観光客がゆっくりと歩く狭い一本道を、バスは慎重に上がっていきます。
人や車とすれ違うときは、見ている方がドキドキ。
運転手さん、上手だなぁ。
やがて、民家もなくなって、ぐねぐねと曲がった山道に入っていきます。
Uターンの連続で、さっそく乗り物酔いです。
三半規管めちゃ弱いので。
高野山に登ったときも、大変だったことを思い出しました。
気持ち悪いのをぐっとこらえつつ、20分の長い道のりを乗り切りました。
着いたら、この景色です。
酔っていたことなんて、一瞬で忘れていました。
奥千本バス停に到着です。
ここからすぐ下りていく人もいるかもしれませんが、私はここの近くにあるという『西行庵』というところへ向かいます。
ネットで見た情報では、紅葉が綺麗なところのようですし、今放送している大河ドラマにも西行さん(藤木直人さん)が出ていますので、なんとなく親近感がわいて。
せっかく近くまで上がって来たのだし、と、行ってみることにしました。
マップではわりと近くにあるみたいなんだけど……。
お、1キロ。うーん、思ったよりあるなぁ。
ん? まさか、こののぼりがずっとってことはないよね? ねっ?
若干不安になりつつも、(いやいや、観光地なんだから、みんな上がってはるし)と思い直し、えっちらおっちら登っていく。
結構な急坂だ。気を抜くと足があんまり上がってなくてめっちゃ歩幅が小さくなってる。
意識して足を上げながら、スピートを上げて登っていった。
坂は苦しいけれど、脇の木々がなぜかすっきり切られていて空が広く、青空と紅葉した木々のおかげでとても気持ち良かった。
ある程度登ったところで先に行っている人たちが足を止めて横を眺めていたので、私も見てみる。
うわっ! すごい。
高いところまで来たんだなぁ。
吉野の山々が一気に見渡せる、すごいところだ。
しばらくぽーっと眺めていると、後ろからきた段階の世代くらいのご夫婦の旦那様が、奥さんに「何か見えるの?」と聞かれて一言。
「いや、別に。山があるだけ」
おいおいおい~~~、この景色をみてだだの山があるだけって、そりゃないでしょうよ!!
どんなすごいところに住んでるの~!?
一人で行ったもんだから周りの会話がよく聞こえ、こんなびっくりにも出会ったのでした。
紅葉の固まりが見えてきて、ついにどこかの建物に到着~~。
これは、西行庵じゃないなぁ。写真とは違う。
これまた横のご婦人から。
「『奥の院』って感じだね~~」って言葉が。
なるほど、確かに。
名前を見ると、金峯神社(きんぷじんじゃ)とある。
昔、金がとれたとかいう話を聞いたことがあったので、その関係の神社なのかな?
とりあえず、上がってみます。
まだここから奥に、何かあるようですね。
なんとも謎めいて見える階段です(笑)。
足元にはたくさんのもみじが落ちていたのですが、あいにく昨日の雨でべちゃっとなっていて、あまりきれいじゃなく残念。
さて、先に進みましょう。
うーん、さっきの案内板ではここまで300メートルだったはずなので、あと700メートルかぁ…。
もうちょっとだ。頑張ろう。
うわぁ、こんな道を歩いていくのか。きれいだなぁ……。
まっすぐな杉の影が美しい。
杉たちの隙間からもれてくる光に目を細めながら、ぼこぼことした石畳を歩いていきます。
これは、杉の香りかな。濃厚な緑の匂いに包まれているかのようです。
と、分かれ道です。風情があるなぁ。
道標とお地蔵様がとっても素敵!
しゃがんでじーっと浸ってから、私はここを左に曲がって坂を下りていきました。
曲がらずまっすぐ行くと、こんな道。
黄色い葉が、何とも言えない優しい光を集めていました。
さて、急で石がぼこぼこした細道を、上ったり下ったり。
若干土が湿っているので、すべらないように慎重に歩きます。
のぼりは何度か休憩しなくちゃ一気には無理です。
日頃の運動不足がたたっています。
杉がうっそうと生い茂る暗い場所が、そろそろ終わりそうです。
行く先に、紅葉が見えてきました!
やった!そろそろじゃない!?
えーっと……。
めっちゃ綺麗なんですけど。
何これ、下までうっすら落ち葉の絨毯になってる。
こんなの、見たことない。
すごい。
……、でも、下を見下ろすと、びっくりするほど高いんですけど。
そして、急なんですけど!!
道は細い、石でがたがたしてる、何より、柵がない!!
……、これ、ころんって行ったら下まで一直線だよ?
それでも、目指す場所はこの先にある。
ここまで来て、行かない訳にはいかない。
一歩、また一歩と進んでいく。
前にいるおじさんたち、怖くないのかなぁ。
あ、もうすぐ手すりがある。ないよりはあったほうがまし、だな。
高所恐怖症の私は、もうすっかりヒザはガクガク、ふくらはぎは力がはいらない。
中腰になり、なんとも情けない格好である。
紅葉の向こうに杉の緑が透けて、すっごく綺麗なのに。
視線が固定されて、見ていられない。
ここで、後ろからおばちゃんズのこんな会話が。
「ここまでやなぁ。紅葉も見れたし、そろそろ戻ろっか」
「そうやなぁ。こんなに綺麗なの見れたしなぁ」
ええええ~~~、ここまで下ってきて戻っちゃうんですか!!
きっともうすぐそこですよ、西行庵は!!
前を行っていたおじさんズももう見えなくなっちゃったし、ここでおばちゃんズに帰られたら私ひとりぼっちやん!!
いやや~~、帰らんといて~~~。
この高さと怖さを共有してよ~~~(泣)。
私のこころの叫びが届くこともなく、おばちゃんズはあっさり去っていったのでした。
話し声が聞こえなくなった。
怖くて後ろを振り返ることもできなかった。
ちょっとびびりすぎではなかろうか。
自分でも分かってる。
道はちゃんとある。細くてもある。
手すりもある。ちゃんと立っている。
なのに、高所恐怖症というやつはほんとうに厄介で。
いつ足元が崩れるか、足が滑るかと身構えてしまう。
固まって動かない体を必死に動かして、手すりをがっちりつかみながら下りていると。
後ろから。なんと、犬!
この細い道を駆け下りてくるじゃないか!
なんで? なんでこんなにナチュラル放置で山の中を駆け回ってるの??
私、てすりにめいっぱい体をくっつけて、犬をやり過ごす。
見た感じ、噛んだりしなさそうな犬だけど。
首輪もしてたなぁ。
動物好きな人間なら大丈夫だけど、けっこう大きいし、犬が恐い人はパニックになるのではないだろうか。
うーん。
まあ、山だからな。
観光地じゃないもんね、こんな所。
人間の理なんて、通じないよね。
今すべきことは、無事に下まで下りること!!
あ、なんだか綺麗なところが見えてきた。
着いたのかな!?
空気まで黄色いなぁ。
早く行きたい!
よいしょ、よいしょ、よいしょ。
あとちょっと!
てすりがもうない!!
(あとちょっとなんだから下りれるでしょ)
そう言われてる気がする~~~。
ああもう、一気に下りちゃえ!!
どどどどど(この方が危ない)。
着いた~~~! ばんざーい、っずるっ。
何にもないところで、見事に足を滑らせました。
目の前に美人なお姉さんが立ってて。
「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。
「…めっちゃ、怖かったですぅ~~~!」
やっと誰かに言えた。涙出そうだった。
視線を上げると、目の前は黄色と赤色のうず。
絵画の中のように、西行庵が姿を現しました。
なんって、きれいなところなんだろう。
細い修験道を抜け、わずかに広がる平たい土地に。
ひっそりと、西行さんは庵を建てたんだな。
素敵だなぁ。
周りには、けっこうたくさんの撮影者がいて。
みんな、自分のポイントを確保して三脚を構えていました。
私も、自分なりに数枚撮りました。
「昔はもっと、赤い木がいっぱいあったのになぁ」
「そうだなぁ」
昔を懐かしむおじさんたちや、
「ここは、ホワイトバランスを日陰でするより雲天がいいでしょう」
なんて、カメラ講座中のグループ(私は日陰モードで撮ってた。別にいい感じだもん)、
「去年は雪が降ってね、紅葉と雪が一緒に撮れたんだよ」
うれしそうに話しかけてくれるおじさん。
だいぶ後ろのほうで狙いをつけて、前から人がいなくなるのをじっと待っているかっこいい女性。
そしてその間を自由に駆け回る、白い犬。
黄色い大きな木の下で、みんながそれぞれの楽しみを、ここで見つけていました。
願はくは花の下にて春死なん、そのきさらぎの望月のころ 西行
昔からなぜか知っていた、悲しいまでに美しい歌を詠んだ方だったんだと、この旅で知ったのでした。
吉野山は桜の名所。
ここでもそんな風に思っていたのかなぁ。
つづく。
人や車とすれ違うときは、見ている方がドキドキ。
運転手さん、上手だなぁ。
やがて、民家もなくなって、ぐねぐねと曲がった山道に入っていきます。
Uターンの連続で、さっそく乗り物酔いです。
三半規管めちゃ弱いので。
高野山に登ったときも、大変だったことを思い出しました。
気持ち悪いのをぐっとこらえつつ、20分の長い道のりを乗り切りました。
着いたら、この景色です。
酔っていたことなんて、一瞬で忘れていました。
奥千本バス停に到着です。
ここからすぐ下りていく人もいるかもしれませんが、私はここの近くにあるという『西行庵』というところへ向かいます。
ネットで見た情報では、紅葉が綺麗なところのようですし、今放送している大河ドラマにも西行さん(藤木直人さん)が出ていますので、なんとなく親近感がわいて。
せっかく近くまで上がって来たのだし、と、行ってみることにしました。
マップではわりと近くにあるみたいなんだけど……。
お、1キロ。うーん、思ったよりあるなぁ。
ん? まさか、こののぼりがずっとってことはないよね? ねっ?
若干不安になりつつも、(いやいや、観光地なんだから、みんな上がってはるし)と思い直し、えっちらおっちら登っていく。
結構な急坂だ。気を抜くと足があんまり上がってなくてめっちゃ歩幅が小さくなってる。
意識して足を上げながら、スピートを上げて登っていった。
坂は苦しいけれど、脇の木々がなぜかすっきり切られていて空が広く、青空と紅葉した木々のおかげでとても気持ち良かった。
ある程度登ったところで先に行っている人たちが足を止めて横を眺めていたので、私も見てみる。
うわっ! すごい。
高いところまで来たんだなぁ。
吉野の山々が一気に見渡せる、すごいところだ。
しばらくぽーっと眺めていると、後ろからきた段階の世代くらいのご夫婦の旦那様が、奥さんに「何か見えるの?」と聞かれて一言。
「いや、別に。山があるだけ」
おいおいおい~~~、この景色をみてだだの山があるだけって、そりゃないでしょうよ!!
どんなすごいところに住んでるの~!?
一人で行ったもんだから周りの会話がよく聞こえ、こんなびっくりにも出会ったのでした。
紅葉の固まりが見えてきて、ついにどこかの建物に到着~~。
これは、西行庵じゃないなぁ。写真とは違う。
これまた横のご婦人から。
「『奥の院』って感じだね~~」って言葉が。
なるほど、確かに。
名前を見ると、金峯神社(きんぷじんじゃ)とある。
昔、金がとれたとかいう話を聞いたことがあったので、その関係の神社なのかな?
とりあえず、上がってみます。
まだここから奥に、何かあるようですね。
なんとも謎めいて見える階段です(笑)。
足元にはたくさんのもみじが落ちていたのですが、あいにく昨日の雨でべちゃっとなっていて、あまりきれいじゃなく残念。
さて、先に進みましょう。
うーん、さっきの案内板ではここまで300メートルだったはずなので、あと700メートルかぁ…。
もうちょっとだ。頑張ろう。
うわぁ、こんな道を歩いていくのか。きれいだなぁ……。
まっすぐな杉の影が美しい。
杉たちの隙間からもれてくる光に目を細めながら、ぼこぼことした石畳を歩いていきます。
これは、杉の香りかな。濃厚な緑の匂いに包まれているかのようです。
と、分かれ道です。風情があるなぁ。
道標とお地蔵様がとっても素敵!
しゃがんでじーっと浸ってから、私はここを左に曲がって坂を下りていきました。
曲がらずまっすぐ行くと、こんな道。
黄色い葉が、何とも言えない優しい光を集めていました。
さて、急で石がぼこぼこした細道を、上ったり下ったり。
若干土が湿っているので、すべらないように慎重に歩きます。
のぼりは何度か休憩しなくちゃ一気には無理です。
日頃の運動不足がたたっています。
杉がうっそうと生い茂る暗い場所が、そろそろ終わりそうです。
行く先に、紅葉が見えてきました!
やった!そろそろじゃない!?
えーっと……。
めっちゃ綺麗なんですけど。
何これ、下までうっすら落ち葉の絨毯になってる。
こんなの、見たことない。
すごい。
……、でも、下を見下ろすと、びっくりするほど高いんですけど。
そして、急なんですけど!!
道は細い、石でがたがたしてる、何より、柵がない!!
……、これ、ころんって行ったら下まで一直線だよ?
それでも、目指す場所はこの先にある。
ここまで来て、行かない訳にはいかない。
一歩、また一歩と進んでいく。
前にいるおじさんたち、怖くないのかなぁ。
あ、もうすぐ手すりがある。ないよりはあったほうがまし、だな。
高所恐怖症の私は、もうすっかりヒザはガクガク、ふくらはぎは力がはいらない。
中腰になり、なんとも情けない格好である。
紅葉の向こうに杉の緑が透けて、すっごく綺麗なのに。
視線が固定されて、見ていられない。
ここで、後ろからおばちゃんズのこんな会話が。
「ここまでやなぁ。紅葉も見れたし、そろそろ戻ろっか」
「そうやなぁ。こんなに綺麗なの見れたしなぁ」
ええええ~~~、ここまで下ってきて戻っちゃうんですか!!
きっともうすぐそこですよ、西行庵は!!
前を行っていたおじさんズももう見えなくなっちゃったし、ここでおばちゃんズに帰られたら私ひとりぼっちやん!!
いやや~~、帰らんといて~~~。
この高さと怖さを共有してよ~~~(泣)。
私のこころの叫びが届くこともなく、おばちゃんズはあっさり去っていったのでした。
話し声が聞こえなくなった。
怖くて後ろを振り返ることもできなかった。
ちょっとびびりすぎではなかろうか。
自分でも分かってる。
道はちゃんとある。細くてもある。
手すりもある。ちゃんと立っている。
なのに、高所恐怖症というやつはほんとうに厄介で。
いつ足元が崩れるか、足が滑るかと身構えてしまう。
固まって動かない体を必死に動かして、手すりをがっちりつかみながら下りていると。
後ろから。なんと、犬!
この細い道を駆け下りてくるじゃないか!
なんで? なんでこんなにナチュラル放置で山の中を駆け回ってるの??
私、てすりにめいっぱい体をくっつけて、犬をやり過ごす。
見た感じ、噛んだりしなさそうな犬だけど。
首輪もしてたなぁ。
動物好きな人間なら大丈夫だけど、けっこう大きいし、犬が恐い人はパニックになるのではないだろうか。
うーん。
まあ、山だからな。
観光地じゃないもんね、こんな所。
人間の理なんて、通じないよね。
今すべきことは、無事に下まで下りること!!
あ、なんだか綺麗なところが見えてきた。
着いたのかな!?
空気まで黄色いなぁ。
早く行きたい!
よいしょ、よいしょ、よいしょ。
あとちょっと!
てすりがもうない!!
(あとちょっとなんだから下りれるでしょ)
そう言われてる気がする~~~。
ああもう、一気に下りちゃえ!!
どどどどど(この方が危ない)。
着いた~~~! ばんざーい、っずるっ。
何にもないところで、見事に足を滑らせました。
目の前に美人なお姉さんが立ってて。
「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。
「…めっちゃ、怖かったですぅ~~~!」
やっと誰かに言えた。涙出そうだった。
視線を上げると、目の前は黄色と赤色のうず。
絵画の中のように、西行庵が姿を現しました。
なんって、きれいなところなんだろう。
細い修験道を抜け、わずかに広がる平たい土地に。
ひっそりと、西行さんは庵を建てたんだな。
素敵だなぁ。
周りには、けっこうたくさんの撮影者がいて。
みんな、自分のポイントを確保して三脚を構えていました。
私も、自分なりに数枚撮りました。
「昔はもっと、赤い木がいっぱいあったのになぁ」
「そうだなぁ」
昔を懐かしむおじさんたちや、
「ここは、ホワイトバランスを日陰でするより雲天がいいでしょう」
なんて、カメラ講座中のグループ(私は日陰モードで撮ってた。別にいい感じだもん)、
「去年は雪が降ってね、紅葉と雪が一緒に撮れたんだよ」
うれしそうに話しかけてくれるおじさん。
だいぶ後ろのほうで狙いをつけて、前から人がいなくなるのをじっと待っているかっこいい女性。
そしてその間を自由に駆け回る、白い犬。
黄色い大きな木の下で、みんながそれぞれの楽しみを、ここで見つけていました。
願はくは花の下にて春死なん、そのきさらぎの望月のころ 西行
昔からなぜか知っていた、悲しいまでに美しい歌を詠んだ方だったんだと、この旅で知ったのでした。
吉野山は桜の名所。
ここでもそんな風に思っていたのかなぁ。
つづく。