関連情報を保有すると思料される者に対し、当該不確知所有者関連情報の提供を求めること。

五 前各号の措置により判明した当該農地又は採草放牧地の所有者と思料される者に対して、当該農地又は採草放牧地の所有者を特定するための書面の送付その他の農林水産省令で定める措置をとること。

 

結局、登記事項証明書と戸籍謄本、原戸籍、除籍謄本、住民票といった一般的な相続資料の入手を容易にする内容にほぼとどまっています。農水省令も特段、新たな方法を認めるものではありません。

 

同様に森林経営管理法も24条(不明森林所有者の探索)で、25条(所有者不明森林に係る公告)前に、その探索方法を政令に委任して、「確知することができない森林所有者(以下「不明森林所有者」という。)の探索を行うものとする。」としています。森林経営管理法施行令1条(不明森林共有者の探索の方法)で、上記とほぼ同様の方法を定めています。

 

結局のところ、相続で登記手続が行われていないような不動産については、相続しない、できない事情がいろいろある中で、相続人の探索について少しだけやりやすくなったので、少しでも所有者不明土地について、適切な対応がなされることを期待したいです。

 

ところで、所有者不明不動産については、抜本的な対策が検討される必要があることは、繰り返し報道で取り上げられてきました。所有のあり方が根本的に検討されるべき時がきている、いやそもそも十分検討されないで所有権観念が導入されてしまった弊害ではないかと思うこともあります。

 

そんなとき、ドイツの所有権放棄の登記制度などを紹介して、不動産財産権放棄について、示唆に富む議論をされている平瀬敏郎氏の論考<空き家の現状とそれをとりまく制度の状況について(その2)>は興味深いものでした。

 

今日はこれにておしまい。また明日。


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