見知らぬ街

　日本を離れて広大な土地を旅する場合、移動中の思わぬトラブルが原因となったり、あるいは単純にその広大さが原因となって”目的地”ではない場所に滞在する事を余儀なくされることがあります。

　自転車やバイクや車で旅する場合は特に起こりがち。自転車やバイクや車で旅する事に慣れた方にとって突然の予定変更は日本国内でも何度も経験しているでしょうし、経験を積んだ殆どの旅人にとって動揺するに値しない出来事でしょう。鉄道やバスの場合も故障や事故で同じことは起こりますし、航空便の場合でも故障や天候不順などの要因で予定外の場所に滞在する必要が発生する事は実際に起こります。

　旅先でのこういった体験はイライラさせられることもありますし、心細い気持ちにもなりますが、多くの場合、最終的にはその旅の思い出として末永く残る事も多いものですし、現地へ行く前の自分にとっても、旅行ガイドブックにとっても特に意味のない町であった場所が、予定変更がきっかけとなって自分にとって特別な場所として記憶に残るきっかけともなるものです。

　例えばA地点から目的地であるB地点への距離が1000kmあった場合、1日の行程として考えるには少し距離が長くなるので、どこか途中で1泊する事を考えます。中間地点が理想ですが合計1000km程度であればどちらかへ大きく偏っても何とかなるでしょう。この区間にある興味をひかれる町を調べ、そこの宿泊事情を調べ、ついでに見どころも調べることで、新しい目的地Cを生み出しながら旅の計画を立てるのが一般的な方法だと思いますし、何かと安心な方法でもあります。

　しかし先にあげた”予定外の滞在”のドキドキ感などを楽しむ気になれば主要な目的地を除いては”偶然の出会い”に期待する日に充てるという手もあります。一人旅なら、”最悪の場合は朝まで走り続ける”とか”24時間営業のレストランを見つけて食事のついでに仮眠”などを最終手段と考えて、走れるだけ走って夕暮れに通りかかった町のモーテルに転げ込むようにした方が旅としては楽しめる事も多いのではないかと思うのです。

　インターネットやガイドブックなどを駆使して完璧な情報収集と計画立案を行って、現地へ行ってからはそれを消化する”作業”に徹するばかりではなく、現地で発生する事を受け入れて、それに合わせて自分の視点や姿勢を変化させて順応し、人や風景や町やその他もろもろの事との偶然の出会いを楽しめる程度の心の余裕は、逆に”完璧”な下調べに縛られない自由から得られる解放感だと思います。