すなわち、それは学術書である以前に、直近の問題に対処するための行動の書であった。
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「世界の孤児」にならないために, 2009/1/4
By コマンチ - レビューをすべて見る
はっきり言って難解です。巻末の解説や他の解説本と合わせて読むことをお勧めします。しかし現代の政治経済を考える上で、恐らくこれは必読の書です。
というのも今回の金融危機以降、世界中で新自由主義からケインズ型への経済政策の見直しがなされつつあるからです。与野党の論争でもケインズ政策が対立軸を成しており、バラマキというよりは所得の分配が争点になっているようです。「アンチ派」は今だに内需より企業の国際競争力を優先し、その為には国民所得の低下も已む無しとしています。
一方ケインズは貿易黒字の利点を認めてはいますが、それに頼った国家運営は「他国の犠牲により成り立つ重商主義時代の遺物」と見做しています。その代わりに何をすべきか?この本には様々な処方箋が、慎重な考察とともに述べられています。
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間宮さんの大胆な”意訳”によって画期的に読みやすくなった「一般理論」。 是非、一人でも多くの人に親しみながら読んでいただきたい。, 2008/12/28
By 21世紀のケインジアン (兵庫県) - レビューをすべて見る
「一般理論」は難渋の書とされ、それを通読した人は意外に少ないであろう。
その大きな理由は二つある。
一つは、この書を書き上げた段階ではケインズの考えは完全に整理されておらず、内容に誤りや、混乱が少なからずあることで、読者の理解を妨げていること。
もう一つは、日本語訳が硬く、日本語の文章としても理解に苦労することである。
私は塩野谷九十九訳、塩野谷祐一訳両方に目を通したが、訳の硬さによる本書に対する親しみにくさは、依然として解消されていなかった。訳に問題があるのかと思い原書を読むと、「やはり、こういう訳にしかならないな」と言うことになってしまっていた。
とにかく、ケインズの原文自体の文章が凝っていて、小林秀雄氏の文章のようであったからだ。例えるなら、小林秀雄氏が数式やグラフを使わずに経済理論を書いた本を読むようなものと言えよう。
今回、間宮氏による大胆な”意訳”の「一般理論」により、訳の硬さによる親しみにくさが大きく克服されたことは誠に喜ばしいことであり、間宮氏の功績を称えたい。
なお、本書が難渋とされる第一の理由であるケインズの考えは完全に整理されておらず、内容に誤りや、混乱が少なからずあることで、読者の理解を妨げていることについては、長年、ケインズの研究に打ち込んでこられた塩野谷祐一氏の訳本の巻末にそれらの問題点を整理した塩野谷祐一氏による解題があるので、是非、そちらを読まれたい。「一般理論」のエッセンスが、まさにそこに集約されている。
なお、上記の「一般理論」におけるケインズ自身の混乱や誤りを整理する論文を、その後、ケインズは自身が編集長を務める、イギリスの「Economic Journal」誌にたびたび寄稿していった。その集大成は、1939年に同誌に寄稿された短い本の分量に相当する長文の論文「The Alternative Theory of Employment,Interest and Money」として発表された。同論文は「一般理論」を補完するものであり、両者を併せて読んでいただければ、「一般理論」の理解はクリアになるであろう。
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難解だが、経済学を学ぶならば読んでおきたい, 2008/6/13
By θ - レビューをすべて見る
訳については比較できる立場にはないので、コメントは差し控える。
全体としては訳はわかりやすいと思うが、そもそもケインズの原著自体が難解であることで有名なので、読むのは骨であえる。
遊びがほとんどなく、理論の骨格がずしりと示されているので、本格的ではあるが、素人にとっては読むのは大変であった。
ただ、ケインズというと教科書程度しか知らないというのはもったいない。
ケインズといわれて、「失業対策に公共事業をして雇用を作れといっていた人ね」としか認識されないのではかわいそうだ。
今日では、ケインズというと公共事業で赤字垂れ流しという悪印象も強いかもしれないが、本書執筆当時は、失業率25%というまさに「危機の時代」だったのである。
多くの知識人が、大量の失業に失望し、社会主義・共産主義に傾倒してしまう中で、ケインズは資本主義を諦めなかった。
そして資本主義を復活させるべく書かれたのが本書なのだ。
一応本書のエッセンスだけを自分の言葉に直して記しておく。
有効需要の法則
(以下では、生産にかかる物的費用や機械の維持費はすべて共通なので抜いて考え、人的費用(労働)のみを対象とする)
総所得(個人の給料と会社の利益)は、総売上に等しく、総売上は、総購入費用に等しい。
所得の使い道は2つ、消費するか貯蓄するかである。
購入費用の出所は2つ、消費と投資である。
総所得が増えると、総消費も増えるが、総所得の増加分ほどには増えない(一部は貯蓄に回されるから)
よって、総所得ー総消費は、総所得が増えると大きくなる
さて、総所得ー総消費=総購入費用ー総消費=投資であり、投資は別の要因で決まる一定の値なので、総所得は、総所得ー総消費=投資となる分までしか大きくなれない。
つまり、政府の側が公共事業などで投資を増やさなければ、雇用量(総所得)も増えない。
利子は、我々が貨幣の有する流動性を手放すことの対価であって、貯蓄に対する報酬ではない。
すべての資産のうち自己利子率(現在のその資産の量と、一定期間後に、同じ価値を持つ量との変化割合)が最大のものと、すべての資産のうち限界効率(ある期間中に、そこからの収益・維持費・流動性などによって得る、あるいは失うと予測される割合)が最大のものとが一致したとき、これ以上投資は行われない。
そして、貨幣は、収益と維持費はほぼゼロで、需要が増大しても労働によって新たに作り出すことは出来ず、驚異的な流動性を持つため、自己利子率は全資産中で最大となる。
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岩波文庫に拍手するとともに、強く強く推奨, 2008/5/12
By エパメイノンダス - レビューをすべて見る
塩野谷九十九氏の訳は未読だが、塩野谷祐一氏の訳は読了済み。塩野谷氏の授業も受けたことがあるという資格
でレビューをすると、本訳書は先行する塩野谷訳と比べてかなり理解しやすく、読み進むにつれ自ずと思考を誘発させ
てくれる代物。しかも文庫なので値段やハンディさの点からもこれは買推奨!!
先行訳や、新たに蓄積された知的遺産の上に今回の新訳が出版されるわけなので、時系列から考えても間宮訳のほ
うがブラッシュアップされてるのは当然だし、そうでないと改めて訳すメリットがない。ちなみに塩野谷氏の翻訳がダメな代
物だと言うつもりは全くない。例えばシュンペーターの翻訳本で、東畑訳「経済分析の歴史」、東畑・中山訳「経済学
史」、塩野谷・東畑・中山訳「経済発展の理論」を読み比べた場合、格段に「経済発展の理論」が読みやすくなって
おり、訳者の差分から考えると、読みやすさの所以は塩野谷氏の力量によると思われるからだ。
塩野谷訳はケインズ全集刊行の際に一般理論を翻訳したもので、間宮訳はケインズ全集が刊行されて以後に翻訳さ
れたものである。つまり間宮訳は、ケインズ全集が刊行されたことで出てきた新たな成果(そこら辺は、伊東光晴氏の
「現代に生きるケインズ」やスキデルスキーの「ケインズ伝」等を読むのがよい)や、フリードマンをはじめとする反ケインズの
流れを受け、従来までのケインズ解釈への批判と新たなケインズ像の模索といったことを踏まえて登場してきたわけなの
で、塩野谷訳とは、当然のことながら時代的意義というか役割が違うだけのこと。あえて言うならば、村上春樹氏が改め
て「グレート・ギャツビー」の新訳を今出すのと同じことだと思っている。つまり「あれか、これか」といったことではなく、いま間
宮訳を強く推奨する、ということである。
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ケインズを超えたケインズの一般理論です, 2008/2/28
By 中村塾zen - レビューをすべて見る
小生の学生時代には有斐閣から出ていた参考書で「一般理論」を読んだつもりでいました。原書を読んでもわからなかったからです。いまは手元にHarvest Book社の原書があります。とぼとぼ読み進めていますが、難解です。間宮氏の本書は「一字一句に至るまで」「逐語訳」を極めたと自身がおしゃるように、実に周到な的確な訳です。小生の英文解釈の教材としては、最高の出来栄えです。最近の社会科学書の翻訳はどれも時流ものばかりで、訳に間違いも多く、勉強が浅いと感じられるからです。そういう浅薄な時代の中で、本書には訳注が300あまりもある。すでに一つの研究書です。しかもその注の内容がすごい。たとえば「消費財」と原文にあるところを「消費財もしくは資本装備」とすべきだろう、とまで読み込んでいる。ここまでくると、ケインズを越えて、本来あるべきケインズの一般理論、という域に達しています。ちょうど赤塚忠氏の「荘子」の注釈本を思い出します。
また、その注釈を合わせて読むだけでも、経済学史を修めることもできそうです。ハロッド、ロビンソンなどがケインズとどういう点で結びついていたのかを詳細に知ることができます。
大学生諸氏、間に合わせの勉強も必要でしょうが、学生時代にひとつ、原書を講読したといえるためにも本書を徹底的に精読されてはいかがでしょうか。
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やっと出た新訳, 2008/2/10
By ヒデボン - レビューをすべて見る
今までケインズの「一般理論」といえば、塩野谷九十九の決して優しいとはいえない例の訳本しかなかった。我々の学生時代は、リプリント版の原書を生協で買って読むか、一般理論を体系化したポスト・ケインジアンの教科書を読むしかなかったのだ。今回、岩波文庫から読みやすくなった翻訳が出版されたことは、ケインズ経済学をもはや「経済読み物」として読む時代になった時代だからこそ嬉しいことである。今の現代資本主義の多様な課題を解決するにはもはやケインズ理論が古臭くなったかもしれないが、やはりこの書物の持つ意味は大きい。
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先行訳にも敬意を!!!, 2008/2/9
By 野火止林太郎 (埼玉県) - レビューをすべて見る
この古典的著作に対して、☆いくつでもあるまいので5つ。
ところで、本書の歴史的訳業といえる塩野谷九十九、塩野谷祐一父子の先行訳本をおそらく読みもせず、なおかつその名を知らないからか、「塩谷」などと間違って評価するのはいくらなんでも失礼であろう。九十九を受け継いで現役版の訳を行った祐一は、優れた経済理論家であり、その著『価値理念の構造』は世界的な水準であるとされる。評者はその理論を完全に理解してもいないし、また理論家としての所論を全面的に支持するものでもない。
しかし、そうした業績を無知ゆえに無視し、読みにくいからと(読みもしないのに。読んでいれば訳者の名を間違うというような失礼をしないであろう。もしかして読んでいて間違っている?)、こうしたレビューで切って捨て、それに多くが賛同するというのは、怖ろしい。
読みもせずに古いと断ずる夜郎自大クン、それをヤンヤと喝采する浮薄な賛同者には、無知が無恥に通じるものを感じる。
読みにくいとの一言で切って捨てる軽薄、無知蒙昧の輩が、1冊の歴史的な書物を抹殺するのだ。
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間宮訳の一般理論, 2008/1/18
By USC "Trojan" (Los Angeles,CA) - レビューをすべて見る
さて、ケインズの「一般理論」はこれまで東洋経済版で塩野谷訳でしか読めませんでした。しかも訳文が幾分か悪いのが難点で、その都度原典に当たらないといけませんでした。そこで、今回岩波から間宮陽介氏が新たに訳を起こされたのが出版されました。その計画は伊東光晴氏の岩波新書で語られていました。読んでみますと、明らかに訳文が読みやすくなっています。塩野谷訳ではあまり納得いかなかった読者もこれを読めば納得出来ると思います。東洋経済版に比べて値段も安くなっているので、上下巻買っても安いです。それに文庫本ですから何かと便利な物になっています。経済学の古典を普及してくれる意味でもこの本の出版の意味は大きな物です。旧訳は旧訳で評価できますが、決して名訳とは言い難いものです。塩野谷親子の功績は大きい物がありますが、評価されて幾らですから。