湖のほとりから。

花と空と心模様を写真と詩と文に託して。

有川浩『植物図鑑』を読んでから

2020-03-17 17:00:00 | コラム
春になると深く物事は考えず
お気楽に胸がキュンとする本を読みたくなってしまう。

春の陽気で、私の頭もノータリンになってきてしまうからかもしれないが。

例えばこの有川浩さん著書の
『植物図鑑』
(何度読んだことか!)

けっして、図鑑ではなく
草や木の名前が物語のシーンにそって出てくる。

その中の言葉に
かの文豪・川端康成の遺した言葉が書き記してある。

『別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。
花は、毎年必ず咲きます』と。

そして、(主人公  さやか)は
『その、発想は一言で言って女々しい。
しかも、女では思いつかない。
そもそも、別れる男の記憶にそんなふうに自分を
刻もうなどと思わない。
女の恋は上書き式。男の恋は保存式。
女はどれだけ引きずろうと悪あがきをしょうと
次の恋が見つかって走り出したら昔の恋人など
思い出から記憶に格下げだ。
こんな女々しい格言を遺してくれたおかげで
あんた(川端康成)の没後30数年、罪なき女が要らん恥をかくのよ』と、主人公は言う。

消えた恋人から教えられた、
あまりにも女性が口にするのをためらうような花の名を
簡単に自分の上司に言ったおかげで
恥をかいてしまうシーン。
その時思う主人公の心の声のくだりである。

もちろん、主人公さやかは、まだまだ、消えた恋人のことが好きなまま。

しっかり教えられた数々の植物の名前。
川端康成先生の言うとおり
毎年、花は咲くので、毎年否応なしに
花を見るたび、消えた恋人と花とがオーバーラップする主人公。
忘れたくても忘れられないでいる。

これって、
花や歌や場所に当てはめてみると
今まで、インプットされたものの多さがよくわかる。
常に人は
相手の趣味や言動を覚えていたりする。
それが、決定的に毎年咲くもの
もしくは、不意打ちに聞こえる歌やテレビの観光ガイド的な番組で
ふゎ〜と、心から飛び出して胸を締めつけてから
喉を刺激し、徐々に上昇してくる様は
男女問わず、誰もが経験することだと思うのです。

その揺れる心のヒダが
大きいか小さいか
それまでに捨ててきているか、
人によりけりだろうけれど。

しかし、
思い出とかじゃなく
その花の名前一つで
湧き上がって来ようとする思いって
いつも、優しくて、強くて、素敵だと思う。

文豪、川端康成先生は、
すごい言葉を遺したものだ。

そのテイストが芯にあって
この物語は進んでいくわけだけれど。

この中にもう一つ
消えた恋人が教えてくれた言葉がある。
『雑草という名の草はない』と昭和天皇がおっしゃったと。

きっと、こんな風に教えらたら
ずっと覚えて忘れないだろうと思う。

結局、消えた恋人は、消えた訳があって
再び、彼女の前に現れて、めでたしのハッピーエンドという物語。


幾度となく彼女は
好きになった彼が教えてくれた花が
繰り返し、繰り返し思い出となってオーバーラップしてくる。
忘れようとしても
忘れられない。

たんに、
女性の恋は上書き式とは言うものの、上書きされるまで、苦しいし
上書きされてしまうほどの人と
出会わないと、決して上書きはされないのだろう。


男性は、ファイル式
いわば、いくつもファイルを持てる。
好きなときに出して見て
都合のよいときに終えられて
次の恋には、またファイルを作ればいいことになる。

これって、自己中?(笑)


果たして
どちらが、女々しいのだろう。


分からないけれど
『花を教えられた』その時点で
一種の暗示を植え付けられてしまう。


きっと、何処に行った、なにかを食べたって言うより、
人の五感に残るものなんだろうと思う。


この『植物図鑑』は、
実写版として映画化もされた。
主人公 さやか 高畑充希
相手役 イツキ 岩本剛典
      (三代目J Soul Brothers)


映画の方が出来上がりは
役者さんの顔の甘さがよりストーリーを甘くして
深みはうすれているかもしれないけれど、春の日に
ほんわか、胸キュンする映画になっついる。

やっぱり、小説同様、
何も考えず、春の陽ざしを感じられるような、爽やかな作品だ!











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