暴落の予兆?投資の神様・バフェットが「現金50兆円」貯め込む理由 マーケット分析で浮かび上がってきたこと
yahoo news 2024/12/19(木) 東洋経済オンライン 藤尾 明彦 :東洋経済記者
著名投資家であるウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハザウェイが手元資金を増やしている。アップルやバンク・オブ・アメリカの株式を売却し、保有する広義の現金は2024年9月末で約50兆円に膨らんだ。なぜ「現金シフト」を進めるのか。金融アナリストの田渕直也氏に聞いた。
※記事の内容は東洋経済の解説動画『手元資金50兆円! バフェットはどう動く?』から一部を抜粋したものです。外部配信先では動画を視聴できない場合があるため、東洋経済オンライン内、または東洋経済オンラインのYouTubeでご覧ください。
【動画を見る】手元資金50兆円!バフェットはどう動く?/バフェットの投資手法/株価は割高/株価暴落を見据えている?/金利復活の影響
■アメリカの株価は割高
――バフェットの手元資金を増やす動きについてどう見ていますか。
手元資金は基本的に短期国債がほとんどだと思いますが、それ以外の債券を含めると総資産の50%超を占めている。株式から現金への非常に大胆なシフトだと思います。
現金にシフトしている大きな理由は、アメリカの株価が割高になっているという判断があること。もう1つ、金利が復活していることも大きな要因です。
――割高と判断できるのは、どういう理由からなのでしょうか。
判定基準はいろいろあると思いますが、バフェットがわりと好んでいるといわれてるのが、バフェット指数(当該国の株式時価総額÷当該国の名目GDP×100)と呼ばれるものです。この値が100を超えると危険といわれるのですが、今は210あります。
バフェットがどの基準を見て割高と判断してるかはわからないのですが、今の株式市場は経済規模に対して非常に割高だという判断はできます。
それから、株式と債券の利回りを比較したときにどちらが有利かを判断できる基準としてイールドスプレッド(株式益利回り-債券利回り)があります。
イールドスプレッドはいろいろな定義があって、人によって計算式も違うのですが、私がよく使っている指標は、S&P500の益利回り(PERの逆数)から債券利回りを引いたものです。
10年ものの債券で計算すると、マイナス1%程度になっています。株式投資の利回りが債券に比べて低くなっている、つまり割高になっているということです。マイナスになったのが22年ぶりなので、これも株価が割高になっているという判断基準の1つになると思います。
あともう1つ、私が個人的に株式の割高・割安を判定するうえで最も信頼性が高いと思っているのはCAPEレシオで、これはPER(株価収益率)の一種です。
通常のPERは今の利益に対して株価が何倍かを計算したものですが、短期の業績動向によって、数値が大きく変動してしまう問題があります。
CAPE指数はそれを排除するため、過去10年の平均利益に対して株価が何倍になってるかを計算します。これが20~25倍を超えると危険といわれているのですが、今は39倍です。ということで、アメリカの株価についていろいろな指標が割高だと示唆しています。
■3つの指標が高い水準になっている理由
ただ、なぜ割高といわれるような高い水準になっているのか、理由もあるんです。
1つ目に紹介したバフェット指数が大きくぶれないとされるのは、GDPに占める企業利益の割合が時代とともに大きく変わらないだろうという前提条件があります。
ところが、現実には労働分配率が低下し、企業の取り分である企業利益が上がっています。「マグニフィセント7(アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、エヌビディア、テスラ、メタ・プラットフォームズ)」といわれるような利益率の高い巨大企業の株式市場でのプレゼンスが上がっていて、バフェット指数も時代とともに上がっていかざるをえない。
なので、100超えは危険という基準が今の時代には当てはまらないと思うのですが、じゃあどこまで上がっても大丈夫なのかといえば、そんなことはない。どこに警戒水準があるかはわからないが、今は200を超えていて「これはそろそろ危険なのではないか」という判断はできると思います。
それから2つ目のイールドスプレッドは22年ぶりにマイナスになりましたが、企業の利益成長期待が高い時代にはマイナスのスプレッドは十分ありうる。では今のマイナスのスプレッドは何によって生まれてるのか。おそらくAIブームだと思います。
生成AIは技術的にも大きなブレイクスルーですし、産業構造もどんどん変わっていくでしょうし、生産性もどんどん向上していくかもしれない。
一方で「AIブームって本当にものになるの?」というところはまだ見えてない。そこの期待がはげ落ちたら「マイナスのイールドスプレッドって何だったんだろう? 結局、株価は割高だったね」となる可能性は十分にあると思っています。
3つ目のCAPEレシオについても20~25倍は危険といいましたが、時代とともに上がっていくトレンドになっていて、1990年代以降の平均では30倍ぐらいになっている。
なぜそうなっているのかといえば、最大の理由はカネ余りだと私は思っています。実際の経済活動には使われないお金が余っていて、債券市場や株式市場に流れ込まざるをえない。これが世界的な金利の低下や株価の割高に結びついている。
■株価は割高→暴落とはならない
ただ注意しなければいけないのは、カネ余りの時代で割高になったから株価が暴落するという短絡的な関係はなかなか成り立たないと思います。株価が下がると、待ち構えていた資金がバーッと入ってくるので、おそらく下落局面はわりとすぐ済んでしまう。
では、割高とはどういうことなのかいうと、これは株式投資収益率が低下するということです。CAPEレシオはPERの一種で、PERが上がるということは企業の成長率を先読みして株価に織り込んでいくということ。つまり利益を先食いするということなので、PERが上がれば上がるほどこれから5~10年で見た株式投資収益率は下がっていくことになる。
バフェットは短期的な相場の予想に頼らない人なので、暴落を予想して株式から現金にシフトしているのではなく、ここから先は株式の収益率も下がっていくはずだと思って現金や債券にシフトしているのではないかと私は考えています。
動画内ではこのほかにも『金利復活の影響』『94歳バフェット「次の一手」』『バフェットのまねをするのはありなのか』『日本人も米国債を買うべきか』について聞いています。