ジロ・デ・イタリア2010の第7ステージが行われ、終盤で逃げを決めたカデル・エヴァンス(オーストラリア/BMCレーシング)がアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン/アスタナ)やダミアーノ・クネゴ(イタリア/ランプレ・ファルネーゼヴィニ)らとのスプリントを制し優勝しました。
カッラーラからモンタルチーノまでの222kmで争われた第7ステージ。見どころはなんと言っても終盤に設定されている未舗装路のコースで、ここで大きな総合順位の変動があるかもしれないと予想していたのですが、雨と泥という悪条件が加わり、予想通りの大きな順位変動が待っていました。
今年のジロ・デ・イタリアは有料のJ-SOPORTS PLUSでの放送がほとんどで、第2ステージ以来のTV観戦となりましたが、サイクルロードレースファンとしては、こうした大きな総合順位に変動があるステージは胸が躍ります。
先に今年のジロ・デ・イタリアは有力選手がいないと書きましたが、昨日のレースを見る限り、総合優勝候補は昨日のTOP3に絞られてしまった観があります。グランツール無冠のエヴァンスとヴィノクロフですが、エヴァンスはご承知の通りアルカンシェル(昨年の世界選手権チャンピオンの証)を着ていますし、ヴィノクロフは目下絶好調ですから、どちらがマリアローザを獲得しても不思議はないはずです。
クネゴは2004年のジロ・デ・イタリアのチャンピオンですが、その後も若手の旗手として期待されながら、グランツールでは生彩を欠いてばかりでした。体系的にもワンデーレーサーのそれになっていて、かつてあれだけ強かった山岳で大きく遅れるシーンばかり見てきたような気がしています。ところが、昨年のヴエルタ・ア・エスパーニャで見せた鬼気迫る走りは、今年に繋がるかもしれないと見ていましたが、今年のクネゴは随分と違うなあという印象を強く受けています。
目下最強のステージレーサーであるアルベルト・コンタドール(スペイン/アスタナ)や彼の最大のライバルと目されるアンディ・シュレック(サクソバンク/ルクセンブルグ)、アレハンドロ・バルベルデ(ケース・デパーニュ/スペイン)、そして名匠ヨハン・ブリュイネール率いるレディオ・シャックが揃って顔を見せていない今年のジロ・デ・イタリアならば、この三人の中からマリアローザが出ても少しも不思議はありません。
個人的にはコンタドールのツール・ド・フランスとの絡みでヴィノクロフに頑張って欲しいと思っているのですが、アルカンシェルのエヴァンスやステージレースでの輝きが戻りつつあるクネゴにもチャンスは十分にあるはずです。
第7ステージ終了時点の総合順位は、ヴィノクロフがマリアローザを奪回し、2位のエヴァンスに1分12秒のアドバンテージを得ています。昨日までのマリアローザのヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア/リクイガス・ドイモ)は1分33秒遅れの5位へ後退、チームメイトのイヴァン・バッソは1分51秒遅れの8位へとさらに後退を余儀なくされています。
落車などもあり、リクイガスにとっては不運な一日だったかもしれません。ただ、気になったのはチームがバッソのエースに拘ったことでした。個人的にはニバリならマリアローザも夢ではないと思っていたのですが、結局バッソを曳かされることになりタイムも大幅に落としてしまいました。落車直後は確かに走りに生彩を欠いていましたが、後半は何度もバッソを振り返るほどの状態に戻っていたのですから、バッソを置いて行けば差は1分以内におさまっていたはずです。
2007年のツール・ド・フランスではディスカバリーのエースはライプハイマーでしたが、ヨハン・ブリュイネールはライプハイマーよりコンタドールの走りの方が上と見るや、あっさりとコンタドールをエースに変更し、ツール・ド・フランス通算8勝という偉業を成し遂げたのです。
リクイガスは2007年のジロ・デ・イタリアをダニロ・ディルーカで制して以来、フランコ・ペッリツォッティ(イタリア)が2008年4位、2009年は3位と活躍を見せて来ました。今年はフランコ・ペッリツォッティの名前がスタートリストにはありませんので、昨年ツール・ド・フランスの山岳で暴れまくったニバリに期待していたのですが・・・
バッソの復活は日本人なら誰もが願っていることなのかもしれませんが、復帰後の彼の走りを冷静に見れば、彼の今の力ではグランツールには勝てないことは私にも分ります。少々酷な言い方になるかもしれませんが、ステージ優勝はあっても、総合優勝は多分もう難しいと見ています。だからこそ、ニバリなのです。今年リクイガスがジロ・デ・イタリアで好成績を期待しているのであれば、経験を度返ししてニバリに賭けてみる手もあったのではと思っています。
リクイガスには他チームも羨むほどの若手の有力選手が揃っています。昨年ジロ・デ・イタリア総合3位のペッリツォッティ、一昨年ツール・ド・スイスを制したロマン・クルイジガー(チェコ)、そして昨年のツール・ド・フランスの山岳で検討を見せたニバリの3人がそれです。確かにジロ・デ・イタリアを征し、ツール・ド・フランスでもあのランスを脅かしたバッソは格上でしょう。格上の選手をなおざりにすると、昨年のアスタナのようになることもありますが、プロの世界なのですから格より今の調子が何より重要だと思います。
手薄といわれる今年のメンバーですが、ステファノ・ガルゼッリ(イタリア/アクアサポーネ)、ジルベルト・シモーニ(イタリア/ランプレ)などジロ・デ・イタリアでも優勝経験のある選手たちの名はあります。ただ、どうしても昔の名前で出ていますという感じは拭い切れません。ガルゼッリは昨日のステージでも頑張っていましたが、もう往年の力はないはずです。古巣に戻ったシモーニも年齢的に峠は既に越えています。
コンタドールの牙城は当面ゆるぎないものですが、その牙城を崩すとすれば、アンディ・シュレックやリクイガスの若手三人ではないかと私は予想しています。それだけに、リクイガスの昨日の作戦が気になって仕方がないのです。
今年37歳になるヴィノクロフですが、復帰直後だった昨年とは全く別人のような走りを見せ、5年ぶりにリエージュ~バストーニュ~リエージュを制覇し、その勢いのまま前哨戦ジロ・デル・トレンティーノでも総合優勝を果たしていますので、大きなアクシデントがなければ優勝候補の筆頭だと思っています。
万年2位というイメージが定着した観のあるカデル・エヴァンスも世界選手権の優勝で一皮むけた印象です。今年はフレッシュ・ワロンヌで鮮やかなラストスパートを決めてクラシック初勝利を飾っていますので、優勝候補からは外せないと思います。クネゴはオランダとチームTTで失ったタイム差がかなりあるため、総合優勝は厳しいと見ています。もう一人優勝候補を挙げるなら山に強い若手ニバリでしょう。ただ、チームがこのままバッソ・エースに拘るようだと難しいかもしれませんが・・・
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