旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

豪雨の砂漠での出来事

2007年10月20日 | 旅の風景
パキスタンからイランの国境を目指していた時の事。この砂漠地帯には砂漠であるのに雨季があって、雨季になると鉄道が不通になるほどの雨が降るのです。パキスタン滞在中に体を壊していた私は予定以上に滞在が長引いて3ヶ月の滞在期限のタイムアップも背後に迫り、しかもモンスーンに追いつかれてしまい、懸命に国境を目指してバイクを走らせていたのです。

クエッタを過ぎると国境の村、タフタンまでは道路も砂漠の未舗装となります。懸命にタフタンを目指す私を豪雨が襲います。トルコに入るまで着る事がないだろうと思っていたレインウェアを着て、夜のように暗くなった空の下、豪雨と稲妻の中、国境を目指して走る私の前に現れたのは停車中の数台のトラック、それからその行く手を阻む洪水となったワジ(涸れ沢)でした。

私はトラックに並べてバイクを停めて、それでも諦め切れずにワジが渡河可能かどうかを見に行きました。普段は砂漠の凹みでしかないであろうワジも、この時ばかりは激流となっていて、上流から巨大な木の根が激しく転がりながら流されてきたのを見た私は、理性では渡河するのは無理だとわかっていながらも諦め切れずに流れを眺めていました。

ふとトラックの陰を見ると、豪雨に打たれながら、2人のトラックドライバーがメッカに向かって祈りをささげておりました。時々、空を走る稲光に照らされるその姿は何とも言えず凄みがあって、私はその姿に目を奪われて立ち竦んでおりました。そして、彼らは水が引く事を神に祈っているのかと思ったのですが、どうやらお祈りの時間だった様子です。

しばらくして祈りを終えた二人は私の所へ来て、今来た道を指差して"GO"と一言。"戻ろう"というわけです。

私も素直に彼らのトラックについて戻ります。しばらく走るとドライバーたちが私に見えるように窓から手を出して1軒の建てものを指差しながらトラックを停めました。そこには既に数台のトラックが停まっています。

彼らに導かれるままにその建物に入ってみます。すると、外から見てもわからなかったのですが、そこはチャイハナでした。めいめいがポット入りのチャイ(この地域ではミルクティーではなく、ブラックティーになる)を頼んで時間をかけて楽しみます。私を連れてきてくたトラックドライバーたちと一言、二言、言葉を交わしたけれども、私のウルドゥー語の知識はそれまでしか続かず、ここには英語が話せる人もいないので、その後は一人、空を恨めしく睨みながらチャイを飲みます。

しばらくすると、さきほどまでの豪雨が嘘のように止んで、空は一時的な明るさを取り戻したのですが、今度は夕闇が迫ってきます。私をここまで連れてきてくれたトラックドライバー達がおもむろに立ち上がって再び"GO"と声をかけてきます。さきほどの凄い激流を見た私は半信半疑で再び彼らの後をついて走りはじめます。

さきほどのワジにさしかかると、驚いた事に水は既に全て引いています。どうやらワジには水源が無いため一気に流れた後は再び砂漠に戻ってしまうようです。そして、トラックのドライバー達はその事を知っていて、私をチャイハナへ誘導してくれたようでした。

とっぷり日の暮れた砂漠の道をトラックのテールランプを頼りに次の村まで走って、何かと気遣ってくれたトラックドライバーと別れを告げて私は1泊する事にしたのでした。


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