【霊告月記】第四十一回 来たるべきアジア主義 欅坂46&北一輝&宋教仁
パウル・クレー 歴史の天使
】 霊告 【 連帯を求めて孤立を恐れず。我らみな実存的ロマン主義に徹すべし! Keyakizaka46
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≪討議≫ 来たるべきアジア主義
矢田部 健史 × 川端 秀夫
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※冒頭の発言※千坂恭二氏:思想史家 『歴史からの黙示・アナキズムと革命』(航思社)『思想としてのファシズム・「大東亜戦争」と1968』(彩流社)
千坂恭二:しばしば「右でも左でもない」という立場に遭遇することがある。右と左の「中間」なのだろうが(もっとも、このような立場は右寄りが多く、それを糊塗するため中間派を称することが多い)、中間ほど物事が見えない立場もない。良くも悪くも物事を見るには、極左か極右かはともかく、「極」的立場に立つことだ。空間的な喩えでいえば、中間にいると背後は見えないが、極にいると全てが見渡せるからでもある。
矢田部 健史:第三者だからといって公正中立で客観的なわけではないということですね。その道を極めた頭山満と幸徳秋水がイデオロギー的立場の相違など御構い無しに親しく交流していたこととも関係する議論なのではないかと思いました。
川端秀夫: 矢田部さん。勘が鋭く教養が深い貴方のご議論にはいつも感銘を受けております。千坂さんの発言から日本のアジア主義の問題が関連するのではないかというご指摘には、まさにそれは図星ではないかと私も思うのです。
ただ、事実関係に若干の記憶の間違いがあります。ファクトを押えるということは、どのような議論においても大事なことですので、僭越ですが指摘をさせて頂くことをお許し下さい。
竹内好の最も大事な労作「日本のアジア主義」より引用します。
「アジア主義が右翼に独占されるようになるキッカケは、右翼と左翼が分離する時期に求めるべきだろう。その時期はたぶん明治末期であり、北一輝が平民社と黒竜会の間で動揺していた時期である。」
「ルソー主義者である中江兆民と、玄洋社の頭山満とは、同時代の思想家の中で、たがいに相ゆるす仲だった。民権運動においても、条約改正問題についても、二人は同一歩調をとったし、東亜経綸においても主張にほとんど差がなかった。頭山は勤皇家だが、中江も君主制を否定はしなかった。そして兆民は晩年に対露主戦論になるが(これは転向ではないと葦津はいう。)この点も玄洋社=黒竜会と軌 をーにしている。しかし、兆民の弟子の幸徳秋水と、頭山の弟子の内田良平に至って、思想は大きく分かれた。」
つまり、「その道を極めた頭山満と幸徳秋水がイデオロギー的立場の相違など御構い無しに親しく交流していた」というご指摘に、事実関係の間違いが含まれているのです。
上記竹内の認識にもし間違いがないとすれば、頭山満と中江兆民のイデオロギー的立場の相違はほとんどなかったので親しく交流していたという解釈になりますし、頭山の弟子の内田良平と中江の弟子の幸徳秋水はイデオロギー的対立があったがゆえに親しい交流もなかったということになる。
つまり、右翼と左翼が分かれるその源流は何処にあったかという問題を竹内好は、葦津珍彦の評論「明治思想史における右翼と左翼の源流」を踏まえてここで議論しているのです。
竹内好の「日本のアジア主義」は竹内好の全評論の中でのベストの作品です。この論文は一文・一句も揺るがせず正確に押える必要があります。必読文献です。以上。
矢田部 健史:とても興味深く拝読しました。勘の良し悪しはさておき、私の場合は勘に頼り過ぎてテキスト読解が疎かな傾向は否めません。ご専門であるアジア主義について詳細にご教示いただきまして誠にありがとうございます。いかに私がこの問題の基本文献である竹内好の著作すら押さえておらず、頭山満や幸徳秋水に対する理解がいい加減かが露呈してしまって、たいへんお恥ずかしい限りです。「日本のアジア主義」は時間を作って集中的に読み込まなくてはと思います。これはお世辞ではなく、川端様の文章はまさに建設的批判のお手本と言うべきで、随所に受け手に対する配慮が感ぜられ、お気遣いに心から感謝申し上げます。思想という問題を議論する上で、私はつい感情的になりがちなものですから、見習わなくてはと思いました。
ご指摘の通り、中江兆民は君主制を否定していませんね。それで思い出されるのは、私の地元である栃木県の足尾鉱毒事件を調査する過程で知ったのですが、大逆事件で逆賊とされた幸徳秋水は田中正造の天皇直訴事件の際、直訴状の起草に関与していますけれども、実は木下尚江は強力な反天皇主義者であり、田中と幸徳は猛反対を見越して、木下には一切情報を与えずに決行、天皇直訴事件研究も蚊帳の外にいた木下の証言に長らく依拠していたため、事実関係は不正確なまま理解されてきた歴史があります。足尾鉱毒事件研究だけ見ても、そこまで幸徳秋水は木下尚江ほど過激な反天皇的な立場では無かったのではないかと思っています。
(SNSのFacebook・2019年2月19日ー21日の応答記録)
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討議を終えての感想文二題
◇ 自己紹介に代えて 矢田部 健史 ◇
自己紹介を求められるといつも言葉に窮してしまう。アレハンドロ・ホドロフスキー監督が言うように、自分が一体何者なのかは正直なところ、よく分からない。
昭和末期に生まれ、戦争の傷を引き摺る祖父母を持つ私にとって、9.11やアフガニスタン紛争、イラク戦争の勃発、森首相による「日本は天皇中心の神の国」発言や小泉首相による靖國参拝、日教組と新しい歴史教科書を作る会の対立など、同じ戦争を経験したはずの日本人同士が右左に分かれて正反対の意見をぶつけ合うのが不思議でならなかった。
実際のところは一体何が起こっていたのかを祖父母に尋ねたいと思いつつも、心の傷に触れてしまうのではないかと躊躇し、とうとう聞きそびれてしまったが、それでもどうにかして、一族の記憶の欠落を埋めるべく、気づけば、私は戦争体験者への聞き取り(「取材」と呼べるほど大袈裟な代物ではない)を始めていた。
私が思い出すことの出来る最古の政治的な記憶は、幼稚園の頃に北朝鮮の飢餓に苦しむ子供たちの姿をニュースで観て衝撃を受け、小学1年生から歴史漫画でフランス革命を勉強し、階級社会の矛盾を解決するためには、革命が必要だと考えていたが、我ながら早熟な子供だったように思う。
日本浪曼派やアジア主義への関心も、ノンポリで、インテリではない両親の下で育ち、子供時代からリベラルな思想の持ち主であった私には、理解することが困難で、解き明かすべき謎に思えた。
保田與重郎と交流のあった恩師から『日本浪曼派の時代』を読むように薦められたり、今は亡き東條由布子さんや松本健一先生から東條英機や北一輝についてお聴きしたことも、戦後は悪役と見做されている人物への理解を深める大きなきっかけとなった。
私は2006年頃からmixiに参加して、千坂恭二先生の投稿などを通じて政治思想を勉強し始めたわけだが、川端さんの師に当たる橋川文三のコミュニティを発見し、橋川文三や『日本浪曼派批判序説』の存在を知ることになる。
しかしながら、ほどなくして波瀾万丈の人生に突入し、今日に至るまで大学進学は延びに延びており、橋川文三や竹内好の著作にじっくり親しむ機会を得られずにいることが残念でならない。
先日私はFBに西郷隆盛の人間性とキリスト教との親和性について書いたが、川端さんから、奇しくも橋川文三と私がまったくパラレルに同様の結論に到達していることを指摘されて驚愕し、なおさら私の問題意識を先取りして既に答えを出している橋川文三を読む必要性を痛感させられた(※注)。残念ながら、私が生まれる4年前に亡くなられているため、お会いすることは叶わなかったが、是非ともリアルタイムで講演を聴いてみたかった。
※管理人による注:西郷とキリスト教の関係については下のブログ記事参照。
☛ 好日30 西郷隆盛の「敬天愛人」
とはいえ、謦咳に接する機会は無くとも、川端さんの文章を通じて橋川文三の精神に触れることが出来て、私はとても幸運だし、61歳という若さで没してから36年が経過した現在もそうした問題意識を継承する良き弟子に恵まれ、これぞまさしく理想的な師弟関係だと言えるのではないかと思う。
末尾ながら、こうして川端さんと知り合うきっかけを与えてくださった千坂恭二先生や尾崎全紀さんに心から感謝を申し上げる次第である。
◇ あとがきに代えて 川端 秀夫 ◇
今回のブログ記事掲載の経緯は、上の矢田部さんの自己紹介文にてほぼ明らかなように、Facebook 上での応答をそのまま採録したものである。
現在日本の歴史認識の課題としてアジア主義の議論の建設的な再提起がぜひとも必要だと私は考えている。今回図らずも矢田部さんに語り掛ける形でそのチャンスを得たことを幸いと捉えブログ記事に仕立てた。
矢田部さんとはつい最近SNSで知り合ったばかりなので、彼がどういう人なのか、じつは私も良く知らなかった。そこで記事の後書きにと自己紹介文を請うたところ快く受けていただいたという次第である。
いろいろと述べたいことは、山ほどあるような気がするが、これだけで控えておく。ただ、橋川文三、そしてアジア主義。このふたつの名前は日本の将来にとって極めて重大な意義を有することだけを述べてあとがきに代えたい。
】 霊告 【 すべてのアジアの人民に告ぐ。友愛の翼得て天空高く飛翔せよ! 北一輝&宋教仁
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