1958年と言うから、もう五十年以上も前の旅日記です。(新潮社 1,300円)
高峰秀子さんがイタリアのベニス映画祭に出席したのを機に、
ご主人の松山善三さんとヨーロッパを旅する七ヶ月間です。
九月一日 イタリア・マジョーレ湖
お昼は食堂で仔牛にハムとチーズのかかった、おいしいものを食べた。
善三はお昼寝、読むものもなし、静かで、何だか消えてしまいそうな日である。
十月二十三日 パリ・シャンゼリゼ通り
歩いてたら突然うんこしたくなって靴屋へ飛び込み、スリッパを買って便所を借りる。
高い便所代についた。
帰ってスリッパ見たらあまり気にいらぬ。ああ、ハラが立つ。
日本を代表する女優 高峰秀子、この時三十四歳。
夫、松山善三は帰国して二年後、監督第一作「名もなく貧しく美しく」を撮り、数々の映画賞を受賞する。
挿絵も高峰秀子さん