『DQXエンドレス・ラブ』①
前回
『エンドレス・ラブ』二年⑫
<接触⑬>
療養所から退院したデヴィッドは、しばらくしてニューヨークへ外出しました。
両親がしまっていた書類の中から住所をみつけ
その場所へと尋ね入ることにしたのです。
「ビーーーーーーー」
デヴィッドは探していた住所に訪れ、ドアにあるチャイムを鳴らして待ちました。
「デヴィッド!」
「私は驚かせるのが嫌いなのに、あなたはいつも突然ね」
「来客が多いのよ。夕べはサミーがこのソファーに寝たの、今朝、学校に戻ったわ」
「学校に通ってるんですね、あの頃は小さかったのに…」
「あの頃はね…」
「素敵な部屋ですね」
「私の新しい城」
「座っても?」
「要件は何?」
「迷惑だったら、帰ります」
「あいかわらずね、人の顔色を気にして許可がでるまで安心できない」
「なぜニューヨークにきたの?」
「あなたに…もう一度会いたくて…久しぶりだったから、2年ぶりに…」
「ヒューが、いつかあなたが私を探して訪ねてくるってその通りだったわ。彼の予言って時々怖いほど当たるんだから…」
「私たち一度は、やり直そうともしたんだけど、ダメだった」
「おなじことの繰り返しだったから、ケンカばかり…もう一本おごるわ」
「お気に召しませんだっちゃか?」
「おいしかったわ」
「今日はクリームシチューを召し上がるとスープが付くんだっちゃ」
「何の話しだったかしら?」
「離婚の話し…」
「あ、離婚ね、人生の門出。ヒューはニュージャージーで恋人と暮らしてるわ…あたしのアパートにもよく連れてくるの…きっと気が合いそうだからって」
「でも彼女にとってあたしはヒューを不幸にした張本人だから嫌われてるの…結婚式に行くべきかしら?」
「結婚するの?」
「さあ?ね。でも、イングリッドが結婚を切望している。子供たちも彼女を歓迎しているわ。特にキースとは、大の仲良し」
「名前はイングリッド?」
「イングリッド・オンチェスター・木星人なの。車が好きで占星術が好きで、なんでも星占いで決めてるわ、星とともに生きてる…」
「今でも宇宙飛行士になりたいの?」
「ええ、はい」
「彼女の言う通り。運命って存在するわ…」
「また小説を書いてるんですね、よかった。僕をモデルした小説ってここにあります?ぜひ読んでみたいんだけど」
「モデルは3人よ。あなたとジェイドと私が登場するの」
「二人が愛し合うのを私が見たときの話し…」
「見てたの?」
「物音がして、泥棒かと思った。階段を下りる途中で、暖炉の火に浮かびあがるふたりを見て…あまりに素敵で、身動きができなかった。ぜんぜん気づいてなかった?」
「ちっとも…」
「それで、あれ以来、考え方が変わったの…今まで私たちが信じていた愛や結婚にたいしても…」
「ごめんなさい」
「私なに言ってるのかしら、でも素敵な気分…こっちに座って私の隣に…ひとりじゃ寂しいから」
「あの夜、あなたたちが抱き合うのを見た後、ヒューと愛し合ったのよ…あなたを思いながら…」
「レストランで恋人同士に見られたわ…」
「そう?」
「ほんとに、あなたと愛し合いたいと思ってた」
「ここへ来てよかった。ずっと会いたいと思ってた」
「人には行きたい場所や触れたいものがあるわ」
「何もせずに、後悔したくないの…」
「怒ったほうがいい?」
「どうかわかってください、ジェイド以外とは愛し合えません」
「どうしようもないんです…帰ります」
「ホテルは?」
「まだ」
「これから探すのは大変よ」
「バス停の近くにホテルがあった」
「あらあら、この周辺は物騒なのよ。ここに泊まった方がいいわ、そのかわりソファーに寝てもらうけど」
「帰ります」
「明日には電話して、間違ってもここに来ちゃだめよ。毎週土曜日はヒューとイングリッドが来る日なの…」
やがてデヴィッドはアンの部屋から出て行きました。
ドアを閉め、アンを背中に感じたとき、裁判所で聞かされた日のことを思いだしました。
「第2級放火罪に問われています。これは通常最低禁固20年の罪に相当します」
「今後、被告が刑務所での服役を望まない場合は、他人に危害を加えないと担当医師が判断するまで、入院と治療が義務づけられます。また被告には今後、バターフィールド家との一切の接触を禁止します」
「ジェイド・・・・」
デヴィッドは肩を落とし、その場を後にしました。
次回
『エンドレス・ラブ』幻影⑭