かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

写真入り 馬場あき子の外国詠 165(ネパール)

2021-05-31 16:58:08 | 短歌の鑑賞
     
             王宮広場


        ネパールの軍隊?乗っているバスを駐められたところ

  馬場の外国詠 21(2009年9月実施)
    【牛】『ゆふがほの家』(2006年刊)94頁~
     参加者:S・S、曽我亮子、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子    司会とまとめ:鹿取 未放


165 聖なるもの戦火にあはず生きうるや街に反芻(にれが)むヒンドゥーの牛

        (レポート)
 一旦、その国に戦端が開かれれば、いかに聖なるものといえども戦火をまぬがれることは不可能でしょう。無心に草を食む聖牛の平和でのどかな様子を見るにつけ、戦争無き世を願われる熱いお心が感じられます。(曽我)


      (当日意見)
★どんな戦争があるのか。リアルでない。(慧子)


       (まとめ)(2009年9月)
馬場あき子がネパールを訪問した2003年当時、この国は長い内戦途上にあった。すなわち1996年から2006年まで11年間続いた政府軍とネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)との戦いである。マオイストは王制打破、ネパール人民共和国の樹立を目指して戦ったが、2006年包括的和平合意で内戦は終結、国際連合ネパール支援団が停戦監視をしている。
 一方、王制については、2001年の王族殺害事件、その後のギャネンドラ国王の親政、2005年には絶対君主制導入と極端に暴走したが、2008年5月、ネパール制憲議会が連邦民主共和制を宣言、240年間続いた王制に終止符が打たれた。その後も紆余曲折をたどって、現在暫定憲法・暫定政府のもと、22政党連立のマダグ・クマール・ネパールが首相の座に就いている。(『ネパール王制解体』小倉清子著・日本放送出版協会出版 等を参照)
 以上、ネパールの近年の政情をかいつまんで記したが、常に政情は不安定で、馬場が訪問した2003年も観光旅行は禁止される危惧もある状況であった。また、チベットの難民も多く流入していて、難民村などが造営されてもいた。だから「ヒンドゥーの牛」にとって戦火は絵空事ではなく常に身近に迫っていたのである。もちろん民衆にとっても同様で、この歌、牛を言いながら一般民衆のことにも思いを馳せているのであろう。そこに祈るような思いがひそむ。(鹿取)


     (後日意見)(2015年5月)
 上記2009年9月にまとめを書いた以降も、政治は紆余曲折をたどり、情勢は安定したものではなかったようだ。現在の首相は2014年2月よりネパール会議派のスシル・コイララ。
 4月25日マグニチュード7.8の地震が発生し、数日後カトマンズ市内にコイララ首相が視察にあらわれると国内から集まったボランティアたちが首相に帰れコールを浴びせたというニュースも伝わっている。ともあれ、今回は戦火ではなく自然災害だが(もちろん実効ある対策がされてこなかった点から見ると人為災害の面もあるが)「ヒンドゥーの牛」たちはどうしているであろうか。   (鹿取)

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渡辺松男の一首鑑賞  234

2021-05-30 17:34:38 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究28(15年6月実施)【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:石井彩子、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、
       渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


234 山よ笑え 若葉に眩む朝礼のおのこらにみな睾丸が垂る

      (レポート)
 山よ、笑いなさい、若葉の力強い生命力に目がくらんで朝礼の男の子等の睾丸―みなしょんぼりと垂れ下がっている様子を(曽我)
 ・山笑ふ=俳句の季語=春。山の木々が芽吹き花が咲き色づいていく様子を、ほがらか      に笑う人に例えて「山笑ふ」と言い表す。語源は「春淡冶にして笑ふが如く
     (北宋の画家・郭煕の言葉) 『季節のことば』(自由国民社)


         (当日意見)
★しょんぼりと垂れているわけではないと思いますが。思春期前の少年達なんですね、若葉でいき
 いきと輝いている山を背景に、朝礼に並ばされている少年達がいる。若葉の照り返しで眩しくて
 くらくらとしている少年達にはみんな睾丸が垂れている。何かかわいらしい感じがしますけど、
 思春期ちょっと前あたりの少年達の恥ずかしさ、滑稽さも見ているのかな。「山よ笑え」はおか
 しいから笑いなさいと言うのではなくて、曽我さんが書いてくれているように「山笑ふ」という
 季語の命令形だろうと思います。(鹿取) 
★「若葉に眩む」で全体が肯定的な輝かしい感じになっていると思います。さわさわとした中に、
 男の子達がいっちょうまえに睾丸を付けていて、楽しい感じ。(真帆)
★「眩む」というのが曽我さんの意見の裏付けになると思います。眠たいわけですよ、だから睾丸
 もしょんぼりしている。しかし山よ笑えは季語ですけど、滑稽と言えば滑稽ですよね、服を透明
 にしてみたらみんな睾丸が垂れているんだから。アパートを縦に割って透明にしてみているよう
 な視点です。人間のそれぞれの行為って滑稽じゃないですか。そんな舞台の書き割りを見ている
 ような滑稽さがある。(鈴木)
★山にはもっともっと萌えて欲しいと願っている。そして男の子達のこれからの活躍を秘めている
 よと言っていると思いました。(M・S)
★未来を包含しているような歌で、いい歌だと思います。子ども達にエールを送っているようで。
    (石井)
★睾丸が「ある」ではなく「垂る」がいいですね。(崎尾)
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渡辺松男の一首鑑賞  233

2021-05-29 19:06:29 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究28(15年6月実施)【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:石井彩子、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、
       渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子     司会と記録:鹿取 未放


233 水道管を水はひたすら走りきて君の素足へほとばしりたり

          (レポート)
 この歌も暗喩で歌われており、射精管を精液がいちずに走り降りて君のはだしに勢いよく飛び散ってしまった…。(曽我)


        (当日意見)
★曽我さんが解釈してくださった通りだろうなとも思うのですが、やはりこれもさっきの
 欅の歌(けやき巨樹はずかしげなき図体の全裸は春の朝焼けのなか)と同じで、そのま
 まにも読めて、水道管を迸ってきた水が君の素足にばーんとかかる、それを見てこの水
 は水道管をひたすらに走ってきたんだなと感じた。(真帆)
★私は泉真帆さんの説に賛成です。曽我さんの感じも分かるけどそれをもろに言っちゃう
 と恥ずかしいじゃないですか。素足に対して水が走ってきたというのは、その素足が魅
 力的だからですよ。水を主体にしていて単純な歌ではない。(鈴木)
★私は曽我さんにこう書かれるまで、性愛の歌だとは思っていませんでした。まあ、曽我
 さんのように読めなくないけど、素足に迸る水というだけで清冽な感じがあるし、美し
 いなまめかしい素足が想像できます。谷崎の「鍵」でしたっけ?エロテックに素足が強
 調して描かれていますよね。これはあくまで恋人の素足に迸る清冽な水の歌で、清楚な
 印象を受けました。(鹿取)
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渡辺松男の一首鑑賞 232

2021-05-28 19:36:30 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究28(15年6月実施)【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:石井彩子、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、
       渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


232 どこへでも行きたいけれど君といて座っていればうれしき臀部
 
          (レポート)
 あちこち行きたいとは思うけれど君と二人で抱き合って座ればなお心地よくお尻もきっと喜んでいることだろう。(曽我)


         (当日意見)(15年6月)

★とても楽しい気分になります。これは性愛の場面ではなくて、どこかに恋人と並んで座
 っているんですね。そうすると座っているお尻がうれしがっている。君と旅に行っても
 いいんだけど、一緒に座っているだけで楽しいよと、文字通り読んでかまわない歌だと
 思いますが。(鹿取)
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渡辺松男の一首鑑賞  231

2021-05-27 17:02:32 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究28(15年6月実施)【陰陽石】『寒気氾濫』(1997年)97頁~
   参加者:石井彩子、泉真帆、M・K、崎尾廣子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、
       渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会と記録:鹿取 未放


231 けやき巨樹はずかしげなき図体の全裸は春の朝焼けのなか
 
         (レポート)
 欅の大木は恥ずかしげもなく芽立ちもまだの素っ裸の身で春の美しい朝焼けの中によくも立っているものだ。(曽我)


        (当日意見)
★欅を全裸の女性とみたのでしょうか、そういう視点をすごいと思います。(M・S)
★男性であれ女性であれ、春の朝焼けの中に全裸でいる姿を欅に託して詠われたのだと思い
 ます。(慧子)
★言葉選びが素晴らしいなと思いました。「はずかしげなき」とつけたことでとても恥ずかし
 い場面のような、でも堂々としているような感触的なものが出てきている。(真帆)
★「図体」もいいですよね、欅の巨樹だから図体が出てきているんだけど、活きている。朝
 焼けに自分の全裸を立たせているけやきの巨樹、この場合は女性でも男性でもいいと思い
 ます。結局これ肉体、命、生の讃歌ですよね。(鹿取)
★これは前の方の歌と関係づけなくても、欅の自然描写としてよいと思います。(鈴木)
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