夢のような西行庵。
いつまでも見ていたいけれど、帰らなければならない。
考えないようにしていた(今来た道を戻るのか……)という気持ちと、向き合わなければなりません。
西行庵のすぐ前から、急で高い斜面が見えていて、ずっと背中がぞわぞわしっぱなしです。
見上げると、さっき歩いてきた道。
はあ、とため息をついていると。
「あの、あちらの道はどこにつづいているんですかね」
「ああ、あっちも帰り道です」
「えー、そうなんですか」
「ええ、あちらのほうが少し遠回りですが歩きやすいですよ。景色もまた違いますしね」
ダンボになっていた耳が、こんな会話をキャッチした。
……、いいこと聞いた。
西行庵からのびる、もう一本の道。
それは、左に上る元の道ではなくまっすく進んで別の斜面を行く道だった。
何人かの人たちが、ゆっくり上がっていくのが見える。
歩きやすいというその言葉に飛びついて、さっそく歩き出した。
いろんな色のもみじ。
子供の頃ならいっぱい持って帰っただろうな。
自然がくれる、人の手では作り出せない贈り物。
きれいです。
先を歩いている人に続いて、新しい道を歩いていきます。
ううう、下は見ない。見ない。
前だけ向いて進んでいこう。
やがて、曲がり角がきて。
見えるものが変わります。
と。
ものすごい、谷。
なかなか見れない、山の上のほうの景色。
いつもの私なら、「きゃー、すごーい!」とはしゃいでいるでしょう。
しかし。
足場が、狭い。柵がない。
そして何より、てすりがない!!!
ああああああ、こわいいいいい~~~!(もう泣いてます)
足場がせまいということは、こんなにも不安な気持ちにさせるんだ、と、分かりました。
『歩きやすい』。確かに。
足元が土なので、さっきのボコボコした石の道よりも安定感がある。
しかしそれは、柵なんて必要のない人たちのための言葉だったのだ。
もう、戻ることもできない。
前から人が来たので、すれ違う幅なんてないし、私、左側の斜面にぺったりと貼り付く。
ええ、こうして待っていますとも。
少しでも低いところで。
やってきたお兄さん、すいません、と恐縮してか小走り。
走らなくていいです! こんなところで気を遣わないで下さい……!
見てるだけでゾクゾクする。
よく普通に歩けるなぁ。
やっぱ私が怖がり過ぎなのかもねん……。
また、一歩、一歩と進んでいきます。
ものすごく怖い。姿勢はすでに、バレーボールの構え並みに低い中腰。
ついに一回、しゃがみこんでしまった。
右側の景色が見れない。
こんなに絶景なのに見れない。
悔しいので、カメラだけ右に向けて。
液晶を見ながらぱしゃ。
紅葉と渓谷。すごく絵になるなぁ。
左側の杉も美しいなぁ。ぱしゃ。
ええい動け。私の足。
ぎぎぎぎぎ、と立ち上がります。
足も腰も、こわばりきって自分の体じゃないみたい。
一歩、また一歩。
あのピークまで行けるのかしら。私。
あそこに立てるのかしら。
ついにピークにたどり着きました。
なんとかなる。なんとか。
そう自分を励ましながら進んでいくと、行く先に、少し広いところが見えてきた。
せまい道の終わりだぁ~~~~! やった~~~!
とおちゃ~~~く!
すっごくきれい~~~~~!
なにこれ、ご褒美かなぁ。
空が青すぎる。
すごい。
そして、改めてあの渓谷を見に行きます。
広いスペースがあれば、そんなに怖くないんだな。
ずっと見てても平常心でいれて、だけどぎりぎりまで行って身を乗り出すことは到底できない。
つまりはそういうことなんだ。この怖さっていうのは。
ここがこんなに難所じゃなければ。
こんなところに住みたいよ~~~。
いっぱい写真を撮って、後ろ髪を引かれるようにその場を後にしました。
ここから先は、あんなに怖い道もなく。
日が傾いてきたせいで更に薄暗くなった道を抜け。
倒木をくぐり。
たまに差し込む光に心を躍らせて。
予定していたよりずっと時間がかかってしまったのが気掛かりで、いつのまにか小走りになっていました。
案内板を発見。
このあたり一帯は宝塔院跡と呼ばれていて、かつては大小の寺院が点在していたそうです。
宝塔院というのは、もしかしたらあの素晴らしい場所にあったのかもしれません。
あの眺めだもの。きっと。
やっと、元の道に、帰ってきましたよ~~~!
はああ、良かった~~~疲れた~~~。
ここまでたったの2キロなのに、右のふくらはぎがつりました。
アップダウン、過酷だったなぁ、運動不足の体には。
もう一度、あの素晴らしい眺めを目に焼き付けて。
奥千本のバス停まで、てこてこ下りていきました。
つづく。
いつまでも見ていたいけれど、帰らなければならない。
考えないようにしていた(今来た道を戻るのか……)という気持ちと、向き合わなければなりません。
西行庵のすぐ前から、急で高い斜面が見えていて、ずっと背中がぞわぞわしっぱなしです。
見上げると、さっき歩いてきた道。
はあ、とため息をついていると。
「あの、あちらの道はどこにつづいているんですかね」
「ああ、あっちも帰り道です」
「えー、そうなんですか」
「ええ、あちらのほうが少し遠回りですが歩きやすいですよ。景色もまた違いますしね」
ダンボになっていた耳が、こんな会話をキャッチした。
……、いいこと聞いた。
西行庵からのびる、もう一本の道。
それは、左に上る元の道ではなくまっすく進んで別の斜面を行く道だった。
何人かの人たちが、ゆっくり上がっていくのが見える。
歩きやすいというその言葉に飛びついて、さっそく歩き出した。
いろんな色のもみじ。
子供の頃ならいっぱい持って帰っただろうな。
自然がくれる、人の手では作り出せない贈り物。
きれいです。
先を歩いている人に続いて、新しい道を歩いていきます。
ううう、下は見ない。見ない。
前だけ向いて進んでいこう。
やがて、曲がり角がきて。
見えるものが変わります。
と。
ものすごい、谷。
なかなか見れない、山の上のほうの景色。
いつもの私なら、「きゃー、すごーい!」とはしゃいでいるでしょう。
しかし。
足場が、狭い。柵がない。
そして何より、てすりがない!!!
ああああああ、こわいいいいい~~~!(もう泣いてます)
足場がせまいということは、こんなにも不安な気持ちにさせるんだ、と、分かりました。
『歩きやすい』。確かに。
足元が土なので、さっきのボコボコした石の道よりも安定感がある。
しかしそれは、柵なんて必要のない人たちのための言葉だったのだ。
もう、戻ることもできない。
前から人が来たので、すれ違う幅なんてないし、私、左側の斜面にぺったりと貼り付く。
ええ、こうして待っていますとも。
少しでも低いところで。
やってきたお兄さん、すいません、と恐縮してか小走り。
走らなくていいです! こんなところで気を遣わないで下さい……!
見てるだけでゾクゾクする。
よく普通に歩けるなぁ。
やっぱ私が怖がり過ぎなのかもねん……。
また、一歩、一歩と進んでいきます。
ものすごく怖い。姿勢はすでに、バレーボールの構え並みに低い中腰。
ついに一回、しゃがみこんでしまった。
右側の景色が見れない。
こんなに絶景なのに見れない。
悔しいので、カメラだけ右に向けて。
液晶を見ながらぱしゃ。
紅葉と渓谷。すごく絵になるなぁ。
左側の杉も美しいなぁ。ぱしゃ。
ええい動け。私の足。
ぎぎぎぎぎ、と立ち上がります。
足も腰も、こわばりきって自分の体じゃないみたい。
一歩、また一歩。
あのピークまで行けるのかしら。私。
あそこに立てるのかしら。
ついにピークにたどり着きました。
なんとかなる。なんとか。
そう自分を励ましながら進んでいくと、行く先に、少し広いところが見えてきた。
せまい道の終わりだぁ~~~~! やった~~~!
とおちゃ~~~く!
すっごくきれい~~~~~!
なにこれ、ご褒美かなぁ。
空が青すぎる。
すごい。
そして、改めてあの渓谷を見に行きます。
広いスペースがあれば、そんなに怖くないんだな。
ずっと見てても平常心でいれて、だけどぎりぎりまで行って身を乗り出すことは到底できない。
つまりはそういうことなんだ。この怖さっていうのは。
ここがこんなに難所じゃなければ。
こんなところに住みたいよ~~~。
いっぱい写真を撮って、後ろ髪を引かれるようにその場を後にしました。
ここから先は、あんなに怖い道もなく。
日が傾いてきたせいで更に薄暗くなった道を抜け。
倒木をくぐり。
たまに差し込む光に心を躍らせて。
予定していたよりずっと時間がかかってしまったのが気掛かりで、いつのまにか小走りになっていました。
案内板を発見。
このあたり一帯は宝塔院跡と呼ばれていて、かつては大小の寺院が点在していたそうです。
宝塔院というのは、もしかしたらあの素晴らしい場所にあったのかもしれません。
あの眺めだもの。きっと。
やっと、元の道に、帰ってきましたよ~~~!
はああ、良かった~~~疲れた~~~。
ここまでたったの2キロなのに、右のふくらはぎがつりました。
アップダウン、過酷だったなぁ、運動不足の体には。
もう一度、あの素晴らしい眺めを目に焼き付けて。
奥千本のバス停まで、てこてこ下りていきました。
つづく。