<後編>総論的な易の解説書
周易の本の紹介、後半です。今回は占い面というよりも、哲学的もしくは教養的な側面について語っている本をピックアップしていきます。
ただし、この記事は入門書を範囲としているので、そこから大きく外れないものに限ります。
→前編はこちら。
1.『易と人生哲学』(安岡正篤(まさひろ)=著、致知出版社)
これを最初にもってきたのは、次の文をまず紹介したかったからです。
「東洋の学問をやると、日本人も中国人も結局は易に入ると申しましたが、これがなかなか独学では難しい。最初の踏み込み方、つまり易の習い初めが一番大切であります。初めに変な本を読んだり、妙な俗説から入っていくと、どうにもなりません。入門のときに一番正しい、本当に親切な道を選ばなければなりません。易学入門の序論、序説というものがたいへん大事であります。」(本書 P.83~84)
どんな分野でもそうだと思いますが、最初に読んだ本の影響というのは、わりと後々まで尾を引くものです。そのチョイスが良くないと、本流から大きく外れてしまう場合もあります。
そういうわけで、導入に関する本は少しくらい真面目なほうがいい。この意味で、本書は易のエッセンスを抽出したうえで、それを「人生哲学」として読みやすい口述形式で説いてくれています。書名そのままの内容です。
この本および、次の『易とは何か 易と健康(上・下)』では、易の十翼の一つに数えられる序卦伝に基づいて64卦を解説していて、決して個々の文章は多くないものの、一種のストーリーを楽しむかのように易に親しむことができます。
易の専門家を称する人たちからは「序卦伝は信憑性が低い」、「説明が強引だ」などと言われることもありますが、僕自身はそうは思いません。序卦の流れには日常生活のみならず、人生そのものにも役立つ智恵が織り込まれています。
2.『易と健康(上) 易とはなにか』(安岡正篤=著、株式会社DCS)
これは上下巻での刊行なんですが、下巻を紛失してしまったのか、そもそも買ってなかったのか忘れてしまいました。現状、下巻は手元にありません。
ただ、内容的には上巻は1の『易の人生哲学』と似たような内容で、易の基礎・根本にまつわる説明や、64卦の構成とその意味について書かれています。健康に関する内容は上巻には特になく、それらは下巻にて扱われています(養生や徳行)。
安岡氏の著書は講話録が多く、易にしても干支にしても一部のものだけを解説されているものがいくつかあるのですが、この1と2の本はちゃんと64卦の大意を読むことができます。
ちなみに、著者の実際的な64卦384爻の解説まで読みたい場合には、『易學入門』(明徳出版社)がありますが、旧仮名遣いのため、慣れていない方には読みづらいかもしれません。この理由のため、前編での書籍紹介には『易學入門』を入れませんでした。ただ、安岡氏の易をもっと知りたいという方は、手に入るうちに購入しておくとよいと思います。
3.『黄小娥の易入門』(黄小娥(こうしょうが)=著、サンマーク出版)
もともとは昭和36年に書かれた本だそうです(『易入門―自分で自分の運命を開く法』(光文社文庫))。その新装改題版。僕は書籍版ではなく、電子書籍版を持っています。
今でこそ、ビジネス向きの易占い入門書だとか、易タロットなどが簡単に手に入りますが、当時は易の本と言えば漢学者が書いたものや、実践家が書いた何巻にも及ぶ膨大なものや、とても高価なものなど、庶民が気軽に手に取れるものは少なかったようです。
そんな中あらわれた本書は、「易占」の一般への認知度・浸透度を格段に高めた一冊だったとのこと。64卦の大まかな読み方だけですが、身近な題材を例に、柔らかい語り口調で綴られています。昭和の書ということで占例は幾分古いものもありますが、そもそも事例というのはいつの時代であっても意義があり参考にできるものなので、さほど気にはならないでしょう。
本を開くのにも気合がいるような難しい易の本から入るよりは、こうした読本的なものから目を通していくことで、易に対する敷居の高さを感じることなく取り組んでいけるんじゃないでしょうか。そして、ここで興味が生まれれば、もっと易の奥深さや高度な内容を知りたいという欲求も出てくると思います。
4.『人生に生かす易経』(竹村亞希子(あきこ)=著、致知出版社)
5.『「易経」一日一言 (致知一日一言シリーズ)』(竹村亞希子=編、致知出版社)
6.『超訳・易経』(竹村亞希子=著、角川SSC新書)
同じ著者ということで、まとめて紹介します。他にもリーダー向けの易の本も幾つか出されています。
まず書いておかなければならないことは、これらは“易占い”の本ではありません。自己啓発とか教養、あるいは経営学のジャンルの本棚に置かれるべき本たちです。1・2で紹介した「人生哲学」の流れにあると言ってもいいでしょう。
なぜ易を学ぶか、という理由は人それぞれです。易の占い師として実践と鑑定に明け暮れる方も大勢いますし、教養の書として座右に置いている方も沢山いることでしょう。また、その両方をバランスよく人生に取り入れている方も少なくないと思います。
投資や事業展開において易者に頼ったり、自ら易を立てる人もいますが、実際に易を立てるのではなく、その時々の状況や立場などから、易の言葉をヒントに身の処し方を考え、決める。そういうあり方もある、というわけです。
易の占いと哲学・思想は矛盾するものではなく、一方にもう一方がリンクしています。だから、今の自分や相手が置かれている情勢を見て、そこに機を感じ、流れを読み取るなら、その時に必要な答えや行動が自然と導かれてきます(これを易的には「中する」という)。
この意味で、占いとして出た結論も、自らの内なる叡智から汲み出した結論も等しく価値があり、両者の間に優劣はありません。
ただ、そのためには繋辞伝などを含めた易に十分通じていて、八卦や64卦の全てについてまんべんなく理解している必要があります。でなければ、確信が持てず、単なる憶測や希望的観測、時にはそれとは気がつかないうちにエゴで行動を選び取ってしまうことにもなるからです。
処世学としての易は、エゴという人為的なご都合主義から離れ、天意と通じながら生きるということが一つの極致なんだろうと思いますが、その道はまさに「ローマは一日にして成らず」です。易に限りませんが、日々、叡智の源にアクセスし、謙虚に学んで吸収することが私たち人間には求められています。
これらの本は、64卦全てに対して体系的に解説されているものではありませんが、易を「ライフ(生活/人生/命)に生かす」という視点でとらえるには格好のテキスト群だと思います。
なお、著者の公式ホームページもあります。「『易経』はやわかり」というコンテンツに、易の基礎用語や心得、各卦の原文などが出ています。
7.『易の魅力と智恵』(井田成明(しげあき)=著、明治書院) 追加:2017/1/31
前編にある『現代易入門―開運法』の紹介文の中でも少し触れましたが、改めて取り上げます。副題として、「運命を切り拓くための親しみやすい易の入門書」とあります。
“親しみやすい”と銘打っているように、これは易の副読本的な位置づけですが、最初に基礎に触れ、それから現代でも使われることのある易の名言を解説したり、64卦それぞれの意味合いと、卦に即した行動・イメージを想像させる事例(ショートストーリーなど)が添えられています。巻末にはちゃんと易卦変爻の原文と通釈が載せられていて、ありがたい。
『現代易入門-開運法-』のほうは入手が困難になっているので、せめてこちらだけでも買って空き時間などに繰り返し読み込んでいくと、易の含蓄ある智恵が心に沁み込んでいくのではないでしょうか。
8.『奇跡の八卦-あなたの天命を導く中国は千年の叡智』(王永平=著、Terra Books) 追加:2017/1/31
書籍版を紹介しますが、今はそのKindle版が出ています。以前は著者のホームページ?(日本東洋精神文化研究所)で全文が掲載されていたんですが、Kindle版を出した都合か、今はなくなっています。
易卦の立て方というのはいろいろあり、昔ながらの筮竹や算木を踏襲している人もいれば、コインやサイコロ、時計(時間)、見つけた数字、状況から思い浮かぶ要素を使う人もいます。本書の場合は、旧暦の生年月日時に基づいて64卦を求める方法論です。これは、中国の宋代に生まれたとされる梅花心易(本書では時間の数を使うことから「梅花易数」という)の技法で、新たに考え出されたものというわけではないものの、一般の易書にはない方法なので珍しく感じると思います。
本書では、そうして求めた64卦で人生の傾向性(基本姿勢・恋愛傾向・開運指南)を読み解いています。また、後半では八卦の五行に基づく相性にも言及されていますし、コラム的ですが金運についても少し触れられています。
僕自身この技法を長年使ってきました。本書では上卦と下卦から64卦を求めるだけですが、実際には変爻まで求めることができるので、そこまで加味できるとさらに使い勝手も上がります。出し方はこちらのページを参照のこと。
梅花心易や梅花易数に関する本が高価になっていることもあり、この方法論を秘伝扱いする人もいたりしますが、邵雍(しょうよう)もしくは邵康節(しょうこうせつ)という人物や、梅花心易(梅花易数)について調べていれば出てくる技法ですので、ことさら秘密にする必要もないように思います。
ちなみに「心易」というのは、何らかの道具がなくても、その時々の自然現象や出来事、そこにあるものなどからインスピレーションを得て卦を立てることを言います。人の名前から卦を立てたり、飛んでいく鳥の数や方角を使ったり。時間で立卦する方法も、何も旧暦でなければいけないというルールがあるわけではなく、新暦の時間でもOKです。それに本書では2時間単位で区切っていますが、もっと小さな時間単位で卦を立てることもできます。
そういう自由度や応用性が高いことが心易たる所以といえますが、そこには八卦や64卦、陰陽五行などに対する並々ならぬ理解と、現象に対する洞察力、優れた発想力などが求められてきます。
9.『易の話 『易経』と中国人の思考』(金谷治=著、講談社学術文庫)
10.『易の世界』(加地伸行=編、中公文庫)
著者は異なりますが、大枠的には同じような内容ですので、一緒に紹介します。
といっても、これは入門者向けの易占いの本ではありません。易の歴史やその構成などについての学術書です。なので、いきなりこれらの本から易を学び始めてもハードルが高すぎて挫折するでしょう。
この記事で紹介してきた本よりも、もっと読みやすい通俗的な易の本は多々ありますから、それらも含めて自分自身に合ったもので易の基礎知識を学び、興味を育んでおくことが先決です。そのうえで、学問的に追求してみたい人や易の歴史的経緯などを知りたい方が手に取るとよい本だと思います。
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ひとまず、手元にあるものを見渡して良書だと思うものを取り上げました。
先にも書いたように、易の本は多く、それこそピンキリでもあるし、各個人が求めている価値観や目的も異なるので、万人にお薦めできる本を選ぶのは難しいです。
僕の場合は、実践(占い)と哲学の両輪を回していきたい人なので、前編では64卦384爻の解説がある本を、この後編では教養の側面を押し出している本を紹介しました。
ここで紹介してきた本やサイトを手掛かりにしながら、易の世界を探索したり、その魅力を感じ取っていってもらえたら嬉しく思います。
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