久々に訪れた母の部屋は足の踏み場もないほどの散らかりようでした。
「なんか暗いね」
電灯のひもを引っ張りましたが、電気は点きませんでした。
「たまがね、切れちゃったのよ」
母は、いたずらがばれた子供のように照れ笑いしながら言いました。
「じゃあ、夜とか暗いでしょう」
「暗いけど、大丈夫」
何が大丈夫なんだかわかりません。
「あとで電球買ってくるよ」
もちろん、買ってきただけではだめで、その電球を取り替えるところまでやってあげなければ、
母はいつまででも暗い部屋で暮らすことになるでしょう。
電球を取り換えるという気力すらないのです。
「何か飲む?」
母は立ったまま言いました。
幽霊のように胸のあたりで手をだらりとさせた格好で、落ちつかなげに上体を揺らしています。
「何か出てくるの、このウチ」
私はイヤミっぽく言いました。結婚する前に夫が挨拶に来たとき母が出したのが、
氷も入ってないただの水だったことを思い出したのです。コップは『ワンカップ大関』の空き容器でした。
「うーん。『午後の紅茶』なら……」
「選択肢がないなら、『何か』とか言わないほうがほうがいいよ」
私はため息をついて言いました。
「インスタントコーヒーでいいや。このコップ、きれい?」
「きれいよ」
水切りカゴに積んだままの食器類はなんとなくべとついているようで、いまいち不安です。
母はいそいそとやかんに水を汲んでくれましたが、コンロに火をつけるのに悪戦苦闘しています。
「点かないの?」
私がやったら簡単に点きました。
「手にね、力が入らないのよね」
おかしいでしょう、と言うように、母は笑って見せました。少しろれつが回りません。
前に来たときと同じ服です。多分、あれから風呂に入っていないのでしょう。
胸のあたりまでだらしなく伸ばした髪も、長いこと櫛を入れていないようにもつれていました。
顔も洗っていないに違いなく、右の目尻に目やにが汚らしくこびりついています。
「どう、元気?」
話題が見つからなくて、私は間の抜けた質問をしました。
「なんか暗いね」
電灯のひもを引っ張りましたが、電気は点きませんでした。
「たまがね、切れちゃったのよ」
母は、いたずらがばれた子供のように照れ笑いしながら言いました。
「じゃあ、夜とか暗いでしょう」
「暗いけど、大丈夫」
何が大丈夫なんだかわかりません。
「あとで電球買ってくるよ」
もちろん、買ってきただけではだめで、その電球を取り替えるところまでやってあげなければ、
母はいつまででも暗い部屋で暮らすことになるでしょう。
電球を取り換えるという気力すらないのです。
「何か飲む?」
母は立ったまま言いました。
幽霊のように胸のあたりで手をだらりとさせた格好で、落ちつかなげに上体を揺らしています。
「何か出てくるの、このウチ」
私はイヤミっぽく言いました。結婚する前に夫が挨拶に来たとき母が出したのが、
氷も入ってないただの水だったことを思い出したのです。コップは『ワンカップ大関』の空き容器でした。
「うーん。『午後の紅茶』なら……」
「選択肢がないなら、『何か』とか言わないほうがほうがいいよ」
私はため息をついて言いました。
「インスタントコーヒーでいいや。このコップ、きれい?」
「きれいよ」
水切りカゴに積んだままの食器類はなんとなくべとついているようで、いまいち不安です。
母はいそいそとやかんに水を汲んでくれましたが、コンロに火をつけるのに悪戦苦闘しています。
「点かないの?」
私がやったら簡単に点きました。
「手にね、力が入らないのよね」
おかしいでしょう、と言うように、母は笑って見せました。少しろれつが回りません。
前に来たときと同じ服です。多分、あれから風呂に入っていないのでしょう。
胸のあたりまでだらしなく伸ばした髪も、長いこと櫛を入れていないようにもつれていました。
顔も洗っていないに違いなく、右の目尻に目やにが汚らしくこびりついています。
「どう、元気?」
話題が見つからなくて、私は間の抜けた質問をしました。