京都より来店された
山本さんのブログ (抜粋)
関西地方のヤスミン監督ゆかりの地の1つである大阪・心斎橋の
マレーシア料理店「KENNYasia」を訪ねてみた。
KENNYasiaと言えばペナンのマレーシア料理の店だけれど、
私はこの店をプラナカン料理店 だと思っている。その理由はいくつかある。
まず、ケニーさん自身が
ババ・ニョニャの血統を引いていて、
ニョニャ料理を出しているから。
ペナン出身のケニーさんはおばあさんゆずりのニョニャ料理を作ってくれる。ニョニャ料理はプラナカン料理の一種なので、ケニーさんが出してくれるのはプラナカン料理だとも言える。これは、ジャンルとしてのプラナカン料理。
それはそうなんだけど、私がKENNYasiaをプラナカン料理店だと思うのはそれとは少し違う理由から。
例えば
海南チキンライス マレーシアの食事の定番のあれ。KENNYaisaにももちろんある。マレーシアで頼んだときに出てくるものを少しだけアレンジしている。
ライスは長粒のコメではなく日本のコメにして、風味がよく出るようにちょっと工夫した炊き方をしている。もちろんチキンもやわらかくておいしいのだけれど、でも
ライスがKENNYasiaの海南チキンライスの肝だと言っていいほど。一口口に入れるだけで、暑いマレーシアのあの店やこの屋台で何度も食べた海南チキンライスのイメージがふわっと頭の中にわいてくる。
もし、「現地マレーシアのあの店で食べたあの味とまったく同じものが食べたい」と思ってKENNYasiaの海南チキンライスを頼んだら、おそらく「どこか違う」と思うだろう。日本のコメを使っているところがまず違うし、ほかにも違いを見つけられるかもしれない。でも、
マレーシアから遠く離れた日本で普通に手に入る食材をなるべく使って、それでいて一口食べたら頭の中にマレーシアの屋台の海南チキンライスのイメージがぱっとひろがるような料理を作るのは並大抵のことではない。研究に研究を重ねてこの味に到達したのだろう。
ほかに
カンコン・ブラチャンや
ペナン・ラクサ もいただいたけれど
いずれも、一口食べるとマレーシアの情景が頭に思い浮かぶ仕上がりになっている。もちろんマレーシアで仕入れた食材や調味料を使っているということもあるだろうけれど、それを
日本の食材とけんかしないように工夫に工夫を重ねているから、見かけだけでなく味や雰囲気が「本物」になる。「本場」との違いに目を向けるのではなく、「現地」で手に入るものを使ってアレンジしながら本来の良さを損なわず、むしろ引き出しているというのは、プラナカンの発想に他ならない。
プラナカンと言えばババ・ニョニャだと思う人はまだまだ多いが、それはプラナカンの中でも一部の(しかし多数派の)人々のことにすぎない。プラナカン自体には中国系という意味はなく、インド系でもアラブ系でも西洋人でも日本人でもかまわなくて、
外来の文化がマレー世界に及んで、現地の事情に合わせて自身を適応させていきながらも、完全に現地化するのではなく自分たちがもともと持っていたものの肝を引き出していっそう発展させていったものを指す。だから、プラナカン文化に関わるものは、たいてい外の世界にもある。そして、外の世界の人から見ると、「本場」のものとどこか違って見えたりする。
現場にあるものを利用してより良いものを作る工夫を重ねていくのがプラナカン的なのだけれど、「本場」から出たことがない人にはその工夫の意味がわからないこともある。
(中略)、日々の営みの中でまわりの事情にあわせて
自分を柔軟に変化させながらも自分のエッセンスは維持しているというプラナカン文化もある。その意味では、KENNYasiaの料理は後者、
つまり「生きたプラナカン料理」にほかならない。
KENNYasiaがプラナカン的なのは、料理だけでなく、店自体がプラナカン的な空間になっているから。たとえば店の装飾。日本やマレーシアをはじめとするさまざまなアイテムが使われている。飛行機に乗るときに預ける手荷物につけるシールなども壁の装飾に使われている。ほとんどの人は飛行機を降りて荷物を取ったらゴミとして捨ててしまうけれど、それを装飾の味付けに使ってみる。だから、店に入っただけで旅行に来たような気分になる。しかもマレーシアの写真や広報資料がたくさん置かれている。
マレーシアであり、日本であるとともに、そのあいだを行き来する「旅のあいだ」でもある空間。どこか1つの場所に縛られているわけではない、でも、そうかと言ってどこにも足場がないのではなく、マレーシアと日本にそれぞれ足場がある。こんな工夫もあって、
KENNYasiaにはプラナカンらしさを感じてしまう。
※全文は ジャカルタ深読み日記 → http://d.hatena.ne.jp/setiabudi/mobile?date=20110715
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