かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 2の129

2019-01-31 20:06:56 | 短歌の鑑賞
  なぎさ用渡辺松男研究2の17(2019年1月実施)
     Ⅱ【膨らみて浮け】『泡宇宙の蛙』(1999年)P85~
     参加者:泉真帆、M・I、K・O、岡東和子、A・K、T・S、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


129 おどおどとサラリーマンは昇給しおどおどと花の陽を浴びに出る

           (レポート)
 「おどおどと」のリフレインが巧みだ。昇給したのをおどおどと受取り、しかしやはり嬉しくて花の陽を浴びに屋外へ出る。(真帆)


     (当日意見)
★真帆さん、この花は何だと思いますか?(鹿取)  
★考えませんでした。(真帆)
★次の歌を見ると「地へ花片散り」だから桜だと思いますが、この歌一首だったら職場の歌壇か近
 所の公園の花とでもとれますね。(鹿取)
★一般的にいって4月から給与体系が変わるでしょう。だから季節は春だから桜(A・K)
★やはり字面に咲いている花ではなくて桜だと思います。(T・S)
★私は桜とは思いませんでした。桜というと悲壮な感じがするし、悲しみが入る。だから戸外に出
 て花壇だろうと。昇級したのをもらっていいんだろうかとか、でももらってみると嬉しいし。「お
 どおど」に感情が出ている。(真帆)
★こういう場面におどおどを使うのがすごい。(鹿取)
★おどおどが面白いですね。やはり花は桜だと思いますが、古典を踏まえているのかな。昇級だと
 晴れやかな場面だから桜。恥じらいのあるうれしさがにじみ出ているような。音もよく響き合っ
 ているし好きな歌です。(K・O)
★最初のおどおどは、使用者が私を昇級させてくれたのですね。あとのおどおどは自分の気分だか
 ら主体的。このふたつのおどおどのニュアンスの違うところが面白い。(A・K)

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渡辺松男の一首鑑賞 2の128

2019-01-30 19:03:26 | 短歌の鑑賞
  なぎさ用渡辺松男研究2の17(2019年1月実施)
     Ⅱ【膨らみて浮け】『泡宇宙の蛙』(1999年)P85~
     参加者:泉真帆、M・I、K・O、岡東和子、A・K、T・S、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放

128 暴力的にたんぽぽの絮吹き飛ばしサラリーマンははつかうつむく
   
        (レポート)
 暴力的に吹き飛ばすのがたんぽぽの絮なのだからなんだか切ない。そしてユーモラスだ。勝てるとわかっている相手になら強い態度にでることができる、そんなユーモラスな弱虫くんが頭に浮かぶ。乙女のやわらかな息でさえ吹き飛ぶ絮を、暴力的に吹き飛ばしうつむく。「うつむく」の悲しみが切切とつたわる。(真帆)


     (当日意見)
★誰にでも吹き飛ばせるたんぽぽの綿を吹き飛ばしているのを恥ずかしいことだとおもっているの
 だろうなと思います。(岡東)
★初句の「暴力的に」はとても説明的なことばですが、それを敢えてもってこられたところが印象
 的です。そのほかは共感を得やすいのですが、「暴力的に」の言葉遣いに技を感じます。他の言
 葉だったら平凡な一首になってしまいます。この一連はこれまで見てきたいわゆる渡辺節(ぶし)
 というものとは違う感じです。(K・O)
★126番の「ひんやりとサラリーマンはひとを待つ雲見ては雲にすこしほほえみ」も同じですが
 初句に意外な語を持ってきて結句は平凡にして調和を取っているなと思いました。(慧子)
★126番とこの歌は作り方が同じですよね。「ひんやりと」や「暴力的に」で短歌になった。
   (A・K)
★そうなんですが、126番は倒置ですね。「雲見ては雲にすこしほほえみひんやりとサラリーマ 
 ンはひとを待つ」。この128番歌は上から順番に詠まれている。対比は「暴力的に」と「はつ 
 か」ですね。よく計算されています。(K・O)



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番外編 渡辺松男研究 歌集別「死」の歌の頻出度

2019-01-29 20:03:48 | 短歌の鑑賞
  ブログ版渡辺松男研究2の17(2019年1月実施)
     Ⅱ【膨らみて浮け】『泡宇宙の蛙』(1999年)P85~
     参加者:泉真帆、M・I、K・O、岡東和子、A・K、T・S、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放




 雲の歌の頻出度のグラフを探していたら、2002年度に作ったこんなグラフも出てきたので挙げてみる。2002年なので比較している歌集が古いのだがお許しください。(鹿取)


*   赤光(初版)  (1913年刊) 斎藤茂吉

世紀 (2002年刊)                 馬場あき子

**  〈テロリズム〉以後の感想/草の雨 (2002年刊) 岡井 隆

***  手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ) (2001年刊)   穂村 弘

牧神 (2002年刊)                  坂井修一 


│死の歌の数 │総歌数 │歌集名 │ │
│ │ │ │ │
│13 │409 │寒気氾濫 │3.2%│
│ │ │ │ │
│19 │342 │泡宇宙の蛙 │5.6%│
│ │ │ │ │
│33 │485 │歩く仏像 │6.8%│
│ │ │ │ │
│36 │838 │赤光       *│4.3%│
│ │ │ │ │
│14 │403 │世紀 │3.5%│
│ │ │ │ │
│33 │364 │テロリズム  **│9.1%│
│ │ │ │ │
│9 │454 │牧神 │2.0%│
│ │ │ │ │
│11 │241 │手紙魔まみ *** │4.6%│



           

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グラフ追加版 渡辺松男の一首鑑賞 126

2019-01-29 11:58:03 | 短歌の鑑賞
  なぎさ用渡辺松男研究2の17(2019年1月実施)
     Ⅱ【膨らみて浮け】『泡宇宙の蛙』(1999年)P85~
     参加者:泉真帆、M・I、K・O、岡東和子、A・K、T・S、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


126 ひんやりとサラリーマンはひとを待つ雲見ては雲にすこしほほえみ

      (レポート)
 お題がサラリーマンの題詠のように、この一連はサラリーマンの歌群になっている。ひんやりと待つさまが第四句の「雲見ては雲に」につながり、長い時間ぽつんとそこにいてあれこれ眺めながら人を待つ姿がよく伝わってくる歌だ。(真帆)

     (当日意見)
★頭に「ひんやりと」を持ってきたのがとてもいいと思います。下の句にどう繋がるかはよくわか
 らないのですが、感性で持ってきたのでしょうか?(慧子)
★雲と繋がっているのでしょう。雲って雨粒の塊ですから、ひんやりしているのでしょうね。でも
 確かに「ひんやりと」でこの歌は詩になったと思います。(鹿取)
★サラリーマンが人を待つ場面って、人間としての発展があまりない場合が多い。そういう心象が
 「ひんやりと」になっている。また「ひんやりと」のヒと「ひと」のヒの音の響き合いとかひら
 がな表記も柔らかくていい感じです。(K・O)
★「サラリーマンはひんやりと」ではなく、「ひんやりとサラリーマンは」と「ひんやりと」を 
 初句に持ってこられたのが素晴らしい。文法上はこの「ひんやりと」は「待つ」に掛かっている
 のだと思います。「ひんやりと」にサラリーマンの人間関係の在りようがよく出ています。「さ
 びしい」と言ったら駄目だし、「楽しい」と言ったらもっと駄目だし。「雲見て」もいいし、「ほ
 ほえみ」も効いていますね。「ほほえみ」って難しいので短歌には少ないですよね。(A・K)
★坂井修一さんは「ほほゑむ」をよく使われます。川漄利雄さんの雑誌に頼まれて坂井さんの歌集 
 『アメリカ』の評を書いたことがありますが、その題が「ほほえむ博士」でした。坂井さんはそ 
 れほど「ほほゑむ」の使用頻度が多いです。この松男さんの歌については皆さんがおっしゃった 
 通り「ひんやりと」がとても活きているし、「ほほえみ」もいいと思います。サラリーマンとい 
 う〈われ〉の在りようを羞恥をもって、でも肯定しているというそんな気分かなあと思います。 
 ここで待つ人は恋人でもいいかなと思いますが、それは各人の読みでいいのでしょう。(鹿取)

     (後日意見)
 「雲」というのは渡辺松男にとって重要なモチーフである。地上と天上をつなぐ中間的な存在なのだろうか。
 2002年に作ったグラフが出てきたので、その写真を挙げて少し説明したい。「雲」と「死」と「樹木」の出てくる歌の数を、『寒気氾濫』(1997年刊)『泡宇宙の蛙』(1999年刊)『歩く仏像』(2002年刊)の3冊について調べ、棒グラフにしているが、樹木の数が多すぎてはみ出すからか助樹木については数値だけになっている。(鹿取)


寒気氾濫  雲9  死12  樹木110

泡宇宙の蛙  雲16  死19  樹木42

歩く仏像  雲14  死33  樹木80

  グラフは左側の黄色が「雲」、右側が「死」の歌





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グラフ入り 渡辺松男の一首鑑賞 2の127

2019-01-28 14:06:26 | 短歌の鑑賞
  なぎさ用渡辺松男研究2の17(2019年1月実施)
     Ⅱ【膨らみて浮け】『泡宇宙の蛙』(1999年)P85~
     参加者:泉真帆、M・I、K・O、岡東和子、A・K、T・S、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


127 砂利粒のサラリーマンは砂利のなかがんばっていると妻にも言わず

      (レポート)
 サラリーマンは社会の歯車のひとつとよくいわれるが、一首では小さな砂利にすぎない自分(サラリーマン)と詠む。石ではなく砕けた砂利粒にすぎない自分がそれでもがんばっている、しかしそんな健気なことは妻には言わないのだ。照れくさいのか、男の矜持か。(真帆)


      (当日意見)
★サラリーマンの位置づけのようなものがよく出ていると思います。がんばってるんだけど、奥さ
 んにはそんなことは言わない。照れくさいのでしょうか、空元気なのでしょうか、妻の立場とし
 てはいろいろ考えさせられます。(岡東)
★砂利粒のざらざらとした音感がこの歌によく合っていると思います。妻についてはたまたまもっ
 てきただけと思います。砂利粒のような自分が精一杯頑張っていることがいいたい。(慧子)
★砂利粒のようなサラリーマンというのは誰でも持っている感覚で、いい歌とは思わない。天下の
 渡辺さんに対して申し訳ないけど、渡辺さんがわざわざ作る必要はない歌だと思う。(A・K)
★自分を砂とか岩に例える歌はたくさんあるけど、砂利というのは砂より少し大きい。その砂利に
 例えられたのは非凡だと思います。砂利の微妙な隙間感とか、砂だと区別が付かないけど砂利だ
 と見分けが付くというか、そこが非凡です、松男さんだから発見できた。下の句は平凡だし考え
 どころだけれど、上の句を目立たせる為には仕方がないのかなあとか。(K・O)
★私はだいたいA・Kさんの意見と同じだったので、K・Oさんの意見を、ああそういう読み方も
 あるのかと驚いて聞きました。慧子さんは妻は付け足しとおっしゃいましたが、そんな事は無く
 て大切なのだろうと思いますが、それは後で述べます。ところで、「妻にも」ってあるのですが
、 「にも」って何でしょう?勢いですか。妻以外にそんなことをいう対象って無いと思うのですが。
 親や子供に言うわけもないし、まして同僚になんか言わないし。でも、出世競争の中で、トップ
 に立とうとは思わないまでも周囲には負けたくないという思いはある、それで頑張っている、そ 
ういう自分に含羞を感じているのでしょう。私がこの歌を読んでいちばんびっくりしたのは「妻」
 という言葉で、この言葉は第一歌集にもほとんど出てこない。(昔、誰を対象にうたっているの
 か円グラフで描いたことがあるので、それを探してみます。余談ですけど、松男さん対象の評論
 にこのグラフを付けたら、こんなのは要らないって、小高賢さんにつっかえされましたが(笑) 
   (鹿取)


      (後日意見)
 家族の誰をうたっているかの円グラフは2002年に作ったもの。文中に取り込もうとしたが私に技術がなくてできないので、歪んでいるが写真で挿入する。『寒気氾濫』(1997年刊)『泡宇宙の蛙』(1999年刊)『歩く仏像』(2002年刊)の3冊について調べているが、妻がないのが分かるだろう。『泡宇宙の蛙』でもこの1首だけかもしれない。ただし既に鑑賞した「少し哲学」の一連では7首中6首に「配偶者」という語が使われている。
 
 妻が読まれなかったのは、身近過ぎたからだろうか?後年、妻が病気になり、介護し、亡くなられた後にはたくさんの妻の歌が詠まれることになるのだけれど。
 ただし、渡辺松男の家族詠はいわゆる事実に即した家族詠とは微妙に異なるので、全てが実在の家族を反映したものではないようなので、その点はお断りしておく。(鹿取)

 最初のは、歌集に出てくる表記をそのまま用いたグラフ。


       

       

       

  次は、母、妣などをまとめて「母」とするなど単純化したもの。%がよく分かる。すなわち『寒気氾濫』では父が圧倒的に多く71%、『泡宇宙の蛙』は母と妣などの系列で67%と過半数を超え、『歩く仏像』では父の系列46%と母・妣系列42%とが拮抗している。
%がよく分かる。



│寒気氾濫 │ │
│ │ │
│父 │15 │
│弟 │3 │
│母 │2 │
│父母 │1 │

                                         

│泡宇宙の蛙 │ │
│ │ │
│母 │42 │
│父 │9 │
│祖父 │5 │
│祖母 │4 │
│姉 │3 │


   

│歩く仏像 │ │
│ │ │
│父 │22 │
│母 │20 │
│祖母 │4 │
│祖父 │2 │




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