東電OL殺人事件の被告ゴビンダに東京高裁は再審開始を7日認めた。
前にも図書分類、社会病理の本で少し触れたが、ルポルタージュ作家、佐野真一氏が「東電OL殺人事件」という分厚い本を出していて、10年ぐらい前図書館の本で読み、印象に残っている。
当時この種の事件に関する本で、加害者として起訴され有罪となった被告が無実ではないかと推論する本が何冊か出て話題になり、当時の最高裁長官が「世間の雑音に耳をかすな」と、配下の組織へ檄文を発したことがあった。
無罪を主張する佐野氏の主張など雑音とされたが、時代は変わり裁判員制度という陪審裁判が導入されるなど、世間の雑音を裁判に導入しなければ収まらない事態に世も司法も変化してきた。
この本の中味はほとんど忘れたが佐野氏は実に丹念に現地取材している。
冒頭に被害者の母親がマスコミに宛てて「娘は社会的には良くない事をしていたようですが、娘は既にこれ以上は無い償いをさせられているので、本人の人格や残された母と妹のためにも、マスコミ取材はご遠慮してください」という主旨の手紙がマスコミ各社の送られた紹介からはじまっていた。
この被害者は慶応経済卒という高学歴で東電に幹部候補で入社して勤務しながら、東京都渋谷区円山町の事件現場へ夜な夜な現れ、飲み屋などで客を誘い売春をしていた異常行動が世間の興味を煽ったのだ。
佐野氏はその深層心理に迫りたいと膨大なルポを書いた。被害者の動機は不明ながら精神医学者斉藤学氏との面談などで、東大卒で東電勤務だった父が50歳過ぎで幹部昇進を目の前に病魔に倒れ亡くなったこと、父親への異常なまでの憧憬が異常心理につながったのではないかと推論していた。
次いで、事件現場の円山町の地で最初にホテル経営をした岐阜グループが紹介される。
御母衣(みほろ)ダムの建造で、故郷を追われ各地で慣れぬホテル業や銭湯業などに移住・転職して行った人々が拓いたホテル街で、佐野氏は荘川の地や役場にも立ち寄り取材している。
円山町の岐阜グループの総帥にも会い取材していて、その方と名字が同じ人が今でも荘川に住んでおられるので、荘川は私も縁が深くその後この名字が同じ方に親戚かと聞いたことがあるが知らないと言われた。
加害者とされたゴビンダも一審は無罪、佐野氏の本も後書きは無罪が決定した一審の日に書かれていた。それから控訴審、上告審で有罪になり15年も牢につながれた。
救う会の活動にも佐野氏の本は役立ったことだろうし、証拠物件が冷凍保存されていたこと、検察が開示したこと、最新のDNA鑑定ができたこと、など加害者とされたネパール人は最後のところで救われた。名張毒ぶどう酒事件にも同じ疑いがあるのではないかと思う。
ネパールが貧しい小さな国でなければ外交問題に発展するところだし、「疑わしきは罰せず」刑事裁判の鉄則により、検察は潔く鉾を収め帰国させるべきと思う。