不登校の息子とビョーキの母

不登校の息子との現在、統合失調症の母との過去

ストーカー王子と自閉的恋愛

2019-04-24 07:39:08 | 日記
そしてもう一人近づいてきた人というのが、棚入れのやり方を親切に教えてくれたMさんでした。

Mさんは現場で黒いTシャツを着ています。
一般のバイトは赤か青のTシャツなので、私は最初彼を社員だと思っていました。

あとで他の人から聞いたところによると私と同じ派遣社員で、
偉い人にかわいがられていて付帯業務の教育係として抜擢されたということでした。

私が怒鳴られてもめげずに仕事をやり遂げて、
オバサンたちの雰囲気を一瞬で変えてしまったことにMさんは感動したようです。

教育係として、やる気のないオバサンたちによほど手を焼いていたのでしょう。

仕事のことで質問をすると、聞いてもいないことまで説明して話を引き延ばしたがります。

そればかりか昼休みに食堂でお弁当を食べ終わって席を立つと、
必ずと言っていいほど背後にMさんが座っているのです。

とはいえ内気な人らしく、仕事以外で自分から話しかけてくることはありません。

好意を持たれているとは思いましたが、それが恋だとは最初は思いませんでした。

なにしろMさんは中島健人似のイケメンで、背も高くていかにもモテそう。
年齢はハタチそこそこでしょうか。こんな田舎の倉庫にはもったいないような王子様的存在なのです。
それにひきかえ私は、若く見られがちとは言え51歳の地味なオバサンなのですから。

その頃私はMさんの名前すらうろ覚えでした。

M井さんだっけ、M野さんだっけ?
私はある日休憩に入る前に彼が首から下げているIDカードの名前を見て確認しました。
目が悪いので、少し顔を近づけて、眼鏡を指で押し上げながら。

それがMさんのシャクに障ったようです。

(なんだよ、俺の名前も覚えてなかったのかよ!)
と思ったのでしょう。

その日から、親切だったMさんは急に私に対してだけ意地悪になり、苗字も呼んでくれなくなりました。

3階に呼び戻されるスタッフの名簿を見せては、
「ちょっと、そこの人。この中に自分の名前ある?」
などと何度も聞くのです。

(俺だって、お前の名前なんか覚えてないもんね!)
というアピールなのでしょう。

重要な仕事もやらせてくれなくなって、段ボールをひたすら切るとか、つまらないことばかりやらせます。
自分の娘とさほど年の変わらない上司だからと我慢していた私も、だんだん腹が立ってきました。

時を同じくして、現場にはリストラのうわさが流れ始めていました。

「私たち付帯業務の応援部隊から、8人クビになるんだって……」
その頃私と仲の良かったカドタさんが深刻な顔でささやきました。
8人、という数字が、やけに具体的ではありませんか。

(まじめにやってきたのに、どうして?
しかもMさんに恨みを買っちゃったから、意地悪で上に悪い報告でもされたら?)

その日の仕事が終わった時、最悪の気分だった私は、Mさんに
「お疲れさまでした」
とあいさつした後、目の前でハアーと大きなため息をついてしまいました。