旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

クランブルックのパブにて

2016年06月21日 | 旅の風景
 ガイドの引退によって終了してしまったカナダオフロードファンライド。私個人にとっても数多くの思い出を刻んできたツアーで、とても正直な気持ちとしては、何かの形でまたクランブルックを絡めた旅を企画したいと考え続けています。当時のガイド、デイブともたまに連絡を取り合って、”また一緒に何かやろう”と話しているので、お楽しみに。

 さて、そのツアーがまだ健在だった頃の話。
 
 クランブルックへはもちろんバンクーバーから国内線。ボンバルディアの小型旅客機でのフライトです。乗り継ぎ手続きを終えて、搭乗ゲートへ。搭乗開始時刻となり、搭乗口へ向かいながら後続のお客様をふと見ると、なぜか1人止められています。

 何事かと戻って聞いてみると、"MR.○○、あなたはこの飛行機にのることができない”と説明されているではありませんか。

 私はもはや搭乗券も半券を渡して席につくばかりなわけですが、置いていくわけにはもちろんいかないので戻って説明を求めると、航空便の機材が変更になって、全員は乗れなくなったからとの事。ゲートで交渉した結果、私を残して他の方々には予定通り出発していただくことになりました。

 ゲートを逆戻りさせてもらい、次の便の搭乗券と、C$20のミールクーポンを貰ってターミナルへ戻った私はとりあえずデイブに電話。自分が乗れなかったことと、自分の新しい到着予定時刻、お客様は予定通り飛んだ事と、その到着予定時刻を知らせて、それぞれの送迎を依頼し、ハンバーガーショップでミールクーポンを活用したあと、空港のスポーツバーでビールを1杯注文してそれから数時間を過ごしたのでありました。

 すっかり夕方になって、ようやく次の便の出発時刻も近づき、搭乗ゲートへ戻ってみると今度は無事出発することができました。

 クランブルック空港へ到着してみると、先行したお客様たちは皆いい気分に酔っ払って、それでもガイドと一緒に迎えに来てくれていました。お客様の一人から缶ビール1本手渡され、車に乗ると同時に私も皆の良い気分に加わったのでした。

 ホテルに到着して、シャワーを浴びてた頃にはお客様の殆どは各自部屋でくつろいでおられます。ただし、添乗員と同室の幸運なのか不幸なのかわからない方が一人おられます。

 ”なんだか飲み足りませんね。”
 ”そうだろうね。ちょっと飲みに行こうか”
 
 という事になり、私が準備している間にお客様がフロントでパブの場所をチェック。

 ”とにかくあっちへ歩いて行くとあるみたいよ。すぐらしい”
 
 情報にしたがって歩き始めてみたものの、すっかり夜になったクランブルックの町を歩いているのは我々だけ。

  ”すぐ”という表現でイメージする距離はとっくに過ぎたのにパブは現れません。二人で、”もう少しだけ歩いてみましょう”とか、”もう戻って、どこかで缶ビール手に入れて飲みますか”とか、揺れる心のまま進んでいくと、ようやく1軒のパブを見つけたのでした。

 ドアを開けると、パブはガランとしていて、先客が3人。鼻の頭を赤くした、日焼けしているのか、酒やけしているのか、あるいはその両方なのか。ジーンズにワークシャツやTシャツの男達。鍛えられた筋肉質の体から林業作業者か、鉄道作業員、あるいは道路作業員かと想像できますが、常連らしき彼らに”ジロッ”と睨まれて少しドギマギです。

 二人でカウンターのバーテンのところへ行って、とりあえずビールを注文すると、”1杯で良いの?”とバーテンが訪ねます。

 ふと気が付くと先ほどの男たちのうちで一番人相の悪そうな人物が我々のところへやってきていました。

 ”2杯ずつ注文しろ”
 と少し酒やけした声でにらみを効かせて命令します。
 
 (もしかすると、自分たちに奢れっていう意味?それにしては1杯足りないんだけど????)

 恐怖に怯えながら、助けを求めるようにバーテンダーを見るとすました顔が微妙に意地悪い印象です。

 "2杯ずつ注文しろ”
 男が再び念を押します。

 恐怖を押し殺し、勇気を振り絞って尋ねてみます。
 "1杯ずつじゃダメですか?"

 男は再び、ドスの利いた声で
 "もうラストオーダーだから2杯づつにしておけ。"

 この返答と同時に我々以外の全員がバーテンダーを含めて大爆笑。

 どうやら少しからかわれていた様でありました。

 命令に従ってビールを2杯ずつ注文した我々はその後、地元の酔客達と一緒にしばらくの時間を共有したのでありました。


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