国立大学の付属中学校。
13歳。 中1の学年末。
担任教師との面談がようやく終わっての、下校途上。
まだ、肌寒い早春の夕刻、 僕は城跡のお堀が見える路上にたたずんていた。
頭の中では、 先ほど担任から浴びせられた罵声が鳴り響いていた。
学年成績、 96人中88位!
男子48人中 最下位!
女子ならともかく、 お前が行けるような高校なんかどこにもないぞ!
わずか13歳で、 人生の落伍者にでもなったかのような気分だった。
担任の容赦ない言葉が胸に突き刺さった。
家族にも、友人にも、 誰にも相談などできない。
なぜなら、小学生気分が残ったまま、遊び呆けていたのは自分の責任だ。
誰のせいでもないのだ…。
一緒に遊んでいた友人たちも、 勉強すべき時は、きっちり勉強していたのだ。
行く高校がない ・・・ それも、あながち嘘とは思えない。
10段階評価の成績表で、 5以下の数字しか見当たらない体たらくなのだから。
最悪の劣等生は、 担任だけに限らず、すべての教師たちから、冷淡な扱いを受けていた。
「お前は、もうどうしょうもないけど、 他の者の邪魔だけはするなよ。」
たまに、テレビドラマで聞くような、 鋭利な言葉が容赦なく13歳の少年に突きつけられ続けた。
そして、 中学校2年生になっても、泥沼の状況はまるっきり変わらなかった。
親には隠していた。
母親は、成績表が5段階評価だと勘違いしていたようだから、心配などしていない。
何せ、 1~5 までしかない成績表だもん。
その頃、 僕は現実逃避していて、 親友に教えてもらった BEATLES に、凝りまくっていた。
勉強するフリをして、 夜更けまで、ビートルズのアルバムや、ラジオの深夜放送にどっぷり浸っていた。
そして、
中2の2学期がやって来たら、全生徒の親が学校に呼ばれるという事実を知った。
「三者面談」
もうだめだ。
あの担任は、母親に向かって、用意してきた最高の蔑みセリフを得意げに切り出すだろう。
「こんな生徒、 この学校始まって以来ですよ。
付属中の進学率を下げてもらうと困るんだよなー。」
母親が、どんな反応をするのか 皆目見当もつかなかったが、
驚き、 深く傷付くことだけは明白だった・・・。
不安で、不安で、 僕の将来は、もう闇に埋もれてしまったのだと確信し始めていた。
すべてを諦めかけていた・・・。
夏休みに入り、 お盆の直前に父親の転勤を聞かされた。
僕たちは、広島の郊外に住むことになった。
そして、 僕はというと、 町立の中学校への転校が決まった。
転校早々、 英語の授業で教師から指名されて、教科書を音読した僕を、
教師が褒めちぎってくれた。
「すごい! 発音、イントネーションが素晴らしい。 どこで習ったの?」 と…。
僕は、何も答えなかったが、
実は、自分の英語力が向上しつつあるのを、付属中の在籍末期あたりに、密かに感じ始めていた。
そして、この英語教師のひとことが僕に自信を植え付けた。
英語のみならず、 逃避していたその他の授業においても、前向きに取り組めるようになった。
特に、英語は中2の2学期から卒業するまで、百点満点を外すことがないほどで、
国語、数学、社会から体育、音楽に至るまで、苦手な技術家庭科以外は、
80~90点前後の成績になった。
ビートルズの歌を聴きこんだおかげで、 いつの間にか、身についていたヒアリング能力、
そして、 歌詞の意味が知りたくて、懸命に引いた英和辞書。
英語で培われた自信がすべての教科の成績に波及し、
最終的な学年順位は、 約110名中、5位となった。
あれから、40年以上が経ち、
今は、 「中学の成績なんて、人生に於いて何の意味も持たない」 と思う。
そして、 付属中学校の教師たちに対しての恨みなどもない。
逆に、人間の残酷さや、社会の厳しさを教えてもらったことに、感謝すら覚えるほどだ。
(もう、彼らは鬼籍に入っているだろうか・・・)
もし、目の前にタイムマシンがあるなら、
暗澹とした未来に震え、坊主頭を抱えているあの頃の自分のもとへ飛んで行き、
彼に言ってあげたい。
何も心配することはない。 思う存分ビートルズを聴けばいい、 そして楽しめ。
運命は君が決めるわけじゃない。 人はただ 『生かされている』 ものなんだから。
僕のお葬式には、 『ACROSS THE UNIVERSE』 を流してほしいなー (゜▽゜)
『ビートルズが教えてくれた』
作詞 岡本おさみ
作曲・歌 吉田拓郎
髪とヒゲを伸ばして ボロを着ることは簡単だ
うじうじと吹き溜まりのスナックで 腕を組みながら
考え深そうな顔をするのも 楽に出来る
日陰ばかりを好んでいては いじけてしまうんだぜ
もっと陽気であっていいんじゃないか もっと陽気でもいいんじゃないか
勲章を与えてくれるなら 女王陛下からもらってしまおう
女王陛下はいい女だから 付き合ってみたいと思う
それも自由だと ビートルズは 教えてくれた
くれるものは貰ってしまえ 欲しいものは物にしたい
そのかわり捨てるのも勝手さ 貰うも捨てるも勝手さ
ビートルズが教えてくれた
ビートルズが教えてくれた
ビートルズが…
人が幸せになるのを 批判する権利は誰にもない
みんな幸せになっていいんだ 人に迷惑さえかけなければね
ビートルズが教えてくれた
ビートルズが教えてくれた
ビートルズが
ビートルズが教えてくれた
ビートルズが教えてくれた
ビートルズが・・・