かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 287

2024-07-09 11:35:10 | 短歌の鑑賞

2024年度版 渡辺松男研究35(16年2月実施)
  【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)118頁~
   参加者:S・I、泉真帆、M・S、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:S・I  司会と記録:鹿取 未放


287 女子職員同士のながきいさかいもひとりの臨職泣かせて終わる

        (レポート)
 女子職員同士の長いいさかいが続いて、職場の能率を妨げることになった。一方の側に非があるわけではない。が、立場上、正規職員の方を守らなければならないのである。「泣かせて」には辞めさせられた臨時職員の悔しい思いとともに、厳しい作者の管理職としてのやりきれない思いが窺われる。(S・I)


      (当日意見)
★「泣かせて」は必ずしも辞めさせられてとはかぎらないし、〈われ〉が管理職とも限
 らないと思いますが。正規、臨職どちらが悪いとも限らないのに上司が中に入って
 臨職の方を黙らせてしまった、そういう場面だと思います。〈われ〉はそういう一連
 の流れを端から見ていて苦々しく思っている、ともとれます。(鹿取)
★女子職員同士がながきいさかいをしていたんだけど、そのはけぐちを臨職に向かわ
 せて終わらせた、ということではないですか。(真帆)
★そうも取れますね。私は正規職員と臨職が例えばお茶当番とか朝の机拭きとかをす
 るとかしないとかいさかいをしていたんだけど、上司が介入し、臨職に全て押しつけ
 て不本意な形でいさかいが終了したと取りましたが、誰と誰が争ったかは書いてない
 ですものね。ああ、でもこの例は分かりややすいけどちょっと軽すぎますね。実際は
 もっと陰湿ないさかいなんでしょうね。(鹿取)
★作者は傍観的に見ていたかもしれないけど、一応上司としておきました。善悪は別に
 してどちらを取るかと言われると、上司としては正規職員を残さざるをえない。長い
 いさかいですから辞めさせられたと私は取りました。辞めさせられたと取る方が「泣
 かせて終わる」の解釈にふさわしいと思います。(S・I)
★辞めさせるという言葉は歌のどこにも無いですが。(藤本)
★私は一連を読んで、公務員としての厳しい立場、自分とは合わないかもしれないけれ
 ど、辞めさせた。長いいさかいだからどちらかが辞めないと終わらない訳です。
   (S・I)
★そこまで解釈を広げる必要があるんでしょうか。長いいさかいというのは2~3日と
 かその程度じゃないですか。何年もなんってないと思います。(藤本)
★私は長いとは半年とか1年とか、そういうスパンだと思いますけど。(鹿取)
★女性の方が諍いをしやすいと思います。それでは仕事の能率が上がらない。だから辞
 めてもらわないといけないという思いがどこかにあったのではないでしょうか。それ
 で元の平和な職場に戻った。(S・I)
★「女性の方が諍いをしやすい」はまずいと思います。私はこの歌を読んで古いなと思
 いました。時代が違うなって。(藤本)
★長い長い陰湿ないさかいを見せられる方は、職場の雰囲気が悪くなるし仕事の能率も
 上がらないから確かに嫌でしょう。だからやむなく上司が介入した。S・Iさんの意見
 聞いていて、「泣かせて」の中には「辞めさせた」という選択肢もありとは思いま
 す。しかし、「理不尽な条件を押しつけられて居残っている」選択肢もありと思いま
 す。あと、藤本さんが古いと言われましたが、藤本さんの言わんとすることはよく分
 かります。この歌「女子職員同士」というところに限界があるように思います。これ
 が男性の職員同士のいさかいだったら、作者はこんなふうに歌わないでしょうね。正
 規だろうが臨職だろうが、女性の労働を補助的とみている視点からの発想のように思
 えます。それは90年代という時代の限界でもあるかもしれませんけど。無意識だけ
 ど男性という強者の側に立った見方だと思います。ジェンダーという視点で考えたら
 問題ありかもしれませんね。(鹿取)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする