かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

馬場あき子の外国詠 357(中欧)

2020-02-29 20:35:35 | 短歌の鑑賞
 馬場あき子の外国詠50(2012年3月実施)
   【中欧を行く 秋天】『世紀』(2001年刊)91頁~
   参加者:N・I、K・I、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
       T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:崎尾廣子     司会とまとめ:鹿取未放


357 アムールを越えてはるかに飛びゆくをあなさびし人恋ひて降(お)りゆける鳥

         (まとめ)
 「ハバロフスクの上空に見れば秋雪の界あり人として住む鳥は誰れ」に続く歌。ハバロフスク上空からアムール川が見えているのである。一面の雪景色の中、川だけがぽっかりと黒く流れているのだろう。アムールを越えて飛ぶのは、この歌では鳥ではなく作者達を乗せた飛行機であろう。渡り鳥たちが羽を休めるために地上に降りてゆくのを見下ろしているのである。前の歌の「人として住む鳥」の気分を受けて「あなさびし人恋ひて」と思うのは作者の鳥たちへの優しさである。この鳥たちは人間を恋いて地上へ降りてゆくのだと思うのは自分自身のそこはかとない旅の寂しさが反映しているからだろう。(鹿取)

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馬場あき子の外国詠 356その2(中欧)

2020-02-28 21:39:44 | 短歌の鑑賞
 馬場あき子の外国詠50(2012年3月実施)
   【中欧を行く 秋天】『世紀』(2001年刊)91頁~
   参加者:N・I、K・I、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
       T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:崎尾廣子 司会とまとめ:鹿取未放


356 ハバロフスクの上空に見れば秋雪の界あり人として住む鳥は誰れ

            ◆(後日意見)①
とても魅力的な歌。その超常的な魅力はやはり下の句の「人として住む鳥」にある。秋雪の界に人として住む鳥は、神話的で、この世ならぬスピリチュアルなイメージもあります。「人として住む鳥」は誰か。やはり生身の人間ではないのだと思います。飛行機のなかで、シベリアの雪景色を見ながら初めてそんな存在が感受できたのではないかと思いました。鹿取さんのおっしゃるように、シベリア抑留の死者のたましいが重ねられているのかもしれないと思います。(N・U)

            ◆(後日意見)②
 鶴の恩返しの話から解釈するのがいいかもしれない。抑留の話まで広げるのはやはり無理かもしれませんが、そんな鳥が今すんでいるのかもしれないと見下ろしているのではないか。シベリアからやってきて日本で越冬する鶴や昔話へ思いが飛んで、飛行機から物語の世界へきたように見ているのだろうか。ロシア民話の変身譚などを思い出しました。
                       
           

      ◆(後日意見)③ ロシア文学に出典があるのではないか。(田村広志)

         ◆(後日意見)④
 イシュトヴァーンを調べる段階で、「伝説の鳥」の話に行き当たった。ウラル山脈あたりに住んでいたマジャル民族が西進して住み着いたのがハンガリーの起こりだそうだが、その部族長アールパードをこの伝説の鳥が生んだと伝えられている。初代国王イシュトヴァーンはその子孫にあたるそうだ。飛びつきたい伝承だが、いかんせんハバロフスクとウラル山脈は離れすぎている。
 スウェーデンの童話「ニルスの不思議な旅」も気になる。小さくされてガチョウに乗ったニルスが空の旅をしつつ成長する話で、大江健三郎がノーベル賞受賞の折の講演で引用しているが、これもいかんせんシベリアとは離れすぎている。(鹿取)

         ◆◆(後日意見)⑤(2015年4月)
 先日、NHKで放映された「遠野物語」に関する番組で、馬追鳥(ウマオイドリ)の話が紹介された。ホトトギスに似た鳥で、胸に轡のような型があるという。お話は、奉公人が山へ馬を放しに行くが、戻ろうとしたら一頭足らず、逃げた馬を探し回っているうちに馬追鳥になったというもの。そして深山に住んでマーオー、マーオーと鳴いているらしい。遠野だけでなく近隣に似たような話があり、奉公人が継子だったり、逃げたのが牛だったりといろいろなバリエーションがあるようだ。
 これまで、「鶴の恩返し」、イシュトヴァーンの「伝説の鳥」、「ニルスの不思議な旅」など「人として住む鳥」について意見が出されたり、私自身も考えたりしたが、今回、「遠野物語」を聞いていて、場所が離れていることにはそれほどこだわる必要がないのだと気がついた。
 ハバロフスク上空を飛行機でよぎる時、秋なのにもう雪に埋もれた地が見下ろせた。その時ふっと上記のお話の「人として住む鳥」が脳裡をよぎった。「人として住む鳥」という言いまわしは分かりづらいのだが、哀れさを誘われるかなしい鳥なのだろう。その思い描かれた鳥は、作者が見たと言っているわけではないから雪の積もったハバロフスクに住んでいる必要は無いわけだ。ただ、哀れさの連想からいくとイシュトヴァーンの「伝説の鳥」、「ニルスの不思議な旅」などは消えるかもしれない。この時作者が馬追鳥のお話を思い浮かべたとしてもおかしくはないように思われる。そもそも「人として住む鳥」を特定する必要もないだろう。(鹿取)

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馬場あき子の外国詠 356(中欧)

2020-02-27 19:29:01 | 短歌の鑑賞
 馬場あき子の外国詠50(2012年3月実施)
       【中欧を行く 秋天】『世紀』(2001年刊)91頁~
   参加者:N・I、K・I、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
       T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:崎尾廣子 司会とまとめ:鹿取未放


356 ハバロフスクの上空に見れば秋雪の界あり人として住む鳥は誰れ

              (まとめ)
 この旅は10月か11月頃のことであろうか。(歌集巻末に載る中欧の歌の初出が総合誌で翌年の1月号である。)冬の早いシベリアにはもう雪が積もっているのが見下ろせた。四句から五句にかけての「人として住む鳥は誰れ」は難解で、さまざまな意見があった。
 一番単純な解釈は、飛行機から見ると一面の雪景色で、その上を鳥が舞っていた。そんな鳥を見ながら、あの中に人間となって住む鳥がいるかもしれないなあ、あるいは人間となって住んでいる鳥もいるのだろう、と空想している。「鶴の恩返し」などを考えればそれほど無理な解釈ではないだろう。次の歌(アムールを越えてはるかに飛びゆくをあなさびし人恋ひて降(お)りゆける鳥)へも自然に繋がる。
 もう一つの解釈は、言葉の外側にシベリアで亡くなった日本人兵士を鳥として悼む気持ちが揺曳しているととるもの。これは「住む」が現在形なので少し無理のある解釈かもしれない。とはいえ、作者はシベリア上空を通る度に抑留された日本人兵士のことが気になるらしく、しばしば歌にしているので、何首か挙げてみる。
  白光を放つ雲上ひきしまり足下にシベリアの秋ひろがるといふ
           『飛種』(1996年刊)トルコ途上の詠
 シベリアの雲中をゆけば死者の魂(たま)つどひ寄るひかりあり静かに怖る
 呼びても呼びても帰り来ぬ魂ひとつありきシベリアは邃(ふか)しと巫(ふ)に言はしめき
 魂は雪に紛れてありと言ひて青森の巫の泣きしシベリア
 収容所(ラーゲリ)の針葉樹林に死にしもの若ければいまだ苦しむといふ

 一万七千の高度よりみる白雲の網に捕らはれし初夏のシベリア
          『青い夜のことば』(1999年刊)スペイン途上の詠


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番外編 写真入り 馬場あき子の旅の歌(ネパール)

2020-02-26 19:41:25 | 短歌の鑑賞
ブログ版馬場の外国詠19(2009年7月)【ムスタン】『ゆふがほの家』(2006年刊)91頁~
    参加者:泉可奈、T・S、T・H、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:渡部 慧子 司会とまとめ:鹿取 未放

153 眼前にダウラギリ屹(た)つ腰のほどわが小型機は唸りよぎれり

   
    18人乗りのネパールの小型機。乗り込むとちぎった綿花を渡された。コックピットと客席はカーテン一枚で仕切られている

  
  ポカラから乗ったブッダエアー、向かって左が私、お隣は日本に留学していたことがあるというネパール人の若い医師

157 小型機はふと雲を出づ朝の陽に嫣然たりアンナプルナ百語もて立つ

   
          小型機の窓から見たアンナプルナ

  馬場の外国詠 21(2009年9月)【牛】『ゆふがほの家』(2006年刊)94頁~
     参加者:S・S、曽我亮子、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:曽我 亮子    司会とまとめ:鹿取 未放
 

169 知らざりきポインセチアは巨木にてネパールに来ればいづこにも立つ
170 赤葉をかがやかせ立つ陽の巨木生(せい)はむさぼるべしポインセチアよ
154 夢と思ひしヒマラヤの雄々しきマチャプチャレまなかひに来てわれを閲せり

    
      ポカラの飛行場にもポインセチアがあった気がする。あまりの大きさにびっくりしたが、これは絵はがき
      背景に聳えているのが、名峰マチャプチャレ

   
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番外編 写真入り馬場あき子の外国詠(ロシア)

2020-02-25 20:06:36 | 短歌の鑑賞
馬場あき子の外国詠1(2007年10月実施)
   【オーロラ号】『九花』(2003年刊)135頁~
    参加者:K・I、N・I、崎尾廣子、Y・S、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:K・I        まとめ:鹿取未放

1 日本海海戦より生還せしはただ二艦そのオーロラ号白きネヴァ川
2 日本海海戦に堪へしオーロラ号海より革命の砲を撃ちきと

          
               横顔が見えている男性は、名物添乗員さん 

5 レーニン像全部倒されしわけでなく旅に六人のレーニンに遇(あ)ふ


         
              ボルガ川のクルーズ船から遠望したレーニン像

        
              これはレーニンではないかな?  
   
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