河童(狸だという)に教えられた家伝薬 「池底叢書要目」
2024.11
俚俗の談に、こんなのがある。
近古、水虎(スイコ:この場合はかっぱ)がいて、怪をしたが、何某(なにがし)が剣を抜いて、その手を切りおとした。
水虎は悲しんで、切られたその手を請い受けとって、膏薬でもってつないだ。やがてもとのように手が付いて治った。
何某は、怪しんで、その薬方を聞いて、伝えた、と云うことであった。
この書物(何かは不明)を見るに、その説は記載されていない。
これによって、考えるに、それは河童ではなく、実は狸であろう。狸には、確かに、その証拠がある。
小笠原系図(信濃の守 清宗の系譜)に云う。
ある時、清宗は、厠(かわや)に行ったが、奇怪な物がいて、厠に入るのを、邪魔をしていた。清宗は、剣を抜いて、それを切った。すると、たちまち手が切れて落ちた。見ると、狸の手であった。
一両日の後の夜陰に、窓の外から声があった。
清宗にこう言った。
「お願いです。あの手をお返し下さい。」と。
清宗が言った。
「お前は、何者か?」と。
「狸で御座います。」と答えた。
清宗はまた問うた。
「手は、もう切り落されている。手を取り戻しても、何の益も無いだろう。」と。
狸はこう答えた。
「膏薬で、手をつなぐことが出来ます。」
清宗は、件(くだん)の手を狸に返してやった。
狸は、手を得て帰っていった。
また、二三日して、狸は窓の外に来て、言った。
「おかげさまで、膏薬であの手をつなぐことが出来ました。このように治りました。」
清宗は、狸の手が、治っているのを見て、不思議に思った。
そして、狸のその薬方を教えてくれるよう、要請した。
狸は、その薬方を授けた。
今に至るまで、その家の家伝の膏薬となった、と言うことである。
池底叢書要目 広文庫より
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