旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

ナマズの幸せ

2007年10月22日 | 旅行一般
しばらく前までナマズを水槽で飼っていた事があります。子供が近所の用水路に捕虫網を突っ込んだら入ってきたいろいろな生物のうちの2匹で、当初はウシガエルのオタマジャクシだと思っていたのですが、よく見たらヒゲがあるではありませんか。翌日、本格的に水槽に移す事にしてバケツの中に置いておいたら、あら不思議。翌日には1匹になっていました。(共食いしたわけですね)

ある程度の大きさまでは意外なほど成長が早く、金魚のエサを食べながら元気に育っていました。なんとなく笑っているように見えるナマズの顔つきは、眺めていても飽きる事がなくて、なかなか気に入っていたものでが、このナマズ君、2年近く生きていたのですが、ある日突然、昇天してしまいました。非常に残念でなりません。

このナマズ君が存命の頃の話。その笑い顔を眺めながら時々、思った事があります。

ズバリ、水槽の中と、川の中、いったいナマズはどちらが幸福なのかと。

"そんなの川に決まっている"と思うのは早計というもので、川に暮らすナマズは鳶や鷺などの鳥の餌食になったり、釣り人に釣られたり、あるいは急な渇水、増水、水温変化といった危険がいっぱい。それを逃れたとしても、食料は自分で探さねばなりません。水槽の中に居れば、危険は"飼い主の怠慢"位ですし、エサはメニューを選ばなければ、自分で探さなくても定期的に水面から落ちてきて、自分の独り占めです。ところが川で生きていくには、時には自分の仲間まで食糧とせねばならない事もあります。

そんな事を考えているうちに思い起こされてきたのは、初めて海外へ一人旅に出た時の周囲の人たちの反応。"そんな危険な所へ何をしに行くの?"。自分自身はそれが良い考えだと思ったのですが、周囲の人からそう言われてみると、反論するだけの説明は浮かんでこなくて、沈黙するばかりでした。

そういえば、登山家、ジョン・マロリーは"どうしてエベレストに登るのか"と聞かれて、"そこにエベレストがあるからだ"と答え、それが"そこに山があるからだ"と訳されて、名言として知られるようになったわけですが、もしかすると、マロリーも、何となく良い考えだと思ったんだけれども、あらたまって理由を尋ねられると上手い説明が浮かんでこなくて、適当な答えをしたのかもしれませんね。

あの時、"そこにタイがあるからだ"と答えておけば、今頃は名言として残って・・・いないか。

さて、ナマズ君の幸せの話。結局、このナマズ君は私につかまった時点で、そして私が気に入っているという事実と運命から逃れる事はできないのであって、川で暮らすか、水槽で暮らすかの選択肢は彼にはありません。運命を粛々と受け止めてもらい、私はナマズ君が不幸を感じないようにせいぜい世話をしようと心に誓ったのでした。

人間には幸いにして、川で暮らす事、水槽で暮らす事の選択肢が残されている事が多いとは思いませんか。逆にこの選択肢で迷う事がストレスという名の悩みである場合もありますね。

どちらを選ぶも人の自由ですし、私はどちらを選んでも結局、あまり違いはないのかもしれないと思うようになりました。

ただ、川に出ていった者が鷺に食べられてしまった不幸を、水槽に暮らしている者が"ホラ見た事か"と笑うような世の中はあまり面白みに欠けるとも思うのでした。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿