ハイパー・ボランティア 尾畠春夫
おばた はるお さん
と云う、ヒーローを生んだ今週。やはり、わたくしに最も強烈な印象は 警察の間抜け、いや マヌケ である。
富田林署からの、どうぞこちらへお通りを！ このアクリル板ははりぼてですよ、直ぐ破れますよ！ 電池も切ってございますよ！と、報道で知れば知る程、これ程悪辣、卑しく、人間のクズレベルの犯罪者を容易に娑婆へ逃れる道、大きな扉を押し開き、逃走と云うより解放。１５０人が３日間無駄なネズミ穴の如き、側溝、叢、隣家周辺を探し回り、ハイパーな真の有能な一人がものの２０分で探し当てる少年を、ぼうっとしていたのか、ひたすら炎天下、全くの無駄汗で毎晩すごすご帰って来る有様。
何を言うか、素人が！ ここには居ないと云うチェックを日々、所々で細々と積み上げていっただけでも、大仕事だ！
と云われようが、わたくしには、ミステリーの開祖、エドガー・アラン・ポーの名短編『盗まれた手紙』。或いは、スコットランドヤードのレストレード警部とホームズの掛け合い。「ようし、分かった」と手を打つ加藤武扮する地元警察署長と金田一さん。無敗の２歳王者 ダノンプレミアム の単勝 ２．１倍 のたわ言を見聞きし、これをダービーで買うファンと、根拠と自信を前以て公開詳述の上 ワグネリアン １２．５倍 にどかっと行ったわたくしら。など、様々の類似の対比事例が思い浮かんだ。
人生では努力が大切だと云うのは嘘で、ただの努力、発汗は、全くの無駄だ。有効努力、または有効努力へ転化、昇華させる叡智こそが大事なのであって、しばしば世の中で出会う、プロフェッショナルと称し、またそのつもりで金をもらっている人物の余りの想像力の欠如。集団的愚行。我われ民主主義社会では、有能な人物が相互に関係・協力し合える理想を求め、選挙による代議制を取り入れている訳だが、実際は民主過ぎ社会、または天上天下オレが尊師型専横での、全会一致、ユナニマス・デシジョンで大戯け（おおたわけ）、愚挙が一番目立つ大通りを堂々闊歩している例が余りに多過ぎる。日本の代議制はほぼ理想像と無縁、選挙判断はただの印象論である。
今回、その典型一事例では無かったか。
果たして、捜索の３日間。終日歩き回った、動員された１５０人。不図眠りに落ちる寸前、これだけ捜索し見つからないのに、果たして何処にいるのか！？と寝入りばなの寸前、もしかしての霊感が働く捜査員の一人もいなかったのか。
祖父が少年を最後に見たのが自宅から２０ｍ。３日後見つかったのが自宅から７００ｍ地点。
７００ｍと云う距離、それも人群れが繁く通う街路と囲繞する自然の中の田舎とは異なるし、大人と２歳児とでは距離感も甚だしく乖離。が、高が７００ｍの近隣の沢。現地を知らない身の勝手な放言と云われようが、余りにも巧みに、上手に見逃した地元警察。これでは逃走意志明確な叡智ある犯人になら、楽々の高飛びを許すのは当然の態であろう。
芥川龍之介は 「人生は狂人の主催による壮大なる大運動会である。」と記したが、わたくしは、「この世とは知と愚とががっちりスクラムを組んだ一大パレードである。」と考える。
無事に救出されたのだから、終わり良ければ全て・・・ ではあるが、一抹以上の、物凄い愚行の阿波総踊りの大群が目の前を通り過ぎて行ったお祭り後の気分に取り残されている。
犯罪の頻出する大阪の警察でもこの体たらくなので、この程度が日本の治安の担い手、司り手の標準、スタンダードなのだろう。恐らくは、仕事が適当、ただのルーティンなのだろう。集団知の一致団結 ＝ 衆愚よりも個の卓見である。
正しく競馬演出家側もそれを狙い、そこを突いてくるのである。
ポーの傑作短編では、盗まれた一片の手紙を、それを盗み保持、所有している人物もその在り処の家屋敷も解かっているが、その人物不在の折、どれ程細かく、微に入り細を穿ち、床板をミリ単位で剥がしても探っても全く見つからず、お手上げのパリ警察の首脳が、素人探偵デュパンのもとへ愚痴にやって来る。鮮やかな発見、解決で締め括られ、人間心理の盲点、裏を突く巧妙な智慧が披歴される。
相手は２歳児。児童心理学と云う、人間心理の深部への洞察の問題なのか。それとも、余りのシンプルさ、人間未満が最大困難だったのか。
で、わたくしにも他人事では無く、この事案の解釈。前記事で記した通り。恐ろしいシンプルさに到達、驚嘆している。
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人生をある程度生きてきての素直な感慨。 万人は個人に及ばず。
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