【西尾幹二】#125 日本人が戦った白人の選民思想・前半[桜H25/4/24]
■今回のご本
『米国の世界侵略』
大東亜戦争調査会 編
昭和19年 毎日出版社
一人の著者でなく、多数の執筆者の署名原稿を集めたもの。巻頭論文は、三宅哲一郎、平野義太郎、白鳥敏夫といった人々の名がみえる。
読み進めるうちに西尾先生が慨嘆して曰く
「知りながら、やられた。これが日本の悲劇なんだよ」。
その一言に尽きる。
『米国の世界侵略』という本は、敗戦後のGHQの「焚書」の際、真っ先に回収された10冊のうちの1冊であるらしい。そうだろうなぁと思う。
収録されている論文、特に巻頭論文の「汎米主義より世界支配政策へ」(三宅哲一郎)がかなり興味深い。
一つには、アメリカがアジアへと向かってその流れにあらためて着目させられる。思えば、もっぱら日本の行動が侵略とされ、はるか太平洋の向こうからやってきたアメリカのその行動に多少なりとも疑問を呈さないできた日本の戦後史はおかしなものだった。よその国が気にしないのはそれはそれでいい。しかし、日本国内でこの点に着目して歴史を現さなかったのはいかれてるとしかいいようがない。この点こそがGHQレジームとでもいうべき時代の主要な教えみたいなものだったのだろう。
現在、アメリカは世界支配にあたって全球面をもれなく支配することはできないから、極東と中東に勢力を注いできました、とは普通の一文だ。ではなぜそのようなことができるようになったか、といえばそれが歴史。それなのに日本国内の歴史においてアメリカのアジアへの進出意図を考察しないのはおかしかったのだ。
もう一つは、この論文は戦後、アメリカがイギリス、ソ連など関係国が疲労したろこでアメリカを中心とする世界支配を構築しようと活発に動いている点について考察していること。しかも、国連、常任理事国、安全保障体制のこととか、これがかなりあたっている。
白鳥敏夫氏の論文も相当に興味深い。いうまでもなく氏はナチス・ドイツ、イタリアとの三国同盟を推進したとして戦後憎まれた元イタリア大使。
西尾先生が取り上げて読まれた「彼のユダヤ性と日独伊」という文章がすごい。彼というのはルーズベルト米大統領のこと。狡猾なる米は日本を挑発して裏門から参戦してきたのだ、とはっきり書かれ、どうしてそうなったのかの解明にユダヤ系の金融資本の問題が出てくる。
う~ん、ここまで書いている人がいたのかぁと言いたい気もするが、しかし、ナチがさんざん使った視点をそのまま持っているということもできる。そして戦前には日本でも結構語らえていたという説もある。このあたり、最近になってむしろ基本的には是認されている分野のようにも見えるが、一方でアカデミズムでは御法度、陰謀論に押し込められているテーマといえようか。
この本に書かれている論文のいちいちを見れば、日本がアメリカとの戦争に入って至った直前、アメリカという国がいったい何をしようとしているのか、少なからぬ人々はそれを知っていた。知っていたとしても、もはやどうしようもなかった。日本起つべしと思わずにはいられなかった、ということなんだろうと思う。
この本は昭和19年に発刊されている。ということはアメリカとの戦争に乗り出したことについての趣意書ではない(開戦前の日本の言い分は、第47、48回)。しかし、なんであったのかについてより的確に語っているようにも思える点で、戦前における日本国内の知識人の知見をまとめたものといえるかも。