続石(つづきいし)。遠野市天然記念物。岩手県遠野市綾織町上綾織。
2023年6月11日(日)。
北上市立博物館・みちのく民俗村を見学後、12時30分ごろ遠野市へ向かった。遠野の見学にあたっては、旅行前に柳田国男の「遠野物語」を読み、遠野のイメージをつかんでおいた。数日前に入手したパンフレット「遠野旅手帖」を参照した結果、予定にはなかったが、遠野市街地に入る手前にある続石をまず見学することにした。北西からアクセスしたので駐車場が分かりにくかったが、道路東側の駐車場に13時15分ごろ着いた。
ここから登り500mほど徒歩約15分の距離というのだが、道標が分かりづらく20分ほど山中斜面の坂道を登って辿り着いた。
続石。杉林の小高いところに鳥居状の巨石がある。2つ並んだ石の手前側の石の上のみに幅7メートル、奥行き5メートル、厚さ2メートルほどの巨石が灯籠の笠石状に乗っかっている。このような浮石は三重県鈴鹿山地の御在所岳で初めて見たが、登山旅行をする間に全国各地の山中で何度も見かけた自然の造形である。
左側の岩に、上の岩は載っていない。
通り抜けた裏側から。
続石は、柳田国男の「遠野物語」第91話に出てくる奇石で、古代人の墓とも、武蔵坊弁慶が持ち上げて作ったともいわれている。
九一 遠野の町に山々の事に明るき人あり。もとは南部男爵家の鷹匠なり。町の人綽名(あだな)して鳥御前(とりごぜん)という。早池峯、六角牛の木や石や、すべてその形状と在処(ありどころ)とを知れり。年取りてのち茸採(きのことり)にとて一人の連(つれ)とともに出でたり。
この連の男というは水練の名人にて、藁と槌とを持ちて水の中に入り、草鞋を作りて出てくるという評判の人なり。さて遠野の町と猿ヶ石川を隔つる向山(むけえやま)という山より、綾織(あやおり)村の続石(つづきいし)とて珍しき岩のある所の少し上の山に入り、両人別れ別れになり、鳥御前一人はまた少し山を登りしに、あたかも秋の空の日影、西の山の端はより四五間ばかりなる時刻なり。
ふと大なる岩の陰(かげ)に赭(あかき)顔の男と女とが立ちて何か話をして居るに出逢いたり。彼らは鳥御前の近づくを見て、手を拡げて押し戻すようなる手つきをなし制止したれども、それにも構かまわず行きたるに女は男の胸に縋(すが)るようにしたり。
事のさまより真の人間にてはあるまじと思いながら、鳥御前はひょうきんな人なれば戯(たわ)むれて遣(や)らんとて腰なる切刃(きりは)を抜き、打ちかかるようにしたれば、その色赭き男は足を挙げて蹴りたるかと思いしが、たちまちに前後を知らず。
連なる男はこれを探しまわりて谷底に気絶してあるを見つけ、介抱して家に帰りたれば、鳥御前は今日の一部始終を話し、かかる事は今までに更になきことなり。おのれはこのために死ぬかも知れず、ほかの者には誰にもいうなと語り、三日ほどの間病みて身まかりたり。
家の者あまりにその死にようの不思議なればとて、山臥(やまぶし)のケンコウ院というに相談せしに、その答えには、山の神たちの遊べるところを邪魔したる故、その祟(たたり)をうけて死したるなりといえり。この人は伊能先生なども知合(しりあい)なりき。今より十余年前の事なり。
このあと、遠野市街西にある「まちなかドキ・土器館」へ向かった。