各国の国防担当閣僚が参加するアジア安全保障会議(シャングリラ対話)がシンガポールで2~4日に開かれ、日本は同盟国・同志国との連携を強めつつ、対話による信頼関係を構築する姿勢を前面に打ち出した。先頭に立った浜田靖一防衛相は中国国防相と交流再開を協議し、韓国国防相とは、防衛当局間の長年の確執を議題に乗せた。防衛分野で他国と関係づくりを進める岸田文雄政権の「防衛外交」(政府高官)を体現した形だが、中韓の国防相とは腹が割れたのだろうか。
シンガポール・シャングリラホテルの会議室で3日開かれた日中防衛相会談の冒頭。申し入れた側として会議室に先着して待ち構えていた浜田氏に、部屋に入ってきた中国の李尚福(り・しょうふく)国務委員兼国防相が声をかけた。浜田氏も「ニーハオ」と応じると、李氏は握手を求めた上で「お会いできて大変うれしく思っています」と一方的に話した。
握手したまま記者団の方を向いた一瞬だけ、両氏は口元に笑みを浮かべたものの、すぐに表情が硬くなった。テレビカメラの先には国民の目がある。中国軍は日本周辺で艦艇や軍用機の活動を活発化させ、昨年8月には沖縄・与那国島沖に弾道ミサイルを着弾させた。そう思えば心中穏やかではいられないだろう。
李氏は中国側幹部がそろうまでの間、沈黙に耐えかねたのか、浜田氏に「海空連絡メカニズムが、こないだ開通しましたね」と話しかけた。海空連絡メカニズムは日中の偶発的衝突を回避するため、防衛当局幹部間を直結するホットラインを含む連絡手段だ。両氏は今年5月、初めてホットラインを使用した通話による会談を行った。浜田氏もホットラインに触れた上で、こう切り出した。
「日中には、尖閣諸島(沖縄県石垣市)を含む東シナ海情勢や日本の周辺海空域における中国側の軍事活動の活発化など安全保障上の多くの懸念が存在する」
会議室に張りつめた空気が流れる。浜田氏は「懸念があるからこそ率直な議論を重ねていくことにより、建設的かつ安定的な関係の構築に向けて努力していくことが重要だ」と続けた。
産経新聞