NHK、STAP問題検証番組で小保方氏捏造説を“捏造”か 崩れた論拠で構成、法令違反も Business Journal 8月15日(金)3時0分配信 大宅健一郎/ジャーナリストより抜粋
7月27日に放送されたテレビ番組、NHKスペシャル『調査報告STAP細胞 不正の深層』では、小保方氏が若山照彦山梨大学教授の研究室にあったES細胞を盗み、それを混入させた細胞を実験に使っていたかのような内容だった。本番組には騒動の本質が詰まっているので、ここで番組の内容を検証してみたい。
●異様な番組内容
まず指摘したいのが、この番組の最後にあるべきクレジット(制作に関わった人物名)が一切出なかった、という点だ。NHKスペシャルでは毎回クレジットが流れるのだが、この放送回だけは流れなかった。匿名によるバッシングが公共放送で行われるという、異様さがさらに際立った結果となった。
また、番組タイトルで「不正」という文言が使用されていたが、一般社会で使用される「不正」には、自らの利益を優先した悪意ある行為、という意合いがある。しかし、サイエンスの世界での「不正」とは、作法に間違いがあった、手続きにミスがあった、という意味でも使用される。科学論文の世界では「不正」すなわち「ミス」が見つかることは少なくなく、「不正」の指摘があれば「正し」、さらに検証を受ける、という“手続き”の連続である。それが科学における検証のあるべき姿だ。その結果、再現性がなければ消えていく。科学は、そのような仮説と検証のせめぎ合いで発展してきた。むろん、今回のSTAP論文に画像の「不正」があったことは小保方氏も笹井氏も認めており、科学の手続きに則りネイチャーの論文も取り下げた。しかも「不正」と認定されたのは「画像の加工」であり、捏造を行ったという事実はどこにもない。
しかし同番組では、一般的な「不正」の意味、つまり「自らの利益を優先した悪意ある行為」という意味を含めており、番組構成も科学的検証とは程遠い、事件の犯人を追うような構成となっていた。
番組の冒頭部分で、このような場面があった。理化学研究所の発生・再生科学総合研究センターの見取り図がCGで現れ、小保方氏が実験していた場所へと画面が展開していく。「2人が共同で研究を進めたのは、C棟4階にあった若山研究室。小保方氏がいつもいたのは、壁で仕切られた小部屋。奥まった場所だった。ここで、一人、作業をしていたという。どんな実験をしていたのか…」小保方氏の研究場所を示すことに、何の意味があるのだろうか。
●法令違反の疑い
さらに次の場面で、驚くべきものが映し出される。NHKが独自に入手したという小保方氏の実験ノートのコピーである。これは明らかな秘密保持に対する法令違反である。理研の職員は準公務員であり罰則規定のある法律を順守しなくてはならない。
参考までに、独立行政法人理化学研究所法の第十四条、第二十三条を記載しておく。
・第十四条 研究所の役員及び職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らし、又は盗用してはならない。その職を退いた後も、同様とする。
・第二十三条 第十四条の規定に違反して秘密を漏らし、又は盗用した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
さらに番組では、笹井氏と小保方氏が交わしたという私的なメールの文面まで公開され、しかも声優によるアフレコまで付けていた。これが「検証」となんの関係があるのだろうか。言うまでもないが、私信の公開は法令違反である。調査資料として秘匿すべき責務を負っている調査委員会からリークされたのは間違いない。罰則規定のある法令違反を犯しても、STAP論文の「不正」をゴシップ的に報道する理由はなんなのか?
ここで、NHKスペシャルの決定的な「誤り」を取り上げる。小保方氏による「ES細胞窃盗および捏造説」へとミスリードした内容である。番組では、論文執筆者の一人である若山氏が登場する。論文関係者では唯一インタビューに応じていた。そして、若山氏の3カ月に及ぶSTAP細胞検証実験の様子が映し出され、タイミングの良いことに、カメラは「STAP幹細胞が若山氏の渡したマウス由来でない証拠」が見つかった瞬間を捉えていた。さらに番組では、小保方氏の研究室の冷凍庫から容器が見つかった、と写真付きで解説し(この写真も内部からのリークである)、若山氏のもとにいた留学生の“証言”も放送された。留学生はES細胞を若山氏の研究室で作製し、若山研究室が理研から山梨大学に移った際に持っていったはずだと言い、次のように証言した。「びっくりした。小保方氏に渡したことはない」そして、ナレーションは次のように結んだ。「なぜ、このES細胞が、小保方氏が使う冷凍庫から見つかったのか。私たちは小保方氏に、こうした疑問に答えてほしいと考えている」NHKはこの質問の答えを求めて、ホテルで小保方氏をトイレまで追い詰めるという取材を行い、全治2週間の怪我を負わせた。
●論拠を失った「ES細胞混入説」に基づき番組構成
ここから同番組の決定的な「誤り」の部分だ。放送された7月27日に先立つ22日、若山教授がこれまで主張してきた「STAP幹細胞は若山研究室にないマウスに由来している」という解析結果が間違いだったと発表した。22日の時点で、解析結果が間違っており、STAP幹細胞が若山研究所のマウスに由来する可能性、つまり、小保方氏がES細胞を混入したことを“否定”する可能性を示していたのにもかかわらず、同番組は「ES細胞混入説」で押し通したのだ。ちなみに22日の時点で番組の編集が終わっていた、という理屈は通じない。なぜなら、小保方氏がNHKの執拗な取材で怪我を負ったのが23日だからだ。NHKは、なぜ直前に論拠を失った「ES細胞混入説」に基づき、番組を構成したのか。科学的な検証を行うならば、必ず指摘しなくてはならない矛盾だったはずである。しかも、小保方氏が「あるはずのないES細胞」を冷蔵庫に保管していた、という報道まで行って視聴者を捏造説へとミスリードした責任は大きい。
笹井氏は「不正」発覚後の4月の会見でも、STAP細胞の存在を信じていた。STAP細胞から生まれたキメラマウスにおいて、STAP細胞が胎盤にまで分化していたことは、ES細胞でも実現できないことだと当初から発言していた。笹井氏は再三「STAP現象を前提にしないと容易に説明できないデータがある」と語っていたのだ。
大宅健一郎/ジャーナリスト