前回記事→カエル呼吸(舌咽頭呼吸: glossopharyngeal breathing)ってなに?
カエル呼吸(舌咽頭呼吸)は、最大強制吸気量のための肺内への送気に利用されることが多い方法です。筋ジスの呼吸リハとして確立されてはいるものの、ガイドライン(神経筋疾患・脊髄損傷の呼吸リハビリテーションガイドライン.2014)において「行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない」という程度で、臨床場面で積極的に行うことは少なくなってきています(優先順位の関係があります)。代替手段としては、バッグバルブマスク(救急蘇生用バッグ)による送気や非侵襲的陽圧換気療法(従量式調節換気に限る)などの方法もあります。つまり、利用価値はあるけれども、呼吸器の普及など代替手段も増えてきている中で、カエル呼吸ができなければならない理由が相対的に少なくなってきています。科学的根拠のなさが指摘されているのは事実ですが、この記事ではカエル呼吸のメカニズムを再考することでカエル呼吸をもう一度見直してみようと思います。
カエル呼吸は、下顎と喉頭の間に溜めた空気を舌で気道に送り込むことで換気を行います。具体的には、声門を使って、空気の塊を肺にピストン運動(gulp)で送り込むことで達成されます。声門は、1回のgulpごとに閉じられ、1gulpで取り込まれる空気量は40~200mlで、一呼吸は6~9回のgulpで構成されると言われています(デュシェンヌ型筋ジストロフィーの呼吸リハビリテーションマニュアル. 2014)。他にもメカニズムについて、図示も含めて提示している論文はいくつかあります(Burke, 1957; Kelleher et al, 1957; Dail et al, 1979; Nygren-Bonnier et al, 2009)。著作権の問題があるので、Dail(1979)の図を参考に下に自作図を示します。
この説明で完全にわかる人は少ないかもしれません。なので、少し噛み砕いて説明します。なぜ、カエル呼吸で自分の肺活量以上の空気を肺に溜めることができるかを考えてみましょう。頑張って深呼吸する、だけではダメな理由があります。それは、どれだけ空気を吸っても気を抜くと口や鼻から漏れてしまうからです。バッグバルブマスクなどを用いた最大強制吸気に匹敵する程度の吸気が可能になるこのカエル呼吸ですが、原理は少し違います。最大強制吸気が、強い外力(陽圧)を加えるのに対して、カエル呼吸は、いかに空気を漏らさずに肺に留めたまま、咽頭(のどの奥)に陰圧を作るか。ということがポイントになります。
カエル呼吸の際の、空気圧差を図にすると以下のようになります。基本的に閉鎖している部位は、空気の移動が起こらず、陽圧→陰圧方向へ空気が移動します。ちょっとわかりにくいかもしれませんが。
このときに、気圧を調整する機構を自分の体でつくらなければなりません。その構造としては、二重扉(エアロック)と同じと考えてください。つまり、東京ドームなどの出入り口にあるアレです。つまり、完全に気密ドアを開放せずに、片方ずつ順番に開閉することで、内外の気圧差を最小限にして空気漏れを防止します。二重扉というからには、カエル呼吸で働く舌咽頭を使って原理上、2つ以上の閉鎖部位を作る必要があります。これらの閉鎖部位が舌根、軟口蓋、声門、(口唇)になります。もちろん、これらの可動性や筋力が最低限保たれている必要がありますので、残存機能があるかどうかがカエル呼吸をできるか否かを左右します。ちなみに文献上、口を閉じるというステップは明記されていますが、これは必須ではなく、舌根閉鎖と声門閉鎖が協調してできていれば口を閉じなくてもできます。既に話が難しくなりかけているので、二重扉の原理(常にどこかのドアが閉鎖している)を考えながら、下の図を見てみてください。
基本的に、軟口蓋は挙上して、鼻腔と咽頭を完全に遮断しています。そうしないと、空気が鼻から垂れ流しになり、カエル呼吸はできません(ノーズクリップを使用する方法もありますが)。まず口から空気を取り込み、舌でのどの方に空気をどんどん追いやって(圧縮して)いきます。咽頭に空気を押し込み陽圧をつくって(さらにのどを締めて空間を圧縮します)、声門を瞬間的に開放し、肺に押し込みます(すぐ声門は閉じて空気漏れを防ぎます)。その後は、繰り返しになります。じっくり見てみれば、原理はわかるでしょうか?
そして、少し丁寧に声門の開閉の動きと喉頭の上下運動の動きの協調的な関係を解説してみます。
協調的に舌咽頭(+声門)を動かすことで、呼吸筋を一切しようせずに、努力しなくても強制吸気が可能になります。
最後に、蛇足かもしれませんが、詳しく流れを知りたいという人のために(いるかわかりませんが)、詳細なメカニズムを図示しておきます。
何人かの患者さんのカエル呼吸をみてみればわかりますが、一人一人やり方が微妙に違います。コツや動かし方を聞いても人によって重視するところは違います。これは、カエル呼吸の原理が達成できていれば、(それがどれだけ効率的かは別として)方法は一つではないからです(だからカエル呼吸の模倣やイメージが一元化できないのだと思います)。具体的には、空気漏れを防止するために閉鎖方法が異なります。上で示したものは最も効率的だと思われるものであり、別法はあります。ついでに考えられる舌根閉鎖以外のカエル呼吸法を示します。
以上、メカニズムについて、つらつらと書いてきましたが、次回は最後として、カエル呼吸の習得法、教示法について考えてみようと思います。
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カエル呼吸(舌咽頭呼吸)は、最大強制吸気量のための肺内への送気に利用されることが多い方法です。筋ジスの呼吸リハとして確立されてはいるものの、ガイドライン(神経筋疾患・脊髄損傷の呼吸リハビリテーションガイドライン.2014)において「行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない」という程度で、臨床場面で積極的に行うことは少なくなってきています(優先順位の関係があります)。代替手段としては、バッグバルブマスク(救急蘇生用バッグ)による送気や非侵襲的陽圧換気療法(従量式調節換気に限る)などの方法もあります。つまり、利用価値はあるけれども、呼吸器の普及など代替手段も増えてきている中で、カエル呼吸ができなければならない理由が相対的に少なくなってきています。科学的根拠のなさが指摘されているのは事実ですが、この記事ではカエル呼吸のメカニズムを再考することでカエル呼吸をもう一度見直してみようと思います。
カエル呼吸は、下顎と喉頭の間に溜めた空気を舌で気道に送り込むことで換気を行います。具体的には、声門を使って、空気の塊を肺にピストン運動(gulp)で送り込むことで達成されます。声門は、1回のgulpごとに閉じられ、1gulpで取り込まれる空気量は40~200mlで、一呼吸は6~9回のgulpで構成されると言われています(デュシェンヌ型筋ジストロフィーの呼吸リハビリテーションマニュアル. 2014)。他にもメカニズムについて、図示も含めて提示している論文はいくつかあります(Burke, 1957; Kelleher et al, 1957; Dail et al, 1979; Nygren-Bonnier et al, 2009)。著作権の問題があるので、Dail(1979)の図を参考に下に自作図を示します。
この説明で完全にわかる人は少ないかもしれません。なので、少し噛み砕いて説明します。なぜ、カエル呼吸で自分の肺活量以上の空気を肺に溜めることができるかを考えてみましょう。頑張って深呼吸する、だけではダメな理由があります。それは、どれだけ空気を吸っても気を抜くと口や鼻から漏れてしまうからです。バッグバルブマスクなどを用いた最大強制吸気に匹敵する程度の吸気が可能になるこのカエル呼吸ですが、原理は少し違います。最大強制吸気が、強い外力(陽圧)を加えるのに対して、カエル呼吸は、いかに空気を漏らさずに肺に留めたまま、咽頭(のどの奥)に陰圧を作るか。ということがポイントになります。
カエル呼吸の際の、空気圧差を図にすると以下のようになります。基本的に閉鎖している部位は、空気の移動が起こらず、陽圧→陰圧方向へ空気が移動します。ちょっとわかりにくいかもしれませんが。
このときに、気圧を調整する機構を自分の体でつくらなければなりません。その構造としては、二重扉(エアロック)と同じと考えてください。つまり、東京ドームなどの出入り口にあるアレです。つまり、完全に気密ドアを開放せずに、片方ずつ順番に開閉することで、内外の気圧差を最小限にして空気漏れを防止します。二重扉というからには、カエル呼吸で働く舌咽頭を使って原理上、2つ以上の閉鎖部位を作る必要があります。これらの閉鎖部位が舌根、軟口蓋、声門、(口唇)になります。もちろん、これらの可動性や筋力が最低限保たれている必要がありますので、残存機能があるかどうかがカエル呼吸をできるか否かを左右します。ちなみに文献上、口を閉じるというステップは明記されていますが、これは必須ではなく、舌根閉鎖と声門閉鎖が協調してできていれば口を閉じなくてもできます。既に話が難しくなりかけているので、二重扉の原理(常にどこかのドアが閉鎖している)を考えながら、下の図を見てみてください。
基本的に、軟口蓋は挙上して、鼻腔と咽頭を完全に遮断しています。そうしないと、空気が鼻から垂れ流しになり、カエル呼吸はできません(ノーズクリップを使用する方法もありますが)。まず口から空気を取り込み、舌でのどの方に空気をどんどん追いやって(圧縮して)いきます。咽頭に空気を押し込み陽圧をつくって(さらにのどを締めて空間を圧縮します)、声門を瞬間的に開放し、肺に押し込みます(すぐ声門は閉じて空気漏れを防ぎます)。その後は、繰り返しになります。じっくり見てみれば、原理はわかるでしょうか?
そして、少し丁寧に声門の開閉の動きと喉頭の上下運動の動きの協調的な関係を解説してみます。
協調的に舌咽頭(+声門)を動かすことで、呼吸筋を一切しようせずに、努力しなくても強制吸気が可能になります。
最後に、蛇足かもしれませんが、詳しく流れを知りたいという人のために(いるかわかりませんが)、詳細なメカニズムを図示しておきます。
何人かの患者さんのカエル呼吸をみてみればわかりますが、一人一人やり方が微妙に違います。コツや動かし方を聞いても人によって重視するところは違います。これは、カエル呼吸の原理が達成できていれば、(それがどれだけ効率的かは別として)方法は一つではないからです(だからカエル呼吸の模倣やイメージが一元化できないのだと思います)。具体的には、空気漏れを防止するために閉鎖方法が異なります。上で示したものは最も効率的だと思われるものであり、別法はあります。ついでに考えられる舌根閉鎖以外のカエル呼吸法を示します。
以上、メカニズムについて、つらつらと書いてきましたが、次回は最後として、カエル呼吸の習得法、教示法について考えてみようと思います。
M1(PT)
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