かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

馬場あき子の外国詠 202(中国)

2019-03-27 21:12:43 | 短歌の鑑賞
馬場あき子の旅の歌27(2010年4月実施)
    【飛天の道】『飛天の道』(2000年刊)168頁~
    参加者:K・I、N・I、Y・I、K・T、T・S、曽我亮子、F・H、
        藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:藤本満須子  司会とまとめ:鹿取 未放


202 ゴビ灘(たん)に羊を飼ひて一生(ひとよ)過ぎまた一生すぎ幾世かしらず

          (レポート)
 「北アジアで遊牧がいつごろ始まったのか、はっきりしないが、紀元前八〇〇年ころには羊や山羊に加えてウシ、ウマといった大型家畜をも飼育する遊牧形態が誕生した……」(モンゴル歴史紀行 松川節 河出書房新社)
 モンゴルから天山南路に至る一帯の砂礫の広がる大草原をゴビ灘と呼ぶ。ラクダの飼育を生業とし、ロシアと中国にはさまれゴビに暮らすモンゴルの人々の歴史に思いを馳せざるをえない。春は一面に丈の低いくさぐさが芽吹き、冬は枯れ草の茶色で覆われる。羊を飼う暮らしを当たり前に生きてきた人々。三、四、五句の流れるようなリフレインのリズムに作者の感慨が込められている。紀元前からの民族の興亡の歴史にも思いを馳せながら「幾世かしらず」とうたわざるをえない深い感慨を覚えたのであろう。(藤本)


      (まとめ)
 ゴビ灘で羊を飼う生活を、幾世代も幾世代も気が遠くなるような年月行ってきた。紀元前からその飼育の様式はいくらも変わっていないのであろう。そのような土着の人々の生を「一生過ぎまた一生すぎ」と効果的なリフレインを使用して慨嘆している。(鹿取)

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馬場あき子の外国詠 201(中国)

2019-03-26 19:12:57 | 短歌の鑑賞
馬場あき子の旅の歌26(2010年3月実施)
    【飛天の道】『飛天の道』(2000年刊)164頁~
参加者:N・I、Y・I、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:T・H 司会とまとめ:鹿取 未放


201 烏魯木斉に天池(てんち)あり標高二千なり西王母の雪風に匂へり

   (レポート)
 烏魯木斉には、標高2000メートルのところに天然の池がある。雪消水で作られた池であろう。「西王母の雪風に匂へり」とはどんな雰囲気なのであろうか。神々しい雰囲気、それは下界とは違い、とおい過去の伝説を思い出させる。(T・H)
 西王母:中国の伝説上の仙女。災害と刑罰を司る、と考えられた。漢の武帝が長命
       を願っていることを知り、3000年に一度実がなるという仙桃を捧げた、
       と言われている。


(まとめ)
 その名もズバリ天池という風光明媚な池が烏魯木斉にある。標高二千という高度にあって、周囲には雪を頂いた山々が連なっている。山々の峰には雪が積もっていて、風に乗って雪が匂ってくる。それは西王母の降らす雪であって、清新このうえもない。
 二句め「あり」、三句め「なり」と二箇所に切れがあり、結句は「匂へり」とi音の脚韻を踏んで力強くシャープなリズムを生み、作者の感動の強さを伝えている。もっといえば二句めの「あり」は音数上は「天池あり/標」と句割れになって複雑なリズムを作っている。
 ところで作者が訪問した時の天池は、ひっそりして人もまばらだったのだろうか。いまや観光地化してレジャーランドのようなにぎわいで、国の内外から連日観光客が訪れてごった返していると聞く。土産物屋などもたいへんな数のようだ。(鹿取)

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馬場あき子の外国詠 200(中国)

2019-03-25 18:12:27 | 短歌の鑑賞
馬場あき子の旅の歌26(2010年3月実施)
    【飛天の道】『飛天の道』(2000年刊)164頁~
     参加者:N・I、Y・I、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:T・H 司会とまとめ:鹿取 未放


200 匂ふといふ色雪にあり烏魯木斉の空に天山は暮れ残りゐつ

       (レポート)
 「匂ふといふ色」とは、どんな色だろう。今、白雪を被った7千メートルを超す天山山脈の山々は、夕暮れを迎えている。が、まだ暮れていない。我々の知る夕焼けでもない。夕暮れのかすかな光に淡く浮かんだ山々。それが「残りゐつ」(残っていた)の雰囲気だろうか。(T・H)


     (まとめ)
 夕暮れの天山の被る雪を「匂ふといふ色」と捉えたところがすばらしい。「匂ふ」は美しい色つやをいう語だが、今でも「匂うような黒髪」などの言い回しに意味の名残がある。暮れ残っているのだから天山の裾野は徐々に暗くなっているが雪を被った天山の頂の方はまだ夕日が雪を染めているのだろう。かそかな光りをたたえたはかなげな夕暮れの山を何色とも言い難く、「匂ふといふ色」と捉えた。作者の感動のほどがしのばれる。(鹿取)

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馬場あき子の外国詠 199(中国)

2019-03-24 19:23:12 | 短歌の鑑賞
馬場あき子の旅の歌26(2010年3月実施)
    【飛天の道】『飛天の道』(2000年刊)164頁~
     参加者:N・I、Y・I、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:T・H 司会とまとめ:鹿取 未放


199 おお天山その新雪のかがやける静かなる身もて機窓に迫れ

       (レポート)
 今、飛行機の窓外に天山山脈が見えてきた。その山頂は新雪に輝いている。シルクロードは天山南路・天山北路と、その山脈の裾野の南北を東西に走っている。山々の中には7千メートルをこすものもある。当然、雪を被っている。新雪を被って、照り輝いている様子に、今、馬場先生は感激を新たにしておられる。「静かなる身もて機窓に迫れ」「迫ってくる」ではなく、「機窓に迫れ」と呼びかけておられる先生のお気持ちは、どんなものなのか?「迫ってきてくれ」とは?(T・H)


     (当日意見)
★どちらが迫ってくるか錯覚。ネパールの山の歌と歌いぶりが違う。(慧子)


       (まとめ)
 全体に昂揚した詠いぶりである。新雪を被った天山の偉容に圧倒されている作者が見えるようだ。「迫れ」は命令形ではなく、「こそ」という係助詞の省略された已然形で強調を示している。「新雪かがやく天山が機窓に迫ってきたことよ」という意味で、山自体がこちらに向かって迫ってくる迫力を感じる。
 ネパールでは「夢と思ひしヒマラヤの雄々しきマチャプチャレまなかひに来てわれを閲せり」と詠われているが、この天山の歌よりおよそ5年後のことである。
 掲出歌についても『飛天の道』あとがきから作者のことばを少し引用する。(鹿取)
  旅では白雪を被いた天山の並はずれた大きな美しさに日々感嘆の声を発していた……
      (馬場あき子)

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馬場あき子の外国詠 198(中国)

2019-03-23 15:37:38 | 短歌の鑑賞
馬場あき子の旅の歌26(2010年3月実施)
    【飛天の道】『飛天の道』(2000年刊)164頁~
     参加者:N・I、Y・I、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:T・H 司会とまとめ:鹿取 未放


198 富士よ富士しだいに小さく日本は沈みゆき濃きスモッグに満つ

       (レポート)
 今、馬場先生ご一行は、敦煌に向けての飛行機の中に居られる。先生は今、飛行機の窓から、遠ざかり行く富士山を眺めておられる。その姿が小さくなって遠ざかるのを、日本の現状と考え合わせられて、下界はスモッグに覆われた日本の現状に思いを馳せられて、その現状を嘆いておられる。(T・H)


      (当日意見)
★T・Hさんは「敦煌に向けての飛行機の中に居られる」とお書きですが、その窓から富
 士山が見えるのは変だと思います。現在もあるかどうか知らないのですが、2000年
 以前に、日本から敦煌への直行便ってあったのでしょうか?普通、敦煌に行くには中国
 の都市から国内便の小さな飛行機に乗り換えて行くので、ここは「中国に向けて」でな
 いとおかしいと思います。(藤本)


     (まとめ)
 前歌【風早(かざはや)の三保の松原に飛天ゐて烏魯木斉(うるむち)に帰る羽衣請へり】を受けての作だから、烏魯木斉に帰る飛天とこれから行こうとする自分たちを意識の上で重ねているのであろう。「富士よ富士」と呼びかけるとき日本を離れる飛天の寂しさも投影させているのだろう。スモッグに満ちた日本が小さく沈むように遠ざかってゆく。「スモッグに満つ」に象徴される日本の現状は自然破壊や環境汚染の問題だけではなく、汚染を生み出す政治状況の不透明性までを含んでいるのだろう。「沈みゆき」にそんな祖国日本に対する悲しみと哀惜が滲む。
     (鹿取)

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