馬鹿になって遊ぶ

確か中学生の時の事だと思うのですが、体育の授業でバスケットボールをやることがありました。当然、バスケットボール部の人間を除いては慣れない事ばかりなので、ゴールにボールを入れる事は勿論、ドリブルもディフェンスも、要するに全ての課題に対して皆ぎこちなく対応していて、なおかつ中学生位になると少し自意識もあるので、”ホントはもっと上手く出来るんだけど、体育の授業程度で本気は出さないのさ”とでも言わんばかりの態度を多くの生徒がとっていたとおもいます。勿論、私もそのうちの一人、あるいは私一人がそこまで自意識過剰だったのかもしれませんが。

そんな中、少し毛色のちがう生徒が3人いました。彼らはバスケットボール部の人間ではなかったのですが、テレビか何かでプロ選手のプレーを見て”カッコイイ”と思ったらしく、たとえばシュート練習の待ち時間などに、3人で盛んにプロ選手のドリブルやフェイントを再現して喜んでおりました。勿論とても下手でしたが、他の生徒に白けた表情で見られても、先生に注意されても気にせず、ひたすら真似に打ち込んでいました。

私は彼らのそのような姿を”幼稚で馬鹿な連中”と思いながら眺めていたのでした。

何日もの日が経過し、バスケットボールの授業も何時間かが過ぎた後、幾つかのチームに別れて試合をすることになりました。シュートもドリブルもそれなりの回数、課題としてこなしてはいたわけですが、なにぶん”本気なんか出さないのさ”といった態度だった人間がそれほど上達しているわけもなく、何となくぎこちなく試合はすすんでいくわけです。ところがそこに明かに動きの違う3人の生徒の姿がありました。

そうです。あの”幼稚で馬鹿な連中”です。彼らは周囲の目など気にもせずにひたすら”真似”を繰り返していて、いつのまにかバスケットボール選手らしいリズムと体の動きを身に付けていました。ぎこちない動きの周囲に対して生き生きと動きまわる彼らのプレーは周囲を圧倒していました。

新しい事に挑戦する時、色々調べて理論武装する事も必要かもしれませんが、時には”幼稚で馬鹿”な人間になって全部を受け入れて遊んでみる事も必要なのだと思います。今は色々調べて理論武装する事は比較的容易になっています。そんな中で”あいつらは幼稚だ、あいつらは馬鹿だ”というような一歩引いた批判的な態度を取ったり、批評や批判を加える事で、少し偉くなったと勘違いするような事になっていないかどうか、時々考えてみるべきかもしれません。