『舞姫』現代語訳 第二十三段落 金澤 ひろあき
【要旨】
エリスを裏切った後の太田の錯乱
【現代語訳】
あつかましい恥知らずの顔はもっているが、帰ってエリスに何と言おうか。ホテルを出た時の私の心の錯乱は、たとえるものもない。私は道の東西もわからず、思い沈んで行くうちに、行き交う馬車の車夫に何度もどなられ、驚いて飛びのいた。しばらくしてふとあたりを見ると、動物園のそばに来ていた。倒れるように道路わきのベンチによりかかり、焼くように熱く、ハンマーによって打たれたように響く頭をベンチの背にもたれさせ、死んだような状態でどれほど経っただろうか。激しい寒さが骨にとおったと感じて目覚めた時には、夜に入って雪は激しく降り、帽子のひさし、コートの肩には3センチほど積もっていた。
もはや十一時もすぎていただろう、モハビット、カルル街を通る鉄道馬車のレールも雪にうずもれ、ブランデンブルグ門のほとりのガス灯は寂しい光を放っている。立ち上がろうとすると足が凍えているので、両手でさすって、やうやく歩けるようになった。
ゆっくりとしか歩けないので、クロステル街まで来た時は、0時を過ぎていただろうか。ここまで来た事を全く覚えていない。1月上旬の夜であるので、ウンテル・デン・リンデンの酒場、喫茶店は人の出入りは盛んな時であったはずだが、全く覚えていない。私の頭の中には「自分は許せない罪人だ」という考えでいっぱいだった。
4階の屋根裏部屋では、エリスはまだ寝ていないようで、(その部屋の明かりはあたかも)きらきらと光る星の光りが、暗い空にすかすと、明らかに見えるが、降りしきるさぎのような雪に、覆われたり、また現れたりして、風にもてあそばれているようだ。入り口に入るとすぐに疲れを覚えて、関節の痛みにたえられないので、はうようにして階段をのぼった。台所を過ぎ、部屋の戸を開けて入ると、机によりかかっておしめを縫っていたエリスは振り返って「あ。」と叫んだ。「どうなさったのですか。あなたのその姿は」
驚くのも無理はない。真っ青で死人のような私の顔色、帽子をいつのまにか失い、髪は気味悪く乱れ、何度も道につまづき倒れたので、衣服は泥まじりの雪によごれ、ところどころ裂けていたので。
私は答えようとして声が出ず、膝がしきりに震えて立てないので、椅子をつかもうとした事までは覚えているが、そのまま床に倒れてしまった。
〔ポイント〕
1 エリスを裏切り、日本帰国を告げてしまう。
理由…これはたぶん?外自身の心の中の声であった。日本政府・一族の期待を捨てられるのか。
その後の豊太郎…雪の中、ベルリンをさまよう。
さまよったコースの問題…「動物園~ウンテル・デン・リンデン~クロステル街」は、エリスと初めて 出会った日と同じ・・心の深い所にエリスが存在。錯乱して覚えていないと言いながら、克明に描写。
2 「我は許すべからざる罪人」の「罪」とは…エリスの愛を裏切った
3 エリスの家の風景描写=エリスの運命の暗示 はかなさ
「(その部屋の明かりはあたかも)きらきらと光る星の光りが、暗い空にすかすと、明らかに見えるが、降りしきるさぎのような雪に、覆われたり、また現れたりして、風にもてあそばれているようだ。」の部分。
4 太田は意識不明 その状態で悲劇が起こる設定・・・責任逃れのようにも思える設定。?外の自己弁護ともとれる部分。
【要旨】
エリスを裏切った後の太田の錯乱
【現代語訳】
あつかましい恥知らずの顔はもっているが、帰ってエリスに何と言おうか。ホテルを出た時の私の心の錯乱は、たとえるものもない。私は道の東西もわからず、思い沈んで行くうちに、行き交う馬車の車夫に何度もどなられ、驚いて飛びのいた。しばらくしてふとあたりを見ると、動物園のそばに来ていた。倒れるように道路わきのベンチによりかかり、焼くように熱く、ハンマーによって打たれたように響く頭をベンチの背にもたれさせ、死んだような状態でどれほど経っただろうか。激しい寒さが骨にとおったと感じて目覚めた時には、夜に入って雪は激しく降り、帽子のひさし、コートの肩には3センチほど積もっていた。
もはや十一時もすぎていただろう、モハビット、カルル街を通る鉄道馬車のレールも雪にうずもれ、ブランデンブルグ門のほとりのガス灯は寂しい光を放っている。立ち上がろうとすると足が凍えているので、両手でさすって、やうやく歩けるようになった。
ゆっくりとしか歩けないので、クロステル街まで来た時は、0時を過ぎていただろうか。ここまで来た事を全く覚えていない。1月上旬の夜であるので、ウンテル・デン・リンデンの酒場、喫茶店は人の出入りは盛んな時であったはずだが、全く覚えていない。私の頭の中には「自分は許せない罪人だ」という考えでいっぱいだった。
4階の屋根裏部屋では、エリスはまだ寝ていないようで、(その部屋の明かりはあたかも)きらきらと光る星の光りが、暗い空にすかすと、明らかに見えるが、降りしきるさぎのような雪に、覆われたり、また現れたりして、風にもてあそばれているようだ。入り口に入るとすぐに疲れを覚えて、関節の痛みにたえられないので、はうようにして階段をのぼった。台所を過ぎ、部屋の戸を開けて入ると、机によりかかっておしめを縫っていたエリスは振り返って「あ。」と叫んだ。「どうなさったのですか。あなたのその姿は」
驚くのも無理はない。真っ青で死人のような私の顔色、帽子をいつのまにか失い、髪は気味悪く乱れ、何度も道につまづき倒れたので、衣服は泥まじりの雪によごれ、ところどころ裂けていたので。
私は答えようとして声が出ず、膝がしきりに震えて立てないので、椅子をつかもうとした事までは覚えているが、そのまま床に倒れてしまった。
〔ポイント〕
1 エリスを裏切り、日本帰国を告げてしまう。
理由…これはたぶん?外自身の心の中の声であった。日本政府・一族の期待を捨てられるのか。
その後の豊太郎…雪の中、ベルリンをさまよう。
さまよったコースの問題…「動物園~ウンテル・デン・リンデン~クロステル街」は、エリスと初めて 出会った日と同じ・・心の深い所にエリスが存在。錯乱して覚えていないと言いながら、克明に描写。
2 「我は許すべからざる罪人」の「罪」とは…エリスの愛を裏切った
3 エリスの家の風景描写=エリスの運命の暗示 はかなさ
「(その部屋の明かりはあたかも)きらきらと光る星の光りが、暗い空にすかすと、明らかに見えるが、降りしきるさぎのような雪に、覆われたり、また現れたりして、風にもてあそばれているようだ。」の部分。
4 太田は意識不明 その状態で悲劇が起こる設定・・・責任逃れのようにも思える設定。?外の自己弁護ともとれる部分。