180508 医療通訳とAI <大阪大 インバウンド影響、医療通訳にも 養成講座を常設>などを読みながら
首都圏で仕事をしているとき刑事裁判で、外国人の事件をしばらく継続的にやっていたことがあります。たままた英米人の被告人を担当したことがなく、東南アジアや南米が多かったように思います。ということは、南米だと、スペイン語かポルトガル語でおおむね通用するように思えるでしょう。他方、東南アジアはフィリピンにしても、タイやカンボジアなどにしても、その国の言語といっても多様で、なかなか対応できる通訳を見いだすことが容易でなかったと思います。いやスペイン語でも、国や地域によって異なるので、これまた大変でした。島根や鹿児島、青森などの地元のほんとの言語を聞いてもちんぷんかんぷんのときがありますが、ああいう感じでしょうか。
それだけでなく、刑事裁判の用語を法廷通訳といわれる人はある程度勉強していますが、なかなか簡単に理解できるわけでないですし、ましてや事実に争いがあるときは、詳細な動きを通訳することなど、ある意味不可能に近いことがありますね。そういったときは被告人と通訳とが原語を「話し合って」確認し合うのですが、なかなからちがあかなく、裁判長はじめ検事、弁護人3者は傍観するのみです。
そんなことを昨日の毎日夕刊記事<大阪大インバウンド影響、医療通訳にも 養成講座を常設 医学部が指導、3年で100人誕生>を読みながら、つい思い出してしまいました。
私自身、海外に滞在しているとき病院や診療所で診察を受けたことがありませんので、どの程度うまく話せることができるかは自信がありません。歯医者さんとか、電気治療を受けたことがありましたが、なんとか通じたようです。症状が複雑だと、そういった表現は日本語でも結構むずかしいですね。
それをインバウンドで急速に増大する多様な外国人の健康管理対応は喫緊の課題でしょうね。
記事では<医療現場で外国人患者と医師らとの橋渡し役を担う「医療通訳」の養成講座を大阪大が2015年度から常設し、3年間で100人を輩出した。病状や治療方針などのやり取りは専門用語が多く混じり、日本人同士でも意思疎通が難しい。言葉が通じない外国人とはさらに困難を極める。在日・訪日外国人(インバウンド)の増加で医療機関を受診する外国人が増えており、阪大の取り組みに注目が集まっている。【山口知】>と大阪大学医学部の取り組みを紹介しています。
私が弁護士なりたての頃は、カルテもドイツ語が多くて、医療事件ではカルテを読み込むだけで難渋しました。ドイツ語辞書を首っ引きで翻訳を試みたのを思い出しました。その後英語で綴られたカルテが増えて、最近は英語がほとんどかとおもっています。といっても文章としての英語と言うより、症状の一部とか、診断の一部で、電子カルテで、患者さんに対する問診をタイピングしている場合は基本、日本語だけですね。それは当然ですが、では外国人の場合どうなっているのでしょう。
子供の話だと、最近は医学部でも英語会話力が問われるようですので、医師も普通に英語くらいは問診できる能力が要求されるのでしょうか。それは当分先かもしれませんね。となると、やはり医療通訳は当分の間、必須でしょう。だいたい英語による問診ができる医師は増えるとしても、多言語を使いこなせる医師はというと望み薄でしょうね。医師に対して批判的なことを言うのはおかしいですね。弁護士も同じでしょう。
ともかく阪大医学部はこの分野で先進的な取り組みをしてきたようです。<阪大医学部付属病院(大阪府吹田市)は13年、受診する外国人患者の増加を受け、受け付けの専門窓口となる「国際医療センター」を開設した。14年度に医療通訳を必要とした患者は延べ46人だったが、16年度は160人まで急増した。>
ところが医療通訳の実情はというと、<医療通訳は専門的な説明が求められるが、国家資格はなく、派遣される通訳の知識が乏しかったり、言語によっては通訳の確保が難しかったりした。>これはまさに法廷通訳も似たような状況ではないでしょうか。
阪大は制度的な取り組みを始めたわけです。<阪大は15年4月、英語や中国語、スペイン語、ポルトガル語の4カ国語に対応する「医療通訳養成コース」を創設。医学部の准教授らが約1年間、人体の仕組みや病気の内容、医療倫理などについて、座学や実習で教える。一定の語学力のある原則20歳以上が受講でき、学費は29万円。昨年度までの修了生は計100人に上る。>これは4カ国語とはいえ、評価されて良いと思います。
しかし全国的な状況はというと、<医療通訳の担い手不足は各地で課題になっている。厚生労働省は昨年8月、全国3761の病院を対象にした実態調査の結果を公表。15年度は回答があった1710病院の約8割が、外来で外国人患者を受け入れた。同時に全国47の医療通訳サービス派遣業者にも課題を尋ねると、約55%の業者が「医療通訳の人員確保」と答えた。>
道は遠い状況ですが、こういった阪大の取り組みが広がれば、インバウンド増大に対応することが可能になってくるでしょうね。
なお、厚労省は<医療通訳に関する資料 一覧>を用意していますが、これだけでは国の取り組みとしては、とても全国的な問題に対応しているように見えないのですが、時間がないので調べられていませんから、今日は紹介のみとします。
さて、人間による医療通訳が容易でないとすると、AIの力を借りようかと思うのが、昨今の風潮のようにも思えますが、どうでしょうか。
<医療英語の森>の中で<AIは医療通訳に取ってかわるだろうか (後編)>という記事がありました。前編は基本的な話題で、後編で医療通訳に特化して検討しています。結論的に言えば、否です。
その取り上げ方はウェブ上の翻訳機能を引用しつつ、その機械的翻訳自体が文脈を理解していない上、患者の立場にたって気持ちに寄り添った通訳ができないことを問題にしていたかと思います(すみません、ざっと読んだだけですので、誤解があるかもしれません)。
たしかにこれまでの通訳機能は上記の指摘が当てはまると思います。ただAIは進化しており、最近ダウンロードした音声翻訳はだいぶ進化した印象を感じています。専門用語もある程度拾いますし、これはディープラーニングによりさらに適切な翻訳になる日はさほど遠くないのではと期待したりしています。
それは医療通訳という人間が行うことも有用であることを否定しませんが、他方で医師が音声翻訳を通じて多言語を活用して、直接、問診することができれば、より適切に診察、診断できる可能性を期待するのです。
それこそ、そういうプログラムを大学医学部とAI関係者が業務提携して開発することを期待したいですね。いや、すでにどこかが始めているかもしれませんね。競争により、AI囲碁のようにより、能力アップ、スピードアップ、廉価にできるようになること期待するものです。
今日はこの辺でおしまい。また明日。
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