土佐の狸の怪 4. 潮江の狸
2023.4
今は昔、潮江村(今は、高知市の一部)の砂入に、小田原平兵衛と言う武士が住んでいた。
家僕二人を使っていたが、一人は大人で生れ付き足が短かい障害者であって、一人は十四五歳の若者であった。
ある夜、用事があって、若者の僕を使いにやったが、まだ夜になってすぐの頃であったが、天狗橋の南の橋詰めで、その高さ一丈も有るかと思うばかりの大入道
に出くわした。身の毛もよ立つ様におぼえて、走りつつ島屋と言うのに飛び込み、助けを乞うた。
ちょうどその時、平兵衛もそこに来掛っていた。
いきさつを聞いて、それは、どこかの狸のしわざであろうと、笑いながら、狸を罵しった。
小田原平兵衛は、若者を連れ帰った。
夜が更けるに及び、今度は大人の僕が、門を閉めようと、足を引摺りながら行った。
すると、かの狸は、自分の事を悪しざまに言われたのが気にいらないと思ったのであろう。
垣間より踊り出で、その僕の足に噛み付いたので、僕は肝(きも)をつぶして、門も閉めずに逃け帰ったそうである。
「土佐風俗と伝説」 古狸 より