小説 『この胸に深々と刺さる矢を抜け』 (上・下巻) 白石一文 (2009年1月第1刷発行)
帯に書かれた書評、上巻
われわれが見つけようとしているのは「答え」ではない。より「正確な問い」なのだ。
「様々な著述や、偉人、有名人の言葉が引用され、それらがフラグメントとして積み上げられ、
主人公の思考を展開させるよすがとなる。そして、人間を疎外する社会システムの根源的な
探求を試みる主人公の関心は、格差社会を生む社会構造への批判へと集約していく」
「小説表現の可能性を感じさせてくれる、類い稀なる一作である」
文芸評論家・榎本正樹氏
帯に書かれた書評、下巻
たとへこの世界が複雑に見えようとも、世界全体を理解していくことがひとりひとりの課題だ。
「政治、経済、宗教、そして家族や性について思索をめぐらす主人公カワバタと共に、
読者にもこの世界を形ずくる様々なものについて思考する事を求める」
「堅苦しく、読みにくい本ではない。週刊誌編集長であるカワバタが、大物政治家のスキャンダル
を追うというスリリングな展開が物語を引っ張り、所々で引用された、経済学者の言葉や
ノンフィクション作品の文章が、読者の思索を深める手伝いをする」
読売新聞
白石一文の直木賞作品「ほかならぬ人へ」に続いて
『この胸に深々と刺さる矢を抜け』を読みました。
物語は現代、主人公のカワバタは1964年生まれ、やり手で切れ者の週刊誌編集長である。
妻と娘が一人、一人の息子を幼くして喪っている、妻は東大の経済研究所の研究員である。
カワバタは二年前に胃癌の摘出手術を受け現在は再発防止の抗癌剤を定期的に服用している。
仕事では、ある大物政治家の金銭スキャンダルを追いスクープを載せた週刊誌は話題となった
会社のトップからは追い討ちを掛ける第2・第3の記事を控えるような指示が出る、取材記者にも
あからさまな妨害が入る、背景には大物政治家とからむ裏組織や警察組織までが加担していると思われる。
物語はスリリングな展開を背景にカワバタの独白とも言える彼の哲学が語られる
政治、経済、社会、セックス、等について学者や有名人の文章が引用され彼の解釈が述べられる。
現代の社会的な事件や有名人が実名で取り上げられる。
物語の展開を見れば政治スキャンダルの取材、会社の人事の裏取引、セックス、など直木賞的な
エンターテイメントの要素があり面白い、それとは別に主人公のカワバタを通して語られる
筆者の価値観や人生観ともいうべき部分や、それをさらに補完する引用文などは哲学的な
感じを受ける、この作品はこの両所が絡み合い面白く読み進めながら筆者の価値観や人生観
と言った哲学と読者自身が向き合うという白石文学の真骨頂と言える。
心に残ったカワバタの言葉
「僕は自分の必然に従って生きていくんだ」(下巻P133)
「別にやるべきことをやる必要なんてないさ。そうじゃなくて、僕が言っているのは、
欲や希望や義務感で何かをするのをやめて、自分はこうすることに決まっていると
思えることをやればいいってことだよ。そういう人生を歩めるようになれば、自分でも
信じられないような成功を収めるとか、想像もしなかったような大金を稼ぐなんてことは
起きなくなる。つまり現在の自分を見失わないで済むんだ。現在の自分を見失って、
自分は果たしてこんな自分になりたかったんだろうかって後悔することもない。そのために
必然の中で生きるべきだと僕は思ってるわけさ」(下巻P134~P135)
帯に書かれた書評、上巻
われわれが見つけようとしているのは「答え」ではない。より「正確な問い」なのだ。
「様々な著述や、偉人、有名人の言葉が引用され、それらがフラグメントとして積み上げられ、
主人公の思考を展開させるよすがとなる。そして、人間を疎外する社会システムの根源的な
探求を試みる主人公の関心は、格差社会を生む社会構造への批判へと集約していく」
「小説表現の可能性を感じさせてくれる、類い稀なる一作である」
文芸評論家・榎本正樹氏
帯に書かれた書評、下巻
たとへこの世界が複雑に見えようとも、世界全体を理解していくことがひとりひとりの課題だ。
「政治、経済、宗教、そして家族や性について思索をめぐらす主人公カワバタと共に、
読者にもこの世界を形ずくる様々なものについて思考する事を求める」
「堅苦しく、読みにくい本ではない。週刊誌編集長であるカワバタが、大物政治家のスキャンダル
を追うというスリリングな展開が物語を引っ張り、所々で引用された、経済学者の言葉や
ノンフィクション作品の文章が、読者の思索を深める手伝いをする」
読売新聞
白石一文の直木賞作品「ほかならぬ人へ」に続いて
『この胸に深々と刺さる矢を抜け』を読みました。
物語は現代、主人公のカワバタは1964年生まれ、やり手で切れ者の週刊誌編集長である。
妻と娘が一人、一人の息子を幼くして喪っている、妻は東大の経済研究所の研究員である。
カワバタは二年前に胃癌の摘出手術を受け現在は再発防止の抗癌剤を定期的に服用している。
仕事では、ある大物政治家の金銭スキャンダルを追いスクープを載せた週刊誌は話題となった
会社のトップからは追い討ちを掛ける第2・第3の記事を控えるような指示が出る、取材記者にも
あからさまな妨害が入る、背景には大物政治家とからむ裏組織や警察組織までが加担していると思われる。
物語はスリリングな展開を背景にカワバタの独白とも言える彼の哲学が語られる
政治、経済、社会、セックス、等について学者や有名人の文章が引用され彼の解釈が述べられる。
現代の社会的な事件や有名人が実名で取り上げられる。
物語の展開を見れば政治スキャンダルの取材、会社の人事の裏取引、セックス、など直木賞的な
エンターテイメントの要素があり面白い、それとは別に主人公のカワバタを通して語られる
筆者の価値観や人生観ともいうべき部分や、それをさらに補完する引用文などは哲学的な
感じを受ける、この作品はこの両所が絡み合い面白く読み進めながら筆者の価値観や人生観
と言った哲学と読者自身が向き合うという白石文学の真骨頂と言える。
心に残ったカワバタの言葉
「僕は自分の必然に従って生きていくんだ」(下巻P133)
「別にやるべきことをやる必要なんてないさ。そうじゃなくて、僕が言っているのは、
欲や希望や義務感で何かをするのをやめて、自分はこうすることに決まっていると
思えることをやればいいってことだよ。そういう人生を歩めるようになれば、自分でも
信じられないような成功を収めるとか、想像もしなかったような大金を稼ぐなんてことは
起きなくなる。つまり現在の自分を見失わないで済むんだ。現在の自分を見失って、
自分は果たしてこんな自分になりたかったんだろうかって後悔することもない。そのために
必然の中で生きるべきだと僕は思ってるわけさ」(下巻P134~P135)