パチンコが趣味で、毎日欠かさず通っていた92歳男性が「2、3週間ほど前からしんどい、パチンコにも行けなくなった。」と、来院。医者嫌いで、10数年ぶりの受診だそうで、余程しんどくてつらいのでしょう。勿論何の服薬もされていません。
お歳の割には元気そうに見えますが、ちょっと顔色が悪く、息切れもあるようです。食欲も落ちているとの事。歩くと息が切れし、すぐに休まないといけない。夜の排尿回数も増えたとの事。
診察しました。軽度の貧血があるように思えます。高齢者の貧血は、がんなどの悪性疾患が隠れていることが多く、要注意です。そして、脈拍数が102回/分と増加しています。頻脈です。貧血+心不全?
心電図、胸部レントゲン、血液検査をするときに、生理食塩水でラインをとって。胸部レントゲンで心臓が腫れていて、心不全であろう(慢性心不全の急性増悪)と推測したのですが、心電図では特に大きな異常を認めません。
下のレントゲン写真は、記事の患者さんのものではありません。心不全の治療前後の胸部レントゲン写真です。心不全治療前(左の写真)では、真ん中に写っている心臓が腫れて大きくなっていることが分かりますよね。心臓は、大きいことは悪いことです。
胸痛とか生活の変化とか何かなかったかを聞くのですが、何もないと言われます。酒を飲みすぎていないか、塩分を摂りすぎていないかを聞いたのですが、そんなことはない
しつこく聞いたら・・・・
「そういえば銀行がお歳暮に昆布茶と梅昆布茶をくれてな。美味しいし、体にいいというから毎日何回か飲んどった。」
原因は・・・・銀行がお歳暮にくれた昆布茶でした。昆布茶の半分は食塩です。昆布茶の過量摂取による食塩の摂りすぎ。それを原因とした心不全の新たな出現(または慢性心不全の急性増悪)が原因であろうと推測しました。
その日、点滴の中に利尿剤を追加、明日からは昆布茶やめて。朝一回だけこれ飲んで。と、利尿剤を少量出しました。
数日後、血液検査の結果を聞きに来るように言っていたのですが、来られません。
家に電話したら、ご家族が「じいちゃん、すっかり元気になって毎日パチンコに通ってます。もう、治ったからワシャ行かんと言ってます。」との事。
一週間出した利尿剤が切れても、症状再発しないなら、そのままで良いのでしょう。
元気に暮らしておられる高齢者でも、ちょっとした変化で「病気を発症」してしまうのだなぁと思った次第です。
良かれと思ってしたことが、かえって悪い結果を生むこともあります。適量では体に良いものも、過ぎたるは及ばざるがごとしになったり、ひょっとすると体に毒になるかもしれません。バランスを心がけて、極端なことはしない方が良いと私は思っています。
この患者さんの場合、昆布茶がどう悪影響したのでしょうか?
誤解を招く表現があったかもしれません。
コミュニケーション昆布茶が体に悪いと言っているわけではないです。
昆布茶にはフコイダンを始め、体に良い成分が多く含まれています。
しかし、この超高齢男性の場合は、過量摂取で悪い面が出てしまいました。
昆布茶の約半分は塩分です。正確には昆布茶一回摂取分4gだと、1.93gが食塩です。高齢者、特に超高齢者は、ほぼ全員が心不全予備軍と言っても良いでしょう。一日に何杯も昆布茶を飲まれたので(慢性腎不全の急性増悪)状態を引き起こしたのだと思います。
塩分の過量摂取は、心不全のほか、高血圧、腎臓病にも良くないです。
この方の場合は塩分が悪さをしましたが、過量摂取をした場合、ヨウ素が悪さをすることもありますので、甲状腺疾患の方も飲み過ぎには注意してください。
いずれにせよ、過量摂取は良くありません。昆布茶、美味しいですし粉末だしとしても使い道は広いですが、適量接種を心がけてください。